第19話
雅童が現れると場の空気が一変した。長盛に追従を述べていた者たちは互いに顔を見かわし、自分たちが醸していたそれまでの空々しい雰囲気を誤魔化す様に咳払いをしたり扇を使ったりした。
「ああ、雅童か」
上座に据えられた椅子から長盛が軽蔑と嫌悪の入り混じった声を掛けた。長盛が左手を上げると参集していた者たちは席を外す為に腰を上げた。皆、雅童を避ける様に顔を伏せて出て行く中にひとり歩み寄る者がある。隆正が近づくと雅童は肩をすくめて鼻を鳴らした。そんな雅童を隆正は拳で打つまねをした。
「どうしてだ?」
と長盛が問い掛けた。しかし雅童は無表情で見据えるだけで答えない。
「ここに集まった者たちは皆そなたより位の高い者たちだ」
それが何だとばかりに雅童は腕組をした。
「我々はそなたが御出ましになるのを待たなければならぬのか?」
長盛が語気を強めて言った。
「以後改めぬのならば罰は免れぬと思え」
苦々し気に長盛が吐き捨てる。用はそれだけかとばかりに雅童は背を向けて退出してしまった。盃を握る長盛の手がわなわなと震えていた。
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