正法眼蔵 袈裟功徳

仏仏、祖祖、正伝の衣、法、まさしく震旦国に正伝することは嵩嶽の高祖のみなり。

高祖は釈迦牟尼仏より第二十八代の祖なり。

西天、二十八伝、嫡嫡、あいつたわれり。

二十八祖、したしく震旦にいりて初祖たり。

震旦国人、五伝して、曹谿にいたりて、三十三代の祖なり。

これを六祖と称す。

第三十三代の祖、大鑑禅師、この衣、法を黄梅山にして夜半に正伝し一生、護持しまします。

いまなお曹谿山、宝林寺に安置せり。

諸代の帝王、あいつぎて内裏に奉請し、供養、礼拝す。

神物、護持せるものなり。

唐朝、中宗、粛宗、代宗、しきりに帰内、供養しき。

奉請のとき、奉送のとき、ことさら勅使をつかわし、詔をたまう。

代宗、皇帝、あるとき、仏衣を曹谿山におくりたてまつる、みことのりに、いわく、

今、遣、鎮国大将軍、劉崇景、頂戴、而、送。

朕、為、之、国宝。

卿、可、於、本寺、如法、安置。

専、令、僧衆、親承宗旨者、厳、加、守護、勿、令、遺墜。


まことに、無量、恒河沙の三千大千世界を統領せんよりも、仏衣現在の小国に王として、これを見聞、供養したてまつらんは、生死のなかの善生、最勝の生なるべし。

仏化のおよぶところ、三千界、いずれのところか袈裟なからん?

しかありといえども、嫡嫡、面授して仏袈裟を正伝せるは、ただひとり嵩嶽の曩祖のみなり。

傍出は仏袈裟をさずけられず。

二十七祖の傍出、跋陀婆羅菩薩の伝、まさに、肇法師におよぶといえども、仏袈裟の正伝なし。

震旦の四祖、大師、また、牛頭山の法融禅師をわたすといえども、仏袈裟を正伝せず。

しかあれば、すなわち、正嫡の相承なしといえども、如来の正法、その功徳むなしからず。

千古万古、みな、利益、広大なり。

正嫡、相承せらんは、相承なきと、ひとしかるべからず。

しかあれば、すなわち、人、天もし袈裟を受持せんは、仏祖、相伝の正伝を伝受すべし。

印度、震旦、正法、像法のときは、在家なお、袈裟を受持す。

いま、遠方、辺土の、澆季には、剃除鬚髪して仏弟子と称する、袈裟を受持せず。

いまだ受持すべきと信ぜず、しらず、あきらめず、かなしむべし。

いわんや、体、色、量をしらんや?

いわんや、著用の法をしらんや?

袈裟は、ふるくより解脱服と称す。

業障、煩悩障、報障、等みな解脱すべきなり。

龍もし一縷をうれば、三熱をまぬがる。

牛もし一角にふるれば、その罪おのずから消滅す。

諸仏、成道のとき、かならず、袈裟を著す。

しるべし、最尊、最上の功なり、ということ。

まことに、われら辺地にうまれて末法にあう、うらむべしといえども、仏仏、嫡嫡、相承の衣、法にあうたてまつる、いくそばくの、よろこびとかせん?

いずれの家門か、わが正伝のごとく釈尊の衣、法ともに正伝せる?

これに、あうたてまつりて、だれが恭敬、供養せざらん?

たとえ一日に無量、恒河沙の身命をすてても供養したてまつるべし。

なお、生生、世世の値遇、頂戴、供養、恭敬を発願すべし。

われら仏生国をへだつること十万余里の山海はるかにして通じがたしといえども、宿善のあいもよおすところ、山海に擁塞せられず、辺鄙の愚蒙きらわるることなし。

この正法にあうたてまつり、あくまで日夜に修習す。

この袈裟を受持したてまつり、常恒に頂戴、護持す。

ただ一仏、二仏のみもとにして功徳を修せるのみならんや?

すでに恒河沙、等の諸仏のみもとにして、もろもろの功徳を修習せるなるべし。

たとえ自己なりというとも、とうとぶべし、随喜すべし。

祖師、伝法の深恩、ねんごろに報謝すべし。

畜類、なお恩を報ず。

人類、いかでか恩をしらざらん?

