即オチ幼馴染は、料理勝負を挑んで裸エプロンの罰ゲームを受ける。

 休日のお昼時。

 買い出しに出掛けている母上様に変わり、僕はエプロンを纏いキッチンに立っていた。

 冷蔵庫を開き、残っている食材を眺めて考える。さて、なにを作ろうか。


「ナギサー! 私が来ましたよー!」


 そんな僕の思考を遮るように、来客を告げるのはインターホンではなく、隣に住む幼馴染の快活な声だ。

 玄関の鍵は閉まっていたはずだが、平然と家に上がり込んできたルコは、勢いよくリビングに飛び込んできた。


「そんなオ〇ルマイトみたいなこと言われてもさぁ」

「? ダイナマイト? 自宅を爆発させるつもりですか?」

「知らないならいいんだけど」


 筋骨隆々になられても困るし。今のままのルコが一番かわいい。

 僕は冷蔵庫を閉める。


「というか。毎回疑問だったんだけど、どうやって家に乗り込んでくるの? 母上様がいなくて、僕一人の時も上がってくるし」

「なにを今更」


 呆れた、というようにルコは腰に手を当てる。

 そして、豊かな胸元が押し上げるブラウスの胸ポケットから、キラリと光る物を取り出した。ルコはそれを自慢げに突き出す。


「ナギサのお母様に合鍵を貰ったからに決まってるじゃないですか!」

「うーん。家族ぐるみの付き合い」


 いくら長い付き合いの隣人とはいえ、合鍵まで渡していいのだろうか?

 おっとりとした母上様の不用心っぷりが心配だ。受け取るルコもルコだが。


「で。なにしにきたの? 聞かなくてもわかるけど」

「じゃあ聞かないでください」


 ルコがむくれる。

 わかりやすい奴と言われているようで嫌だったのかもしれない。馬鹿にしたつもりはないんだけども。


 ズビシッ! とルコが人差し指を突き出してくる。


「勝負ですよ勝負。今日こそ決着を付けましょう!」

「エッチな罰ゲームを受けに来た、と」

「違います!」


 真っ赤な顔で全否定。

 ただ、僕の中では勝負=エッチな罰ゲームの図式が出来上がっている。僕も稀に負けることはあるけれど、だいたい墓穴を掘って罰ゲームを受けるのはルコなのだ。


 幼い頃から繰り広げられてきた勝負からの経験則なのだけど、ルコは自信満々だった。どれだけ負けても自信を失わない鋼の心だ。羨ましいね。


「今日こそは絶対に、私が勝ちますので!」

「そっかー」


 僕も勝負をすることに異論はない。けれど、タイミングが悪かった。


「けど、残念。見ての通りちょっと忙しいのよね、今」

「料理……ですか?」

「そ。昼食準備中」


 エプロンを引っ張る。


「僕の分だけならともかく、母上様の分もあるから、適当にはできないのよね」

「む……それは、仰る通りですね」


 ルコと母上様は、本当の母娘のように仲が良い。

 母上様の食べる料理とあっては、文句も言えないらしい。燃え上がっていたやる気は見るからに勢いが弱まる。

 けれど、諦めたわけではなかったらしい。


「それなら、料理勝負というのはいかがでしょう?」


 大きな胸を支えるような、エッチな腕組みをしてルコが言う。


「ご昼食の準備もできますし、勝負もできます。一石二鳥のNiceナイス ideaアイディアではありませんか?」

「発音いいねぇ」


 ふふんっ、と自信満々に大きな胸を張る。


「うーん」


 僕は悩む。

 提案としては悪くない。勝負と料理を兼ねるのはルコの言う通りナイスアイディアではある。


(けど……)


 ちらりと、ルコを見る。己の素晴らしい提案に酔っているかのような表情に、僕は考えるのを止めた。


「まぁ……ルコがいいならいいけど」

「やった!」


 拳を握って嬉しそうに跳ねる。


「負けたら裸エプロンね?」

「……え゛」


 料理といえば裸エプロンだよなぁ。

 ルコの裸エプロンを想像してワクワクする僕とは違い、ルコは先ほどの喜びようが嘘のように固まってしまう。


「うっ」


 裸エプロンを着る己の姿を想像したのだろうか。

 ルコの頬が赤く色付く。


「うぅううううう……っ」


 悩まし気に唸り、頭を抱え、しゃがみ込んでしまう。

 流石に裸エプロンはダメだったかぁ、残念。僕が諦めかけていると、飛び上がるようにルコが立ち上がる。絞り出すように、声を発した。


「わか……りましたっ」

「苦渋の決断で受けるほどの勝負じゃないでしょうに」


 真っ赤な顔で、涙目になりながらルコは受けて立つ。

 そこまで嫌なら勝負をしないなり、罰ゲームを変えるなりすればいいのに。融通が利かないというか、負けず嫌いというか……。

 まぁ、ルコの裸エプロンが見られるこの機会。逃す気はないから、僕からは撤回したりしないけどね!


「ふんっ! 苦渋の決断ではありません!」


 ぷいっとそっぽを向いて、意地を張る。


「余裕なのも今の内ですよ? 私が勝ってナギサを裸エプロンにしてあげます――ッ!!」


 堂々とした勝利宣言。

 これはもしかしたらがあるかもしれないと僕は身構えて――


「どう゛じでがでな゛い゛ん゛でずがぁ゛……っ゛」

「エプロン一枚とか超興奮するんだけど……っ!!」


 料理勝負後。

 フリッフリの真っ白エプロンのみを身に付け、胸や下半身を隠すように体を抱きしめる、エロさ120%の裸エプロンルコちゃんをスマホのカメラに収めていた。


 エプロンの胸元だけでなく、脇からも零れ落ちそうな白く、モチモチとしたおっぱい。

 膝上までを申し訳程度に隠す白いエプロンからチラチラ覗き見える太腿のなんとエッチなことか。

 なにより、羞恥で顔を赤らめ泣きじゃくる表情は、言語化できない心にクルものがある。

 僕が生まれたのはこの時、この一瞬のために違いない……!


「後ろに……後ろに回り込みたい!」

「絶対、絶対来ないでくださいよっ!? 来たら全力で泣きますからね!?」

「それも見たい」

「鬼畜っ!」


 鬼畜生と呼ばれようとも、男には成さねばならない時がある。

 ま、本当に危ういとこが見えてしまったら興奮もそこまでだし、本気で泣かれて嫌われたくないからやらないけど。


 ルコの心とチラリズム、両方の限界ギリギリを攻めつつ、体をエプロンで隠そうとすれば隠そうとするほどエッチッチになるルコに、気になっていたことを聞いてみる。


「それにしても、料理上手でもないのに、どうして挑むかね?」

「今日ならいけると思ったんですっ!」

「短絡的ぃ」


 ルコに作ってもらう料理は好きだからいいけど。


 母上様が帰って来て、脱兎の如く僕の部屋に駆け出したルコ。そのとき見た、シミ一つない真っ白なお尻を、僕は心のアルバムにそっと仕舞い込んだ。

 鼻から赤い生命が滴り落ちるほど興奮した。

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