第02話「魔界の皇子と孤島の騎士」
「南の島の妖狐様」
メージェ島にニコルが
エルカリナ暦四五四年が明け、一年の最初の朝日が
夜明けと共に
◇ ◇ ◇
ほぼ円形のメージェ島の中心で、目玉焼きの黄身のようにこんもりと盛り上がる丘がある。現在は島の南東部に開発が集中し、丸太やレンガ造りの家々が建ち並び、集約された広い畑が
その地域から東に少し離れた、やや
それだけが他の家々とは全く
出入口寄りの
天井からは鉄の
その囲炉裏とほんの少しだけ間を
奇妙な少女だった。
小柄は小柄――身長は十歳くらいの子供くらいしかない。体つきも
東の島国では
通りすがる者が思わず頭を
しかし、そんな強い印象をはね
「ふぅ――む……」
口の中でむにゃむにゃと声をこねくり回し、薄い掛布団から両腕両脚をはみ出させ、小さく転がる。
仕切られた木の
「うにゃ……くふふ、くふふふ、くふふふふ……」
最後には丸めた
「う、うう、うう――うふぁ……ふぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁ――」
自分の小さな拳なら丸呑みできるくらいに大きな口を開け、少女は目をこすりながら、体を起こした。
「うー……朝か……ふむ、まあまあ、よく寝れたかの……」
起こした体をいっぱいに
「いかんのー。さすがに一晩に十人も客を取るとクタクタじゃ。
いいながら布団から抜け出、
「まあええわ。布団を
掛布団ごと丸めた
「いい天気じゃなー」
白く薄い雲がわずかに浮かんでいるが、目に
庵のすぐ側に立てられている物干し台に布団を掛け、庵の裏に回る。一面に生える無数の竹がうっすらと暗がりを作っている丘、その斜面に
裏返してあった
「うーむ、
溝からあふれ出す水を手で受けて顔を洗い、腰に巻いてあった
庵の中にいったん木桶を置き、またそのまま外に出る。次に向かうのは反対側だ。本当に緩やかな斜面を五十歩ほど離れた向こうに、奇妙な形の門がある。
オーガがやっと
門といっても、周囲に策があるわけではない。しかし、細かい砂利が
「朝日の鳥居はいい景色じゃな。この
神々しさを
木で
「ふんふん。朝のお供え物を確認するのはいい気分じゃ。自分が
かごごとそれを取り出した少女は庵まで運び、板の間に上がり込んだ。座布団を敷いて座り、鉄瓶の下に細い
鉄瓶の中がぽこぽこと音を立て始めた頃合いで麦の粒を全て入れ、魚の切り身を放り込んだ上に、木桶の水で洗った菜っ葉も適当にちぎって放り込んだ。
囲炉裏の細い火が鉄瓶を下から
「さて、煮立つまで風呂に入るとするかの」
壁に掛けていた大きな手拭いを手に取り、またも庵から出る。今度は石桶の方に進み、その奥に作られた天然の竹の策の向こうに足を伸ばした。
一抱えはある石で周囲をぐるりと囲まれた、人ひとりがようやく入れるほどの小さな
少女はその場で身につけていたものを全て脱ぎ、するりと湯に足を
ほとんど縦穴のような温泉だ。熱めの湯はほどなく、少女の白い肌を桜色に染め上げる。
首から下がまんべんなく温められ、血流が行き渡る感覚に少女は
「ええ湯じゃな、ええ湯じゃなぁ。あぁぁ、極楽極楽。いつでも入れる自分専用の温泉まであるとは、これだけで来てよかったのぉ。さすがに王都ではこれはないからのー。天国じゃな、この島は」
骨の
「そろそろ煮立ちきった頃じゃな」
板の間の座布団に座り、鉄瓶の
麦粒がいい感じにふやけて
囲炉裏の火を消し、匙で鉄瓶の中をかき混ぜると、故郷の香りが
「
振り返って見ると、壁際に置いてある大きめのつづらの位置がほんの少し――注意しなければわからないくらいのわずかに、ズレている。丸く
「――誰ぞ、その中におるな!」
もぞ、とつづらが
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