第18話

 長盛公からの使者でございます、と告げられた雅童だったがちらっと眼を上げただけで居住まいを正そうともしなかった。これには使者の方が面食らった体だった。盃を持ったまま雅童は、早く用を述べよとばかりに使者を睨み付ける。使者には無礼を詰る胆力はなかった。震える声で精一杯の虚勢を張りながら、長盛からの用向きを告げた。

 雅童は返事をしない。使者が目に見えて狼狽えている。見かねた側近が助け舟を出した。

「長盛公からのご命令です。早速出向かれた方が良いのでは…」

 使者への無礼はすなわち長盛への無礼である。使者の体は怯えと憤りの交じり合った感情で小刻みに震えていた。

 雅童は別の事を考えていた。若犬丸が戻らない。大した任務ではなかった。村ひとつ焼き払うだけの事に、若犬丸がしくじる筈がない。しかし一人も戻らぬのだ。若犬丸が裏切ったのでは、と讒言する者もあったが、雅童にもまだその方が有り得そうな気がするのだった。

「雅童様」

 側近が重ねて問うている。雅童は盃を干すと、無言で立ち上がった。

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