「ログトの密会」
――時は、『森妖精の王女号』がエルカリナ港に帰港した、その数時間前に
リルルの父であり、王都エルカリナで流通する水産・海産物の全てをほぼ一手に
伯爵という高い位を持ちながら、
そのログトは今、王都エルカリナでも最高級位に位置するホテル『シャルス・エル・エルカリナ』の最上階の
「こちらです」
「ああ」
廊下の
重要な
このホテルは頭ひとつ飛び抜けた高額の料金であることに加え、出入りする人間の身分、
なにより、ログトの中にある好奇心、いつもは理性で
ログトの予想通り、客室係はいちばん奥の部屋の前でその足を止めた――最上級ホテルの最上級の部屋だ。
失礼します、と客室係が扉を
部屋の扉が開き、口元をへの字に曲げたログトは、無言で頭も下げずに部屋に
寝台などはない、単純に面会や会議だけに使われる部屋。その中央に
「ようこそいらっしゃいました」
印象の
「初めまして、フォーチュネット伯――いえ、フォーチュネット水産会社社長殿、とお呼びした方がよろしいですかな?」
「どちらでもいい」
毛の長い
「お
「お忙しいんだ。早く仕事の話をしてくれ」
「
男はテーブルに名刺を置き、ログトの手前まで
「イエル・レーメスさんね……」
作法もなにも無視し、片手でそれをぞんざいにつまんだログトが、
「アイガード王国の実業家さん? その前に、後ろに
「ああ、これですか」
少し
「
「このホテルでは針一本持ち込めない。私も
「ま、お気になさらず。――それでは、早速商談と参りましょう。この
「イエルさん、だったかな」
ログトは名刺をイエルの方に突き返した。
「あんた、実業家なんていうのはウソだろう」
イエルの口が止まる。が、その口元には微笑が浮かんだままだ。
「私がこう思った
「面白いですね……続きをどうぞ」
「これから水産業を起ち上げるんだろう。この王都エルカリナでその
「私がそういう性格の人間である、というのは予測に
「これまで多くの商売人と付き合ってきた。どんな大企業の社長だって、取引に際しては多少の緊張はするものだ。この取引がダメであれば、次の段取りを組まねばならぬ――そんな
「いやあ、そこまで見抜かれているのなら、もう
「認めるのか」
「では興味ついでにお教えください。私が実業家でないなら、なんに見えます?」
「役人かな……。それも多分、軍か警察。しかし
「――ふふ、ふふふ……!」
イエルが肩を揺らして笑い出した。ログトが目を細め、壁際の護衛たちはなおも声の一滴も
笑いは一分弱は続いただろうか。
「参りました。完敗です。では、本物の名刺を出しましょう」
テーブルの上の名刺をぴりりと破り捨て、イエルは
「……エルカリナ王国軍情報部第一課課長、イエル・レーメス……国内の
さすがにログトの腰がわずかに浮いた。こんな名刺を手にしたことは今までに一度もなかった。
「その場合はこんな面倒なことはしません。
「……そう願いたいものだな……」
「あなたにご足労いただいたのは、ごくごく内密の会談の場を持ちたかったからです。
「――――」
ご安心を、といわれてもログトの不安は
「実は、私ではない、
「なら、こんな面倒な
「我々としても、王都でも有数の
「わかった。会おう、会えば解放してもらえるのだろう。誰だか知らんが、私は本当に忙しいんだ」
「では、我々は退室します。一対一の面会を希望されておりますから――失礼をいたしました」
「ふん」
腕を組み
ログトの対面で、誰かが座る気配がした。ログトの
ログトの前でソファーに腰と背を深々と沈めたのは、二人の護衛のうちのひとりだった。
「どういうことだ」
目の前に座り込んだ護衛、閉ざされた出口を
「何故お前は部屋を出ない」
「――ふふ」
警戒するログトの前で薄く笑った男が、自らの兜に手をかけ、それを頭から外してテーブルに置く。中に収まっていた短めの髪が、その金の色を
「――――!!」
目元さえ隠していた兜の下から現れた顔をその瞳に
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