エイフィア
腰まで伸びたサラりとした金髪に、元気をもらえるような可愛らしい顔立ち。透き通った碧眼と潤いを見せる綺麗な桜色の唇。
身長は少し高めで、ラフで少し露出の多い軽装がスレンダーな体つきをはっきりとさせている。
もし、彼女が往来を歩けば男女問わず殆どの人間は目を惹かれるだろう。
それぐらいの美貌。レイシアちゃんと負けず劣らずの美しさ。
更に、彼女に惹かれる部分は特徴的な長い耳だ。
普通の人よりも長く、先が尖っている。
長い金髪でも隠し切れず、自ずと視線を向けてしまうほど。
そんな耳がある人間は、周囲にこう言われている―――
「エル、フ……?」
突然現れた少女に、レイシアちゃんは驚いた様子を見せる。
「タクトくん、ただいま!」
「あれ? 今日は早かったねエイフィア」
「うん、案外パパッと終わらせられちゃったんだよね~」
エルフの少女―――エイフィアはにっこりと笑顔を浮かべてくる。
この人こそ、僕と一緒に暮らしていて冒険者兼店員をやっている女の子だ。
そして、行き倒れているところを助けてしまった少女でもある。
「およ? 珍しく誰かいるね~! っていうことは……タクトくんの恋人さん!?」
「お客さんという発想を持ちなさい」
エイフィアが店内にいるレイシアちゃんの姿を見て驚いた。
滅多に人が来ることはないから驚くのは無理もないんだけど……せめてお客さんだという反応を見せてほしい。
いや、僕もレイシアちゃんが来た時はお客さんだとは思わなかったけどさ。
「こ、この人がタクトさんの言っていた―――」
「行き倒れていた残念な女の子だね」
「タクトくん、とりあえず裏に行こ? お姉ちゃん、どう説明されてたのかすっごい気になるんだよ」
事実を説明しただけだというのに、僕はどうして裏でシメられなければいけないのだろうか?
別に僕は間違ったことは言っていないわけだし、そもそも残念なのは出会った時からよくよく理解しているのでどこにも誤解が生まれる要素はないのだけどもいたいいたい関節があらぬ方向に……ッ!!!
「反省してない顔しちゃダメじゃん」
「関節曲げてきちゃダメじゃん!?」
いつの間にかカウンターの中まで入って来て関節を曲げにかかってきたエイフィアに驚きを隠し切れない。
でも、関節をシメられているこの状況……いたいけど、小振りながらかすかな柔らかい感触がこれまた素晴らし……痛い。
「あれだよ? タクトくんはそろそろ女の子の扱いをしっかり理解しなきゃいけないんだよ! 女の子はね、常に褒めて褒めて甘やかしてあげる存在なんだから、残念とか食い倒れていたとか失礼なことは———」
「でも、事実じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ腕関節がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「そういうところだよ、タクトくん!」
可愛くて細身なエイフィアからどうしてここまでの力が出せるのか?
ミシミシ、と聞こえてきちゃいけなさそうな音を自分の体から聞きながら、そんなことを思った。
「あ、あの……」
僕が関節を曲げられていると、蚊帳の外にいることになってしまったレイシアちゃんが声をかけてきた。
「あ、ごめんねっ! お客さんの前でこんなことしちゃいけなかったよね!」
レイシアちゃんに見られていると気づき、腕を離してくれたエイフィア。
腕関節に走る痛みの余韻がつらたにえん。
「私の名前はエイフィアです! どんな説明を受けたか分からないけど、一応このお店の店員さんもやってます!」
「は、初めまして。私はレイシア・アスタルテと申します」
「うん、よろしくね……ん?」
レイシアちゃんの名前を聞いた途端、エイフィアの表情が固まった。
そしてしばらく固まったあと、何故かいきなり態度が変わっておずおずとレイシアちゃんの顔を見始める。
「今、アスタルテって言わなかった……?」
「はい、言いました」
「…………」
エイフィアは眉間を押さえる。
先程からコロコロ様子が変わっているけど、どうしたんだろうか?
「え、えーっと……アスタルテって、あのアスタルテ家?」
「どのアスタルテを申しているのか分かりませんが、私はその家の娘です」
「…………」
エイフィア、もう一度眉間を押さえる。
きっと、冒険者のお仕事で疲れているんだろう。
ゆっくり家で休んできてほしいものだ。
僕が疲れが溜まっているだろうエイフィアの心配をしていると―――
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!???」
何故か唐突に大声を上げてしまった。
「エイフィアうるさい、ご近所迷惑」
「だ、だだだだだだだって! アスタルテって! アスタルテって!」
大事なことじゃないような気がするから二回も言わなくていいよ。
「知ってるよ。僕もこの前自己紹介されたから」
「平然!?」
平然だとも。
「え!? これって私がおかしい感じなの!? 普通、こんな反応するんじゃないの!?」
「えぇ、自分で言うのもなんですが、大抵の人にはそのような反応をされます」
「ですよね!? そうですよねレイシア様!」
同意を示すレイシアちゃんと、いきなり敬語に変わってパニックになるエイフィア。
どうしてそんなに驚いているのだろうか? 僕は疑問である。
本当に疲れているんだろう。
とりあえず、落ち着いてもらうためにもコーヒーでもそっと出してあげよう。
「コーヒー飲んだところで落ち着かないからね!?」
怒られた。
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