Capacity - 夜デート -

Capacity - 夜デート - 第1話 手を繋いで

最近唯依は髪を切った。


どういう心境の変化かを聞いたけれど、気分転換としか答えてくれなかった。


ベッドで夢中になっていると時々邪魔だなと思うことはあるものの、綺麗な髪だったのにと勿体なさはある。


でも、半面で元々素地のいい唯依はショートヘアも良く似合う。髪を短くしても男性みたいに見えるではなくて、甘さを控えめに自立した女性のイメージが先行するようになった。


まあ中身はそんなに変わってない。

もう少し年を重ねて落ち着いてきたら、もしかして私の元々の好みに合ってくるのかもしれないと、ちょっと期待はあったりする。


仕事終わりに待ち合わせ場所に向かうと、欲目ではなく唯依には真っ先に視線が行く。身長は私と同じくらいだけど、元々の手足の長さに小顔も相まって、実際よりも背が高く見えて、知り合いじゃなかったら芸能人かと勘違いするかもしれない。


「唯依」


声を掛けると口元を緩めて唯依は全開の笑顔を見せる。自惚れかもしれないけど、唯依は本当に私のことが大好きで、周りを気にすることもしない。


「お疲れさま、七海」 


「唯依もお疲れ」


最近二人で外に出るのは瑛梨さんとゆかりの食事会ばかりだったので、たまには外で待ち合わせて夜デートしようが今日の趣旨だった。


早速唯依は私の腕に自分の腕を絡めてくる。


唯依は人目を気にせずくっついてくるので、人前でそういうことをするのも私は慣れてしまって、抵抗がなくなろうとしている。


今までの恋人は迷惑を掛けてはいけないと、腕を組むことすら気を遣ってきたけど、今は気遣いすらしなくなった。唯依は胸を張って私を彼女だと言うだろうし、私も唯依なら言ってもいいか、と深く考えることはやめている。


私も唯依も公言はしていないけど、バレて立場が悪くなるような仕事にはついていないし、二人とも生来の性格からその時はその時に考えればいいと無駄な思考はしないタイプだった。


駅を出ると人波に紛れて、ライトアップをしている夜の公園まで手を繋いで歩く。幸い密集しないと歩けないという程の人出ではなくて、公園に入ると一直線だった列もばらけて、私たちも自分たちに合ったペースで園内を回る。


「七海ともっともっと色んなところに行きたい」


「国内? 海外?」


「どっちも。今日みたいなデートもいっぱいしたい」


「それはいいけど、でも唯依って今までデートでいろいろ行き尽くしているんじゃないの?」


唯依は恋人がいなかったことなどほぼないというもて具合で、唯依に強請られたらきっと過去の恋人だってどこへでも連れて行こうになったはずだった。となると、どうやっても被りそうな場所を選んでしまう気がした。


「旅行に行くは何回かあったけど、そんなにあちこち行ってないから」


「そうなんだ」


「ちょっと行くの面倒だったし」


唯依は出不精というわけではないので、それは意外な答えだった。


「嫌なら無理につき合わなくていいよ?」


「七海は別。七海とは出かけたいの」


ぎゅっと片腕を抱き込まれ、分かったからと唯依を落ち着かせる。


人の流れよりもゆっくり歩きながら二人で公園を回って、一番奥で開催されているプロジェクションマッピングまで辿りつく。ここが今日のメイン会場だった。


明治だか大正だかに建てられた建物にプロジェクターで映像が映されていて、綺麗と思うよりも物珍しさで、それに見入ってしまう。


「七海」


隣に立つ唯依に名を呼ばれて応答すると、謝りが返されて、その意図が全く掴めなかった。


今日は待ち合わせに遅れてもいないし、いつのことを唯依は謝ったのかが分からない。


「何で謝ったの? 最近謝るようなこと何もしてなくない?」


唯依の父親の件があったのはもう3ヶ月も前のことで、そこから先は取り立ててもめ事もなかったはずだった。


「…………七海にいっぱい酷いことをしてきたでしょ」


「どこからのことを言っている?」


唯依なりに酷いことをしたという自覚はあったらしいと、わざと私は説明を求める。


「初めから。真凪のことを持ち出して、無理矢理した時から強引につき合わせたことも含めて全部」


「酷かったね。唯依には人の心がないんだろうなって思ってたよ」


落ち込んだのだろう俯いた存在の腰に手を回して、私は自らに引き寄せる。


「途中まで唯依のことを好きじゃなかったし、分かり合えることなんかないんだろうなって思ってたのは本当だよ。でも、唯依が私に届こうって藻掻いてるのに気づいて、私もちょっと変わらないとなって考えたかな。唯依だから、なんてフィルターで見るんじゃなくて、恋人として唯依を扱えてないなって反省したんだ」


「七海……」


泣いてるな、と顔を寄せると案の定唯依の目は潤んでいる。映像が映り込んでいても、唯依の視線は私を向いていて、そのまま顔を近づけてキスを重ねた。


「愛してる。唯依が一番好きだから、もう心配しなくていいよ」


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