もし恩をしらずば、畜類よりも愚なるべし。

この仏衣、仏法の功徳、その伝、仏正法の祖師にあらざれば、余輩、いまだあきらめず、しらず。

諸仏のあとを欣求すべくば、まさに、これを欣楽すべし。

たとえ百、千、万代ののちも、この正伝を正伝とすべし。

これ、仏法なるべし。

証験、まさに、あらたならん。

水を乳に入るるに相似すべからず。

皇太子の帝位に即位するがごとし。

かの合水の乳なりとも、乳をもちいんときは、この乳のほかに、さらに乳なからんには、これをもちいるべし。

たとえ水を合せずとも、あぶらをもちいるべからず。

うるしをもちいるべからず。

さけをもちいるべからず。

この正伝もまた、かくのごとくならん。

たとえ凡師の庸流なりとも、正伝あらんは、用乳のよろしきときなるべし。

いわんや、仏仏、祖祖の正伝は、皇太子の即位のごとくなるなり。

俗、なお、いわく、先王の法服にあらざれば、服せず、と。

仏子、いずくんぞ仏衣にあらざらんを著せん?

後漢の孝明皇帝、永平十年よりのち、西天、東地に往還する出家、在家、くびすをつぎて、たえずといえども、西天にして仏仏、祖祖、正伝の祖師にあう、といわず。

如来より面授、相承の系譜なし。

ただ経論師にしたがうて、梵本の経教を伝来せるなり。

仏法、正嫡の祖師にあう、といわず。

仏袈裟、相伝の祖師あり、とかたらず。

あきらかに、しりぬ、仏法の閫奥にいらざりけり、ということを。

かくのごときのひと、仏祖、正伝のむね、あきらめざるなり。

釈迦牟尼如来、正法眼蔵、無上菩提を摩訶迦葉に付授しましますに、迦葉仏、正伝の袈裟、ともに伝授しまします。

嫡嫡、相承して曹谿山、大鑑禅師にいたる、三十三代なり。

その体、色、量、親伝せり。

それよりのち、青原、南嶽の法孫、したしく伝法しきたり、祖宗の法を搭し、祖宗の法を制す。

浣洗の法、および、受持の法、その嫡嫡、面授の堂奥に参学せざれば、しらざるところなり。


袈裟、言、有、三衣。

五条衣、七条衣、九条衣等大衣、也。

上行之流、唯、受、此三衣。

不蓄、余衣。

唯、用、三衣、供、身、事足。

若、経営、作務、大小、行来、著、五条衣。

為、諸善事、入、衆、著、七条衣。

教化、人、天、令、其、敬信、須、著、九条等大衣。

又、在、屏処、著、五条衣。

入、衆之時、著、七条衣。

若、入、王宮、聚落、須、著、大衣。

又復、調和、熅燸之時、著、五条衣。

寒冷之時、加、著、七条衣。

寒苦、厳、切、加、以、著、大衣。

故往、一時、正冬、入、夜、天寒、裂、竹。

如来、於、彼初夜分時、著、五条衣。

夜、久、転寒、加、七条衣。

於、夜後分、天寒、転盛、加、以、大衣。

仏、便、作、念、

未来世中、不忍、寒苦、諸善男子、以、此三衣、足、得、充身。


搭袈裟法。

偏袒右肩、これ、常途の法なり。

通両肩搭の法あり。如来、および、耆年、老宿の儀なり。

両肩を通ずというとも、胸臆をあらわすときあり、胸臆をおおうときあり。

通両肩搭は六十条衣以上の大袈裟のときなり。

搭袈裟のとき、両端ともに左臂、肩にかさね、かくるなり。

前頭は左端のうえにかけて臂外にたれたり。

大袈裟のとき、前頭を左肩より通して背後にいだし、たれたり。

このほか種種の著、袈裟の法あり。

久参咨問すべし。

梁、陳、隋、唐、宋、あいつたわれて数百歳のあいだ、大小両乗の学者、おおく、講経の業をなげすてて、究竟にあらずとしりて、すすみて、仏祖、正伝の法を習学せんとするとき、かならず、従来の弊衣を脱落して、仏祖、正伝の袈裟を受持するなり。

