「ニンゲンの後始末、その結果」
「
「なにが助けだ、このニンゲンが!」
リルルにまたも小物を投げつけようとしているハーピーを、周囲の亜人たちが取り押さえている。リルルの前に
共通しているとすれば、全員が若い娘ということくらいだ。
その中で、
「助けに来た!? あたしたちをさらったのもニンゲンだろう! なにを
「やめなさい、この人は本当にあたしたちを……」
「助けなんかいらなかった!」
腕をつかんでいたスライム娘の手をハーピー娘が振り払う。
「あたしにはもう、帰るところなんてないんだ! あたしの里はニンゲンに
「馬鹿なことをいわないの! この人には関係ないことでしょ! この人はあたしたちのために戦ってくれて……」
「同じニンゲンのやることだ!」
見張り役かなにかだったのか、頭に拳大のこぶを作って床に倒れている男の体にハーピーが飛びつき、その腰に差されていた拳銃を手にし、迷わない
「あなた!?」
ハーピー娘の視線がリルルの胸を
「こいつの使い方は知ってるんだ――ニンゲンがこいつを使って、あたしの弟を目の前で撃ち殺したからな! お前を撃ち殺してやる……
止めようとした周りの亜人を銃を振り回して
「なにもかもメチャクチャにしやがって! 撃つ――撃ってやる! 里のみんなの
「――そう!」
リルルがそれに
振り上げて――その手のムチを、床に投げ捨てていた。
「――撃ちなさい!」
鋭く飛んだ声。その声の強さと中身にハーピー娘が
娘からはリルルの表情は見えない。認識
「あなたの気がそれですむのなら、私を撃ちなさい! ……でも、あたしを撃ったあとはちゃんと生きて。あなたの
「撃ってやる……撃つぞ、撃つぞ、撃つぞ! あたしなんか、もうどうなってもいいんだ! 本当に撃つからな!」
「私の胸元を
リルルが歩を進める。間合いが詰まる。ハーピー娘が構える銃口が震えている。その顔が
「お嬢様!」
書類の
「フィル! 危ないわ!」
「
二人から声が飛ぶが、フィルフィナは意に介さなかった。
「わたしはお嬢様のメイドです。命
冷静な声。その
「そこの娘。お嬢様を撃たせるわけにはいきません。代わりにわたしを撃ち殺して
「あたしはニンゲンに恨みがあるんだ! お前なんかどうでもいい! 早く退け!」
「そのニンゲンにわたしは十年もお仕えしているのですよ。亜人の立派な裏切り者でしょう。裏切り者を撃ちなさい。狙いをわたしに定めなさい――お嬢様を撃ったりしたら、わたしがあなたを
「ひっ」
がたがた、がたがたと娘の手が震えている。拳銃の重い引き金はそれだけで引かれることはないだろうが、発射された弾がどこに飛んでいくのかわからない
「フィル! あなたが撃たれたら、本当に助からないわ!」
「いいのですよ、お嬢様。短い間でしたが、わたしはお嬢様にお仕えできて幸せでした。里の者が来たらよろしくお伝え下さい。フィルは、最愛の方をお守りして死んだと。少しも後悔などしていない、
「フィル……!」
「エルフ! 退け! 退けって――本当に撃つぞ! 怖くないのかぁっ!?」
「お嬢様を撃たれることほどに怖いことなどないのです。さあ、早く……なにをしているのです! 早く撃ちなさい――撃たないか! この
「っ!」
完全にその顔から色を無くしたハーピー娘の手が、
銃口が――自分の頭に押し当てられる!
「やめなさい!!」
娘の目が固く閉じられ、歯が食いしばられる。その指が引き金を引く!
「だめぇぇぇぇ!!」
銃声が轟いた。
壁にかけられていたランプの一つが
「…………!」
山猫娘――リルルの直前に
「――はぁぁぁ……」
リルルの体から緊張がどっと抜けていく。
「う、うううう、ううう……!」
一発しか
「生きてたって……生きてたってもう、仕方ないのに……! なんで死なせてくれないんだ……!」
「――仕方ないとか、いうな」
奥に固まっていた娘たちを押しのけるように一人のラミアが進んできた。腹の筋肉を器用に動かし、まっすぐ近寄ってくる。
「行くところがないのなら、私の里に来るがいい」
この中ではもっとも年上なのだろうか。強い姉のような
「ラミアの里なんか、ハーピーが行くところなんかじゃない……!」
「それでも人間のところにいるよりマシだろう。私はこれでも少しばかり無理を押せる立場でな……私の妹になれ。お前の
「……あなたの、妹……?」
「そうだ。私は命を
「…………」
ラミアとハーピー。その相性があまりよくないのはよく知られていることだ。それでもラミアの言葉には、強さの中に優しさがあった。それがわかるからなのか、ハーピー娘に激しい
「お前は一度死んだんだ。新しく生まれ変わったんだ。だからなにになってもかまわない。私の里が嫌なら、出て行けばいい。だが、一度は来い――
「…………勝手にしてよ…………」
「よし」
「――そういうことだ。はっきりいって、私も人間に
「……いいのよ、私は人間がしでかしたことの
「……あたしたち、これからどうすればいいんです」
山猫娘が進み出た。その顔に絶望とも取れる不安が張り付いていた。
「ここを出たって、どこにもいけないんです。あたしにも帰るところはあるけど、とても遠いんです。たどり着けるとは思えない……この街で生きて行くなら、本当に体を売らないと……」
「
フィルフィナが大きな二つ袋を持ってきてテーブルの上に置いた。中から文字通りの山ほどの札束があふれ出る。
「あなたたちを
「は……はい……!」
路銀は多ければ多いほど守りになる。連れ去られ、かどわかされてきた娘たちが自分たちの事情に照らし合わせてその金の分配を始めた。
ことが落ち着いた――突発的な事態に
「なんとか、収まりはしたみたい――フィルは
「……のんきなことをいわないで下さい!」
フィルフィナの怒りが飛んだ。珍しく感情的な声にリルルが反射的に
「お嬢様がお馬鹿過ぎるんです。自分を撃たせようなどと! 二度とあんなことしないで下さい! いいですね!!」
「――フィルに怒られちゃった。わかりました、もう二度としません」
毛を逆立てた猫のように
その
「……嘘っぽい……どうせまたやるに決まってるんです……本当にもう……」
その時はまたわたしが尻拭いをしなければならないのです、とぶつぶつと
「こめかみ、傷がついています……」
「いいのよ、かすり傷だわ……彼女たちに比べたら」
「それでもいけません。あとでよく効く薬を
こめかみの傷を
「グズグズはしていられませんよ。この場にもうすぐ警察が
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