快傑令嬢すぺしゃる!002
「リルル、蕎麦をおごられる」(前)
「食らえぇぇ!! 快傑令嬢パぁァァァァァァァァンチ!!」
解説しよう!
快傑令嬢パンチとは、快傑令嬢リロットが全身全霊全気合いを込めて繰り出す、なんの
数メルトの
「はぁ、片付いた……のかしら?」
『今ので最後です、お嬢様』
遠方から一部始終を監視するフィルフィナの通信がイヤリングの震動を介して聞こえてくる。
廃工場のトタン屋根の上、十数人の男達がぶちのめされた体をそれぞれに転がして
天空に輝く満月の光が夜の闇を薄く払い、立ち回りを演じてみせたドレス姿の少女の足元から
戦いは終わった。
『警備騎士団には連絡が行っています。もうすぐ到着するでしょう』
「わかったわ」
てんでばらばらに散らばった男達の体をずるずると引きずってひとまとめにし、右手首の黒い腕輪から取り出した
『それでは、速やかに
「フィルは先に帰っていて」
快傑令嬢リロット――その正体である伯爵令嬢リルルが、全ての武器を黒い腕輪の中にしまいながらいう。
「私、ちょっと寄りたいところがあるから」
『……なるべく早く帰ってきてください。お風呂の用意はしておきますから』
「よろしくね」
フィルフィナの方で通信を打ち切る気配があった。
小回りが
「私だって、問題を感じていないわけではないんだけどね……っと」
きゅるるるる、とお腹が震え、そのいちばん奥が切ない音を上げた。意外に響いたその音にリルルは
「お腹空いた。あそこにいくかな……」
またも黒い腕輪から取り出した
薄桃色のドレスのスカートをはためかせ、ひとつの人影が夜空を背景にしてゆっくりと浮かび上がる。そして、足元に広がる
◇ ◇ ◇
深夜に差し掛かろうというのに、その区域全体が人工の光で満たされる王都エルカリナの
王都西部に位置する歓楽街。住民達――旅行で訪れる者たちのあまねく欲望を受け止める街だ。
二カロメルト四方の区域に集められた酒場、
昼も夜も変わらぬ大勢の人通りがあり、この場所を目指して走る
そんな様々な
◇ ◇ ◇
その屋台からは薄い湯気が休みなく上がって来て、あたりに濃厚な魚の風味が香る
最後の客が食べ終わって席を立ったあと、この三十分間は客がついていない屋台だった。
三十歳を少し超えたくらいの男が
何度読み返したかわからない朝刊を広げ、路地の間からのぞく人の往来に半ば興味を失いながら、自己の世界に嵌まりつつあった。今夜の前半は思ったほど
夏場は冷たい
今は
そして。今度こそは、今度こそは――。
「お兄さん、こんばんは!」
「うわ!」
いきなりなんの
薄桃色のドレス姿の少女が
「びっくりしたな……お嬢ちゃんか!」
男の今までの無表情が一変して笑顔になる。砂漠に清浄な
「今夜も来ちゃった。お腹空いたの、ごちそうしてくれる?」
「ああ、ああ、いいよいいよ、大歓迎だ。よーし」
男は
「いつものでいいんだな」
「うん、いつもの!」
「よっしゃ、
男の手が引き出しに
◇ ◇ ◇
「……お客さん、いないね?」
そばが
「ちょっと時期が中途半端みたいでな。まあ仕方ないさ。客が入る日があれば入らない日もあるもんだ」
「……今日は、お金を払ってもいいよ?」
「馬鹿いっちゃいけねぇ。お礼にあんたにはいつでもそばを
茹で上がった
「もう四ヶ月前か。あんたに屋台を救ってもらった時、俺は命も救ってもらったんだ。……作ったばかりの屋台を
「わぁ」
「美味しそう! いただきまぁす!」
数本の
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