「ニコルと、もうひとり」
フィルフィナが
「デルモンを最優先で追おうってか。まあそれが最適解だな。だけどな、それを俺たちがみすみす
リルルとフィルフィナのふたりが、ポイ捨てでもするかのように足元に向けて投げつけてきた爆弾――両手で包めるほどの大きさのものに、バズとマハがその場から飛び
「死にたいのか馬鹿が! こんな室内で爆弾なんて使う奴が!」
短い
バスン! と消化不良を起こすような情けない音が弾み、二つの黒い球が盛大に黒煙を
煙だけで終わった頼りない破裂が収まった時、二人の姿は室内にはなかった。
「ち――ハッタリか!」
常識を超える
「あいつら、俺たちを放置かよ!」
「放置じゃないでしょ。下から上がってくる騎士たちに任せたのよ」
バズが屋上から戻る。その間にティーグレは戦う気など毛頭ないのか、奥にある
「……取りあえず、あの騎士たちをどうにかしないとね」
「どうにかしろ!」
「どうにかするわよ。あんたなんかと一緒に
頭のフードを外し、隠し持っていた
「――ったく」
マハは
◇ ◇ ◇
「八階! あと二階です!」
金属製の全身
最初の異変、自分の
コンクリートを
「先輩たち! 階段から離れてください!」
「階段から離れてって――」
「早く!!」
ニコルの後ろをぴったりと着いていたラシェットが、少年の頭の上で信じられないものを目撃していた。
上に続いている階段が、砂に戻るかのように
「――逃げろぉぉ!」
駆け上がる者と駆け下りる者、双方が激突しなかったのは奇跡だったのかも知れない。ニコルの声に
「先輩、早く!」
騎士たちに続いてラシェットが七階の
「ニコル! 手を
「先輩!」
どう考えても間に合わないことを理解しながらも、ラシェットがニコルに向かって腕を伸ばした。
だが、その手がニコルの手に触れることはなかった。
砂の雨と一緒になって、金色の髪の少年は、巨大な縦穴となった階段の
「ニコル――っ!?」
◇ ◇ ◇
「これで少しは
この建物には階段はひとつしか存在しない。それを全て消し去ったのだから、徒歩でここまで上がって来る手段はまずなくなったはずだった。
「
「撃ち落としてやるわ。王城が燃えるのも見届けないといけないし。脱出はデルモンに下ろしてもらえばいいかしら――」
二人の背後で、ガチャ、と重い金属が重なり合う音がした。その、どう考えても
「……どうやって上がってきた」
「企業秘密だ」
バズの吊り上がった目、奥の瞳の中でニコルが立ち上がる。その手にはレイピアが握られていた。
「グァンモン
「……ガキ、ここまでたどりついたのは、お前一人か?」
「僕にはニコル・アーダディスという名前がある」
「……どうやら、このガキ一人だけらしいな」
続いて人影が現れないことに、バズは肩を揺らした。どうやってこのチビが上がって来たのかはわからなかったが、大した問題ではない。
「あら、可愛い顔をした坊やじゃない」
落ち着き払った表情を浮かべて自分を凝視してくる少年騎士に、マハは
「待っている間、
「どうせなら俺と
「あんたと寝るのは二度とゴメンよ。自分勝手ばっかりなんだから」
鼻を鳴らして相棒を突き放す。
「坊や、お姉さんといいことしましょう」
「投降するのか? しないのか?」
「投降するのはあなたよ」
「うっ!」
その光をまともに正視したニコルが顔を歪め、脚を折って片膝を着く。その体がうつ
「――ま、チョロいものね」
「おい、やめとけよ」
「なによ、あんたにあたしを止める権利なんてないわよ。別に見てるのはかまわないから、そこで大人しくしてなさいよ」
「そうじゃなくてな……」
バズが
「そいつ、
「え――――」
ニコルの目が、開いた。
その体がバネ仕掛けのように跳ね上がり、放されていなかった剣が風切り音を上げて嵐の速度で旋回する。それを杖で受け止め、
「――あたしの
振り回された杖での
「――以前、同じ技を受けたことがあってね。その時は一発でやられてしまったんだ。それ以来、
「おい、こいつ見た目以上にやるみたいだぜ。遊ぶなんていうのは、あきらめるんだな」
部屋の隅に追い詰められないようにニコルが進み出る。マハがそれを受けながら後退し、バズが大きく外に回ってニコルの背後についた。
「もったいないわねぇ」
「ガキ、今大人しく降参して武器を放り出したら、命だけは助けてやる。お前も一対二で戦うとかいう不利はしたくないだろう。死ぬぞ」
「投降しろ。君たちに逃げ場はない」
剣を構えたバズをレイピアで、杖を構えるマハを視線でニコルは
「……こいつ、本当に
「わかってるわよ」
三人の足が最適な間合いを探るように、それぞれに
天井に空けられた穴が、部屋の真ん中に陽の光を直接落とし込んでくる。その輪の中に、三人は直線を結んでいた。
「――よし」
「行くわ!」
バズとマハの気が満ち、その足が床を
ニコルがバズの剣をレイピアの腹で受け、少年の背を
「誰だお前は!」
「――君は!?」
突然空から降ってきて、自分の背を守ってくれた少女の出現に、ニコルは驚きを隠せない。
なにより、その少女が
「私の愛しい騎士を、むざむざ殺させるわけには参りません! その非道と横暴を
その帽子は真っ青な
「私の名は、快傑令嬢サフィネル! 王都の平安を乱す方々にお
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