色々と発展途上

 立花が女子生徒を襲うも失敗し、女子生徒を庇った男子生徒に暴行をしたという事実はニュースとなって駆け巡った。

 彼をいいコーチだと慕っていた生徒はショックを受け、教頭など学校の面目を何よりも優先する奴らは周りの対応に四苦八苦している。

 そして更なるニュースがあった。立花の親父はかなり大きな会社の社長らしいのだが、立花の逮捕を引き金にするように違法な行為をしていたことが明るみとなり揃って逮捕に。立花のことだけ気にしていた俺と絢奈にとって、その親父までが連鎖するように逮捕されたのは驚いた。


「悪いことは必ずバレるからやるもんじゃないってことさ」


 楽しそうに笑みを浮かべながら神崎さんがこう言ってたけど、何となくこの人が噛んでるんだろうなと思うと怖くなる。母さん曰く、味方ならここまで心強い子はいないとのことだ。

 色々と気になることはあるが、怖い大人の世界に足を踏み入れるのはやめておこう。さて、今日は体育祭の準備はないのだが外にいる。もちろん隣には絢奈も居た。


「暑いですねやっぱり」

「あぁ……風が吹いても温くて嫌になるな」


 風が吹いて頬に当たるのは温い風……うん、やっぱりこんな日は冷房の効いた部屋でのんびりするに限る。だがしかし、こうして俺と絢奈が外に居るのは理由があるのだ。


「205号室でしたっけ」

「確かそうだったはず」


 俺たちが向かっているのは病院で相坂の見舞いが主な理由になる。

 立花に殴られ蹴られの暴行を受けた相坂だったが、本人はピンピンしていたものの数日は入院しろと言われてしまったらしい。元々見舞いには行くつもりだったけど、相坂から暇で死にそうだから助けてくれとメッセージも来ていた。


「そう言えば真理ちゃんも行くって言ってましたよ」

「そうなんだ」

「はい。真理ちゃん、やっぱり責任を感じてしまっているみたいで」


 悪いのはどう考えても立花でこれは疑いようのない事実だ。ただ自分の代わりに相坂が傷ついてしまったと思ってしまっているらしく、真理はかなり責任を感じているらしい。相坂も相坂でそんなことはないとずっと伝えているようだが……おっと、そうこうしているうちに病院に着いた。

 受付で念のため相坂の病室を確認し、絢奈と一緒にその部屋に向かう。


「……?」

「斗和君?」


 相坂が居る病室に近づいた時、中から話声が聞こえた。おそらく来ているのは真理だろうけど、どこか真理が泣いているというか、そんな感じの声だったので足を止めてしまった。


『相坂先輩……相坂先輩が無事で本当に良かった……っ!!』

『あ、あはは……まあ俺としても内田さんを守れて良かったよ。本当に良かった』


 泣いている真理を相坂が慰めている感じかなこれは。


「……いいタイミングなのか悪いタイミングなのか分かりませんね」

「だな。少し待ってみるか」


 絢奈と共に苦笑して少し時間が過ぎるのを待つ。

 二人の話がひと段落したのを見計らって俺と絢奈は病室に入った……のだが、ちょうど相坂が真理の頭に手を当てて撫でている瞬間だった。


「あ……」

「ふふ、これはこれは」


 固まる俺とは反対に楽しそうな絢奈の様子。真理は顔を真っ赤にして相坂から離れ、相坂も咄嗟に手を離した。ただ、お前自分が怪我人なの忘れてるだろ。


「っ! やばい……ちょっと脇腹に響いた……」

「あ、相坂先輩!」


 まるで漫才でも見ているかのように二人の表情がコロコロと変わる。俺は小さく溜息を吐いて手に持っていた物を机に置いた。


「ほれ、お見舞い」


 俺が机に置いた物、それはお見舞いの定番と言えるフルーツの盛り合わせだ。


「悪いな雪代、それに音無さんも」

「いえいえ、相坂君が元気そうで良かったです」


 絢奈の言うように本当に大きな怪我がなくて良かったと思う。フルーツを見てお腹を鳴らした相坂に傍に居た真理が笑みを零す。まあ育ち盛りの相坂に病院の飯は量的に足りないのかもな。一応リンゴが簡単に剥ける道具も一緒に買ってきたしちょうど良かった。


