第01話「出会いに彩られる園遊会」
「リルルとニコルの事情」
「おーっほっほっほ! 私は快傑令嬢よ!」
「ンな
快傑令嬢リロット――リルルの、炎の風を巻く
「ぶふぅぅぅっ!!」
鼻柱をまともに打ち
「な……なんだ、
「それはこっちのセリフだぁ――――!!」
「うごふォ!!」
竜巻を呼ぶような遠心力をつけた
「あ……あ、あなた、人を
日の差さない細い路地で、攻撃的な気配が炎のように揺らめく。いうまでもなく、その激しく燃えさかる波動の
――王都は今、混乱の
文字通りの
そんな中。
夕日が落ちた時間帯の下町、酒場が建ち並ぶ、薄汚れた
快傑令嬢リロットとなって街中という街中を
「こ……こ、こ、困るのよね……そんなことを、もう、気軽にしてくれたら……」
暴力の化身と化し、ありふれた街の
リルルは偽物を追い詰めていた。――いや、理性がそれを偽物とはとても認めがたかったが。
マスクはともかく、誰のものを借りてきたのか、オレンジ色の
「い――い、い、いったいどこの世界に、婦女暴行をやらかす快傑令嬢がいるのよぉ――――ッ!!」
「ぶでひっ!」
壁から重力に引かれて
「寝るなぁぁっ!! 起きなさぁぁぁぁぁぁいッ!!」
リルルの背負い投げが
建物と建物の細い隙間、薄暗い空間で繰り広げられている
「も、もうおやめください、それ以上すると死んでしまいます」
「こんな奴は死んだ方がいいのよ!」
薄桃色のドレスをまとった少女は、涙を流しながら片腕一本で女装の男を
「私は――私はね、こんな下らない奴に汚名を着せられるために、今までがんばってきたんじゃないわ! どいつもこいつも、私の気持ちも知らないで、飲み屋で一杯引っかけるみたいに私の名前を名乗りやがってェ――!!」
再び男の体が、高々と
「フィル……心配しないで。私だってちゃんと理性は残ってるわ。大丈夫……殺しはしないわよ、殺しは……殺す以外のことは全部やらせてもらうけれどね!!」
何ヶ月病院の
まだ死にたくはなかった。
物言わぬ失神の身に対して暴力の限りを
事態は最悪だった。
この数日、王都で何百人という偽の快傑令嬢が出没していた。本物の快傑令嬢に似せた
誰もそれを本物の快傑令嬢だとは思わない。いや、むしろ本物だと思わないからこそ
どこかを張り込む必要もない。適当にそこらの空を飛んでいれば、あちこちで快傑令嬢の高らかな名乗りといい加減なカーテシーが
そのあまりもの多さに、警察機構も全く対応しきれない。絵に描いたような最悪の事態だった。
「ああああっ! もうっ!!」
物思いに
あの偽物の快傑令嬢を追おうとも、
偽物の偽物といえど、こいつらも
「ぶちのめす」
決意に輝くリルルの顔、その奥で
『どいつもこいつもぶちのめすわ。快傑令嬢の偽物を演じるなんてお馬鹿なことをしでかしたらどういう目に
リルルは自分の発言を実行し、その行き過ぎを止めるために同行したフィルフィナは、現場に立ち会う度に毎回凄まじく恐怖した。
リルルの方針は
昨日の半分だった。
同時多発的にまがい物の快傑令嬢が大量発生する中、
もはや予告状を送るという手間も
「よくもお父様の会社が
フォーチュネット水産会社。王都の人間が口にする全ての海産物はリルルの父・ログトの手を
「
「――旦那様は持って行かれて価値のあるものなど、手元にほとんど置いていません。全て取り返しがつくものか、動かせないものに
「こんなんじゃ本当に
「――方法がひとつ、ないことはないんですけれどね……」
フィルフィナの
「それはなに!?」
「助力が
「もうこの際だもの! 四の五のいっていられないわ! ――で、誰に相談すればいいの!」
「それは……」
提案した本人も乗り気ではない表情で、フィルフィナは
◇ ◇ ◇
完全に夜の
中の下くらいの暮らしぶりをしている平民たちの住宅地であっても、全く例外ではなかった。
その窓枠には人間が侵入できないように板が
手製の武器をでっち上げ、侵入して来るものがいれば返り討ちにしてくれる――殺気めいた空気を
そんな
その家の前に、二頭立ての大型馬車が一台、
馬車からは体格に
「――大丈夫です」
合図を受け、仕立てのいい服に身を包んだ一人の男が馬車から降りた。馬車の両側を警戒する男たちよりは、頭ひとつ以上背が低い。頭髪はやや薄く、小太りではあるが
彼を一目見て、『貴族だ』といい当てられる人間は少ないだろう。
王都において『魚貴族』という、あまり
二人の
「私だ。ログトだ」
その丸い目をいっぱいに見開かせた中年の女性が、片手でほうきを構えた姿で突っ立っていた。
「――だ、
「久しぶりだな、ソフィア。突然押しかけてすまない――こんばんは」
そのソフィア――母の後ろで剣の
「旦那様、どうしてこちらに!?」
「ニコルもいてくれたか、よかった。
「え、ええ、ちょっと
ログトがこの家を訪れるなど、今までにないことだった。押し込み強盗を警戒していた二人の顔は、まさに
「私も
「え……ええ、それは、もう、大丈夫ですが……」
「ニコル、お前に話がある――少しの間、付き合ってくれないか」
ログトが横を向き、小さく目で馬車を示した。これで出かけるという合図に、ニコルとソフィアが顔を見合わせる。
「――かしこまりました」
「すまんな」
「……あの、旦那様、
「ソフィア、私はニコルを
「あ、ありがとうございます……」
「ではニコル、出かけよう」
「はい」
二人の護衛に左右を
素早く護衛たちも馬車の中へと姿を消す。
それが視界から超えるまで見送りたいと思ったが、ソフィアはその
昨日の夜、この近くの通りで強盗事件が起こったばかりなのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます