いる

今日の深夜から家にいる少女に、まだ名前を聞いていない。

家に二人だけだから、名前を知らなくても不便ではない。

呼ぶと彼女をここに縛り付けてしまうのではないか?という考えが頭を離れない。よく分からない男に名前知られてるとか気持ち悪いだろう。

朝飯少なかったし、食べ物とか、彼女の服とか歯磨きなどを買いに行った。婦人服売り場がかなり恥ずかしかった。

マンションのこの802号室が俺の家だ。

家を出るとき鍵は掛けなかった。彼女がこの家を出ていっていたら、さっき買ったものは妹にあげよう。

そう思いながらドアを開ける。


「あ、お、おかえり、なさい」


彼女がリビングから顔を出した。息を飲んだ。

なにもかも飛ばして結婚したくなった。


「……これ、買ったから、使え」


「でも……」


「使え」


「……は、はい。ありがとう、ございます」


前の言葉が効いたのか、素直だった。

受け取った彼女は恐る恐る袋の中身を見る。


「服、こんなにいっぱい、申し訳ないです……や、やっぱり……」


「じゃあ服やるから、また飯作ってくれ、二人分な」


俺は安心させるように彼女の頭を撫でた。髪の毛が柔らかかった。


「はい」


そう返事をした彼女の顔がほんのり赤く染まっていた。

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