「あ、私にやらせてください!」

「お、頼むな」

「はい!」


 真理がリンゴを剥いてそれを相坂に食べさせるのだが……一口一口貰うたびに顔を真っ赤にするものだからその都度真理が首を傾げていた。初々しいな、二人のやり取りに俺と絢奈は揃って笑みを零す。


「何が暇すぎて死にそうだよ。真理が来てくれてるじゃないか」

「いやそれはもう最高に嬉しいんだけどよ。やっぱり男友達と会いたいって気持ちもあってだな」

「ふふ、真理ちゃんが来ると最高に嬉しいんですって」

「ほ、本当ですか!? なら私、これから出来るだけ来ますね!」

「あ、いやその無理はしなくても――」

「……ご迷惑……ですか?」

「そんなことはないぜ全く! 全然来てくれ――いってええええええっ!?」

「あ、相坂先輩!?」


 そしてまた始まった漫才のような何か、こうして見てみるとこの二人いいコンビだなって感じがする。絢奈も笑顔で見守ってるし俺と考えていることは同じかもしれない。

 それから暫く四人で会話を楽しみ、相坂と真理を二人にしたいと考えて俺と絢奈は挨拶をして病室を出た。


「相坂君元気そうで良かったですね。真理ちゃんも少し表情がスッキリしていましたし」

「そうだな。色々あったけど、二人が笑顔になってくれて良かった」


 ……俺だからこそ、もしかしたらあったかもしれない世界を知っている。この場合だと真理を襲うのは立花で、修のような思いをするのが相坂だった可能性もあったわけだ。


「……なら元々真理に手を出す奴は出てこないのか?」


 口に出してみて疑問に思う。こうやって変化が起きた以上、何かしら揺れ戻しを警戒はしておくべきなのかもしれない。


「斗和君? どうかしましたか?」

「いや、何でもないよ」


 心の片隅には留めておこう。あまり気にしすぎて、近くにある一番大切な存在を守れないなんてのは勘弁だからな。

 病院から離れた俺たちは特に用もないためすぐに帰ることに。家に帰る途中、絢奈からこんな提案がされた。


「斗和君、今度プールにでも行きませんか?」


 プールに行こうとのお誘い、俺はすぐに頷いた。この暑い時期だからこそちょうどいいし、確か新しいプールの施設が最近オープンしたはずだ。いつ行くかはその内決めるとしようか、今日のこの後の予定だが最近絢奈は泊まることが多かったので今日は家に帰ることに。


「それじゃあ斗和君、夜にまた連絡しますね」

「あぁ。またな」


 いくら付き合っているとはいえ高校生でこの寝泊まりの頻度は少し多すぎかもしれない。まあそれすら気にならないくらいだし、お互いの親がそもそも何も言わないと言うか寧ろ大歓迎みたいな部分があるからな……。


「……ま、贅沢な悩みだよな」


 小さくボソッと呟く。

 とはいえ夏休みは始まったばかり、これからたくさん絢奈と思い出を作っていこう。絢奈と結ばれたこの年が特別であり、ずっと忘れることがないくらいに素晴らしい思い出をたくさん作ろう。








 斗和に家まで送ってもらった絢奈は今日の出来事を思い返していた。後輩でもある真理の笑顔、そして斗和の友人でもある相坂が元気で居てくれたことは嬉しかった。斗和が思ったように、絵支に関しては若干モヤモヤする部分はあるがいずれ機会があれば聞きたいとも思っている。

 さて、今日の帰りに絢奈は斗和とプールに行く約束をした。プールに行くということは水着が必要になるわけだが……絢奈はクローゼットを開けて去年に着た水着を取り出す。


「……新しいの買った方が良かったかな。でも去年のが着れるなら別にいいですよね」


 白を基調としたビキニの水着だ。絢奈の黒い髪と対照的なその色はよく彼女に似合っている。斗和と一緒に買い物に行った際に、彼の目の前で試着し一番反応が良かったのがこれだった。絢奈は水着を片手に鏡の前に立つ。


「体系の維持には特に気を付けてますから心配はないはず……太ってはないはず!」


 こういう水着に関してはあまりウエストは関係ない気もするが……絢奈はよしっと意気込んで服を脱いだ。下は問題なく穿ける……ならば上はどうだ。

 大きくはあっても形は崩れておらず、正に理想の形とも言えるソレを支えるように水着を付け、そして紐を背中で結ぼうとした時に絢奈はあっと声を漏らした。


「……ちょっとキツイです」


 急遽、新しい水着を買いに行くのが決まった瞬間だった。

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