「それぞれの夕暮れ、それぞれの夜」
窓も閉め切り、扉にも
「――――フン」
それを鼻の先で
「――勝手に入って来るなと、いっている」
「あら、それは失礼をいたしましたわね」
部屋の真ん中にふうぅ、と紅い火球が灯った。
火――いや、それは火のように振る舞う光だった。熱はほとんど発しておらず、大きな
「嫁取りはいかがでした? こんな時期に身を固められるとか、ずいぶん余裕ですのね」
「こんな時だから、だ。そろそろ忙しくなる。が、そなたたちの出番はもう少し後だ」
「
巨大な人魂がもう一つ、闇の中に浮かび上がった。紅い人魂と少しの
「ヴィザードのおっさん、こっちの準備はとうにできてるんだ。
少年と青年の
「
「うっせぇ。こっちの差し迫った事情も
「もう間もなく、とそなたの父には伝えておいてくれ。そう待たせはしない」
「うちの親父は機嫌が悪いと、平気で約束も破るぞ。覚えとけよ。まあ俺も負けじと気は短いんだけどな」
「とはいえ、
「ち――」
人としての姿は見えなくとも、その息づかいから
「足元見やがって。まあいい、また
「はいはい、わかったわ。じゃあ陛下、ごきげんよう」
ふたつの人魂が同時に消えた。
いつでもお前の寝首は
「
「あたしまで
椅子に身を沈めたヴィザードのすぐ側、座っている国王の肩を抱ける
今度は人魂のような
「お前まで来るのか」
「ご
「お前が? 冗談が過ぎるな」
ヴィザードが口元の形だけで笑った。
「
「それって差別じゃないかしら?」
「
「ふふ」
深い
「もう左の腕は完治したのか」
「前の感覚が戻ってきたところよ。腕を再生させるのは簡単だけど、
「便利なものだ。その傷の治り方だけは欲しいものだな」
「手に入れるつもりなんでしょう?」
ぴくり、とヴィザードの肩が揺れた。その一瞬の動きを見て取ってティターニャは
「隠してもダメ。
「……だとしたら、どうする? あの二人に密告するか?」
「あたしは陛下の味方よ」
ティターニャは、後ろから椅子ごとヴィザードの体を抱きしめた。細く長い指の腹で国王の顔を、
「貴方の野望に協力してあげる。人間界も魔界も、何もかもをも手に入れたいという大それた望み。魔界の王が地上を望むのは
「それもある」
「魔界の王でもそれは今まで望み得なかったけれど、ふたつの世界を統合してしまえば見つかるのかも知れないわね、でも、悪い子孫さん。
「先祖と子孫は違う人間だからな」
「協力した分、ご
「私がお前と寝る? 冗談じゃない。お前と情を通じるつもりはない」
「その言葉、
ティターニャは薄い
「
口の中で
窓を
「しかし、嘘吐きは私も同じか。――どちらの嘘が
ヴィザードは椅子から立ち上がった。そろそろ
◇ ◇ ◇
その夜、リルルは眠れぬ時間を布団の中で過ごしていた。
国王との
「国王陛下の命により、リルル嬢の警護任務に
親衛隊小隊長と名乗ったいくらか年かさの兵士は
庭にかかる夜の闇の全てを払うかのようにたくさんのかがり火が
幸いというべきか、屋敷の中に配置された兵士はいなかった。
今までにない事態にフィルフィナも緊張し、警戒のために隣の居間に詰めて仮眠を取っている。まさか親衛隊がリルルに対し
万が一のため、居間と寝室の扉と窓の裏には、物理閉鎖の
それだけの段取りを重ねつつも、リルルの心を
「――どうして、私なんかが陛下のお
表の親衛隊たちはリルルを守っているのではない、王妃候補を
ニコルと手を
自分とニコルは、逃げようと思えば逃げられるだろう。しかし、残されたものたちはどうなるのか。
「お父様の会社だって、陛下に
今までの婚約話は、話のもつれや問題の
国王との婚約がそれに
「ニコル……私たち、どうすればいいの……」
もう涙も流し
◇ ◇ ◇
眠れない夜を過ごすのは、ニコルも同じだった。
「――ニコルお兄様、お眠りにならないのですか」
寝台の上でロシュが体を起こして声をかける。深夜の暗がり、人々がもう眠りにつくはずの時間の中で、物書き
幼いころからの、みっともないからと強い意志で
頭も目も全てが覚めきっていて、眠気の
内臓の全てが
――それが明けたところで、どうにもならないというのが、わかっていながら。
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