第19話
同じような日々に少しだけの変化を加え、忙しない日々を過ごしていた。
ツムギの配信も順調である。チームリーダーのカエデからインゲームリーダーを任されるほどだ。
一般兵から司令官に大昇格である。
ツムギの押し引きの判断は完璧で、驚くほど戦況を把握している。俺が沙希へ教えた全てをしっかりと実行しているのだ。
司令官となったツムギはやりやすかっただろう。
自分の発言で味方が引いたり、詰めたりする。誰を先に狙うべきか、どこへ向かうか、どのポジションを取るべきか。
ツムギの言葉一つで進行が決まる。
判断一つで状況を左右させ、壊滅した場合は戦犯扱いになるが、戦況を把握しているツムギにとってミスはない。
漁夫に来るチームすらも頭に入っており、防衛の仕方も徹底して教えている。
三人の対面力は申し分なく、ツムギの指示によってプロゲーマーを一人ぐらいなら三人で引き殺せるはずだ。
初配信とは違う。
チームを組むカエデもリンもツムギのことを実力的に認めていた。
あとは練度を上げるだけ。
そうこうしていると、スクリムが行われていく。
スクリムとは練習試合の意味だ。
本番の大会と同じメンバーが参加し、大会のように進んでいく。大会で放送する機材とかの確認もあるが、選手達にとってはランドマーク争いの意味合いが強い。
ランドマークとは航空機から降りる場所を指すのだが、どうしても降下場所は被ってしまう。場所によっては物資の質が違うため、より良い物資を求めなければ勝てないからだ。
しかし、大会ではキルポイント以外にも順位ポイントが大事なため、初動で敗退するのも避けたいところ。
そこで、行われるのがランドマーク争い。
降りる所を一点に絞ったチームがここに被せてきたら必ず倒すぞと見せ付けるのである。
負けたチームは大会では順位ポイントを稼ぐべく、生き残るために初動を被せるのはやめる。
カエデチームが選んだランドマークはマップ中央の小さな集落だ。誰も降りるチームは居ないほど物資の量は微妙だ。
俺が勝つために教えた場所だ。ランクでもよく行くところである。
第一安置が収束したと同時に最終安地を予想し、強ポジを陣取る戦法。そう上手くいくとはいかないだろうが、俺は沙希に一冊のノートを渡している。
安地収縮によるパターンから、どのチームが最終円に絡んでくるかも記載しているものだ。
スクリムで決まっていく各チームのランドマーク。全員が最速で移動したときにかち合う場所や、移動先のルート。
個人別に行動の癖から愛用している武器。戦うときに有利な距離など。
調べられるだけ調べた。部外者の俺がこういうことをやっているのはおかしな話だが、他のチームも調べられることは調べている。
俺はそれを詳細にしたノートを渡しただけで、ズルではない。あとは、そのノートを受け取った沙希がどう活用するか。
「頭がパンクしそう……」
バタバタと足を動かしている沙希は俺のベッドで横になってノートを開いている。
エイム練習をしていた俺は首だけ向け、小言を呟く。
「なんで俺の部屋に来るんだよ……」
「いいじゃん。分からないことあれば、すぐに聞けるし」
「……いいけどさ。あとでまとめて聞けばいいじゃねえか」
「忘れちゃうかもしれないじゃん。邪魔はしないからいいでしょ」
「……気が散るんだけどな」
俺の呟きは聞こえていないのか、出ていく様子はない。仕方なく、何も言わずに俺はランク戦を始めていく。
沙希とやっているサブ垢ではなく、メインアカウントだ。キャラ選択に移り、被らないように降下していく。
「え……レジェ348位?」
「あ?」
いきなり横に立ってきた沙希にヘッドセットをずらす。
「え、やばっ。上から数えて300位ってヤバない?」
そういえば、メインアカウントでランク戦を見せたのは初めてかもしれない。前からプレ帯ってことは言っていたのに、右上のマークを見て驚いているようだった。
「……学校とかあるから、いつもギリギリに落ちてる」
今回は色々と重なり、ランク維持は厳しそうだ。
「でも、すごすぎっ。restart……? 優作の名前って、やっぱりリスタートなんだ。へぇ~」
呑気に俺のプレイヤー名を見てくる沙希へ、ため息を吐く。
「邪魔しないでくれよ。ランクだし、割と真面目にやるから」
「おっけ。見てる」
といって、ゲーミングチェアに体重を預けてくる沙希。
俺は文句を言うのをやめ、武器を取って被せてきたチームを壊滅させるべく意識を切り替えた。
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