星々の交流-コンジャンクション-
第18話 食料事情
「えっ、じゃあ私たちが食べてるのって、何だかよくわからない物なの?」
ある日の午後、聞かされた衝撃の事実にヤコは目を丸くした。厨房カウンターの向こう側にいた調理担当ナツハが肘をつきながらカラカラと笑う。
「そりゃそーよ。こんだけの人数の腹を満たせる量なんて、街から拾ってくるだけじゃとても賄えないって」
立ち上がった彼が、入っておいでよと手招きするので厨房にお邪魔させてもらう。食糧庫に入ると、壁から銀色の排出口が突き出ていた。そのすぐ横にはレバーがあり、引くとその分だけ『小麦粉っぽい何か』が、出てくるらしい。同様にコメ、調味料、野菜、加工済肉の排出口がずらりと横に30ほど。まるでスーパーマーケットだ。
「たぶんだけど、この船内のどこかに全自動の農場でもあるんじゃないかって」
「そんな物どこに……」
「じゃあフードプリンターだ! 宇宙船なんだからそのくらいの設備があるんじゃね? そういうことにしておこうよ」
ヤコはうーん?と、首をひねる。腑には落ちないものの、あまり深くは突っ込まないことにした。ここでグダグダ言っても、成長期の自分たちのお腹を満たすのに背に腹は代えられないだろうし。
「まー、今ンところ腹壊したって報告も上がってきてないし平気っしょ。飢え死にするよりはマシマシ。あ、オレに作れるものだったら何でも作るから気軽にリクエストしてね。我らがガードさんの為なら喜んで腕を振るいますぜ」
「ありがとう」
ふふ、と笑い合っていたその時、厨房のドアがスライドして誰かが飛び込んできた。
「ナツハ! あれ、ヤコも?」
ハァと、息を一つついた少女はツクロイだった。ヤコの姿を認めると少し微妙な顔をする。だがすぐに気を取りなおすと、お団子からほつれる髪を押さえながら言った。
「ちょうどよかった。大変よ! ニュースニュース、大ニュース!」
「ンだよぉ、また新しい服のアイディアでも思いついたかぁ?」
げーっと嫌そうな顔をしたナツハだったが、次の言葉に座っていた台からズルッとずり落ちそうになった。
「他の船が近づいてきてるのよ! この前と違って完璧な船、動いてる船!」
***
今までにない事態に、船内はたちまちパニックとなった。すぐにガードたちはデッキに集められ待機するように命じられる。
「なんかよぉ、新入りが来てから異常事態起きすぎじゃね?」
「偶然ですって、ムジカさん……」
「疫病神だったりして」
「ミミカちゃんまでぇ!」
すっかり打ち解けた二人にいじられながら、ヤコは遠くの方に目を凝らす。砂けむりの向こうに黒いシルエットが見える。距離にしてまだ5、6キロはあるだろうか。
「こっち来てる……ぶつかったりしないよね?」
「え!」
ナナの最悪の予想に青ざめる。おさげ眼鏡のイツも慌てたように航路監視係に問いかけた。
「だ、大丈夫なんれしかぁ、ニアしゃぁん」
「まぁ、こっちは速度調整できるし大丈夫。よっぽどの事が無い限りへーきへーき」
あぐらを掻いたニアは手でひさしを作りながら彼方の船を見ている。ガードたちは揃いの制服を着ていたが、彼の場合はその上から科学者のような白衣を羽織っていた。今日の少しだけ冷たい風にはためいている。
「遅れてすまない、みんな居るな」
そしてようやくリーダーが登場する。振り向いたガードたちは、レイ達が奇妙な物を抱えているのを目にした。物干し竿を持った彼女の後ろから、白いシーツを抱えたハジメがついてきている。
「おいレイ、正気か。こういうのは初手が大事なんだぞ、いきなり降伏してどうする」
焦る副リーダーの声でだいたいの察しがつく。レイはあちらの船に向かって白旗を上げるつもりなのだ。そちらを振り返った彼女は相変わらず穏やかな笑みを浮かべながら相棒を諭す。
「なに、平和的交渉のためにも敵意がないことは示しておくべきだろう。白旗は降伏という意味だけではないぞ」
「だからってな」
「少なくとも、向こうは同じ考えを持っているようだが?」
え、と皆が振り返る。彼方からゆっくりと近づいてくる船のデッキでは、白いシーツが力いっぱい振られていた。
それでも渋るハジメを説き伏せてこちらからも白旗を振り返す。だいぶ見える距離になってきた頃、向こうのデッキから一人の人物が飛び降りたのがわかった。茶色のマントを羽織った影は常人には出せないスピードでこちらへと駆けてくる。
「おいおいおい、あっちにもガードが居るってのかよ」
ムジカの固い声に緊張が走る。やがて、船のすぐ下まで来た人物はタンッと地を蹴った。緊張する皆の前にふわりと降り立った彼は、フードを目深に被っている。
「止まれ! 何者だ」
太刀に手を掛けたハジメが鋭く問いかける。その人物は慌てたように両手を上げ、涼やかな男性の声を響かせた。
「うわっとと、敵じゃないですよ。白旗見ませんでした?」
そのままフードを後ろに引き下げる。その下から現れた精悍な顔立ちに、展望ルームに押し寄せていたクルーたちからどよめきの声が上がった。
「え……AKITO?」
「キャー! ウソぉっ、何でここに? あたしファンだったの!」
その名前は、あまり芸能人に詳しくないヤコでも聞いた事があった。確かテレビにもよく出ている大人気アイドルグループのリーダーだったはずだ。本人も否定せずに苦笑いを浮かべている。
だが、とげとげしい態度を崩さないハジメは低く抑え気味の声で牽制した。
「芸能人がなんだ、悪いがこの船では以前の地位など何の意味も持たないぞ」
「分かってますよ、普通にアキトと呼んで下さい。本名です」
それでも警戒を解かないハジメの肩を後ろから掴み、レイが前に進み出る。
「うちの番犬がすまない。私がリーダーのレイだ、見たところそちらも同じ境遇と見たが?」
ようやくホッとした表情を見せたアキトは、キリッと表情を引き締めるとよく通る声で自己紹介をした。
「こちらは移動要塞船『カノープス』! この砂漠で出会えた仲間に敬意を表し、情報交換を願いたい!」
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