「たったひとつの切り札」
表情の
「っ!」
瞬時にして
経験の中で自然に
「うくっ!」
「お嬢様!」
フィルフィナが第二射を放とうと矢を
「フィル! ダメ!」
「今のニコル様には、これくらいでないと
リルルの声を振り払い、鋭い音を響かせてフィルフィナが
音速に到達するその速度の矢は、ニコルの
サーベルを持たない少年の手が、
「っ!」
神速の矢は空中でいともたやすく払われ、壁に叩きつけられて火花を散らす。フィルフィナの
「これは……!」
きっと払いのけるだろう――払いのけてくれなければ困る、と思って放った矢ではあるが、実際にそれを顔色も変えずに手で飛ばされてしまうと恐怖しかなかった。
「マズいな」
自分が勝てる相手ではない、と
「お前たち、勝算があるのか?」
「一応、ないことはないですが……」
「なら、なんとかしてくれ。私は道案内以外のことは頼まれていないつもりだぞ」
「わかっています」
じり、とニコルが
「……が、以外のことも頼まれてもらえますか」
「内容によるな」
「あのニコル様を
シーファが
「……十秒だ。それ以上は無理だ」
「感謝します。お嬢様、
主人を
「銀の腕輪を意識して! ニコル様の攻撃を受けることだけに集中して下さい!」
「わ、わかったわ!」
立ち上がったリルルが前に出る。魔法のドレスに防御効果があるとはいえ、数十歩の距離を吹き飛ばされ床に叩きつけられた衝撃は小さくない。体の
行き止まりの床を閉鎖している、黒光りする重々しそうな鉄の扉が見える――ニコルはそれを守っているのか、一定の間合いから踏み込んでこない。離れたがために回り込まれることを警戒しているのだろうか。
フィルフィナがちらちらと送ってくる視線で、わかる。勝機を見出すとすれば、その制約につけ込むしかないと。
「ニコル……目を覚まして!」
手のレイピアの重みを意識しながらリルルは踏み込んだ。そのリルルの意識を反射神経で感じたのか、予備動作のない動きでニコルが――突っ込んで来た!
その速度を一度見ているから、どんな瞬速だとしても予想はつく――対応ができる!
「ニコル!」
スカートの
リルルが頭の
「つぅっ!」
突きの
「うぐぅっ…………!!」
銀の腕輪の効果がなければ、そこで全身の骨を砕かれて終わりだったろう――が、まだ、生きている!
「ニコル様!」
最良の機会を
「――――やるしか、ないか!」
少年の視界の裏に回り込むようにシーファは体を
「…………!」
太い胴体に腕ごと体を
「く……! なんて力……!」
シーファの顔が強ばる。生身の人間なら数秒で全身の骨を
「拘束して……いるぞ! 今なら!」
「ありがとうございます! これで!」
フィルフィナが懐から一本の
「ニコル様――――失礼いたします!!」
「く――――!」
シーファの胴体の中で、ニコルの体が
そのまま動き続けるのではないか。そのシーファの不安を裏切って、ニコルの体から力が
「き……効いたのですか……?」
フィルフィナの手が、首筋から筒を抜く。強力な
「っ!?」
崩れかけていたはずのニコルの膝が、立ち上がった。
「――シーファ! 離れて!」
フィルフィナの声が飛ぶ。内側から
「……効いた、と思ったんですが……!」
「一瞬な」
「あれは薬かなにかか……どうやら、体内で一瞬にして
「……困りました。あれは一本しかないんです。ここは一度
フィルフィナの言葉を
「
「ここで逃がすわけがないでしょう!」
ティターニャの声が
「その光の壁は物理攻撃では破壊できないのよ。その騎士様を倒さない限りは、ね――でも、あなたたちにその騎士様が殺せて? 逃げることもできず、ここで死ぬ運命――フフフフッ! あきらめて受け
「…………」
「――お嬢様、なにを考えているんですか」
「あの鉄の扉」
ニコルの背後、床を埋めるほどの巨大な扉をリルルは目で示す。
「ニコルを倒せない、
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