まさしく、これ、捨、邪、帰、正なり。

如来の正法は、西天、すなわち、法、本なり。

古今の人師、おおく、凡夫の情量、局量の小見をたつ。

仏界、衆生界、それ、有辺、無辺にあらざるがゆえに、大小乗の教、行、人、理、いまの凡夫の局量にいるべからず。

しかあるに、いたずらに西天を本とせず、震旦国にして、あらたに局量の小見を今案して仏法とせる、道理、しかあるべからず。

しかあれば、すなわち、いま発心のともがら、袈裟を受持すべくば、正伝の袈裟を受持すべし。

今案の新作袈裟を受持すべからず。

正伝の袈裟というは、少林、曹谿、正伝しきたれる、如来の嫡嫡、相承なり。

一代も虧闕なし。

その法子、法孫の著しきたれる、これ、正伝、袈裟なり。

唐土の新作は正伝にあらず。

いま、古今に西天よりきたれる僧徒の所著の袈裟みな、仏祖、正伝の袈裟のごとく著せり。

一人としても、いま震旦新作の律学のともがらの所製の袈裟のごとくなる、なし。

くらきともがら、律学の袈裟を信ず。

あきらかなるものは抛却するなり。

おおよそ、仏仏、祖祖、相伝の袈裟の功徳、あきらかにして信受しやすし。

正伝、まさしく、相承せり。

本様、まのあたり、つたわれり。

いまに現在せり。

受持し、あい嗣法して、いまにいたる。

受持せる祖師ともに、これ、証契、伝法の師資なり。

しかあれば、すなわち、仏祖、正伝の作、袈裟の法によりて作法すべし。ひとり、これ、正伝なるがゆえに。

凡、聖、人、天、龍神みな、ひさしく証知しきたれるところなり。

この法の流布に、うまれ、あいて、ひとたび袈裟を身体におおい、刹那、須臾も受持せん、すなわち、これ、決定、成、無上菩提の護身符子ならん。

一句、一偈を身心にそめん、長劫、光明の種子として、ついに、無上菩提にいたる。

一法、一善を身心にそめん、亦復、如是なるべし。

心念も刹那、生滅し無所住なり。

身体も刹那、生滅し無所住なりといえども、所修の功徳、かならず、熟脱のときあり。

袈裟、また、作にあらず、無作にあらず。

有所住にあらず、無所住にあらず。

唯仏与仏の究尽するところなりといえども、受持する行者、その所得の功徳、かならず、成就するなり。

かならず、究竟するなり。

もし宿善なきものは、一生、二生、乃至、無量生を経歴すといえども、袈裟をみるべからず、袈裟を著すべからず、袈裟を信受すべからず、袈裟をあきらめしるべからず。

いま、震旦国、日本国をみるに、袈裟をひとたび身体に著すること、うるものあり、えざるものあり。

貴賤によらず、愚、智によらず。

はかりしりぬ、宿善によれり、ということ。

しかあれば、すなわち、袈裟を受持せんは、宿善、よろこぶべし、積功累徳、うたがうべからず。

いまだ、えざらんは、ねがうべし。

今生、いそぎ、その、はじめて下種せんことをいとなむべし。

さわりありて受持すること、えざらんものは、諸仏、如来、仏、法、僧の三宝に慚愧、懺悔すべし。

他国の衆生、いくばくか、ねがうらん? わがくにも震旦国のごとく如来の衣、法、まさしく、正伝、親臨せまし、と。

おのれがくにに正伝せざること、慚愧、ふかかるらん、かなしむ、うらみあるらん。

われら、なにの、さいわいありてか? 如来、世尊の衣、法、正伝せる法にあうたてまつれる。

宿殖般若の大功徳力なり。

いま、末法、悪時世は、おのれが正伝なきをはじず、他の正伝あるをそねむ。

おもわくは、魔党ならん。

おのれが、いまの所有、所住は前業にひかれて真実にあらず。

ただ、正伝の仏法に帰敬せん、すなわち、おのれが学仏の実帰なるべし。

おおよそ、しるべし。

袈裟は、これ、諸仏の恭敬、帰依しましますところなり、仏身なり、仏心なり。

解脱服と称し、

福田衣と称し、

無相衣と称し、

無上衣と称し、

忍辱衣と称し、

如来衣と称し、

大慈大悲衣と称し、

勝幢衣( or 勝幡衣)と称し、

阿耨多羅三藐三菩提、衣と称す。

まさに、かくのごとく受持、頂戴すべし。

かくのごとくなるがゆえに、こころにしたがうて、あらたむべきにあらず。

その衣財、また、絹布、よろしきにしたがうて、もちいる。

かならずしも、布は清浄なり、絹は不浄なる、にあらず。

布をきらうて絹をとる所見なし。(絹をきらうて布をとる所見なし。)わらうべし。

諸仏の常法、かならず、糞掃衣を上品とす。

糞掃に、十種あり、四種あり。

いわゆる、火焼、牛嚼、鼠噛、死人衣、等。

五印度人、如此等衣、棄、之、巷、野。

事、同、糞掃、名、糞掃衣。

行者、取、之、浣洗、縫治、用、以、供、身。

そのなかに絹類あり、布類あり。

絹、布の見をなげすてて、糞掃を参学すべきなり。

糞掃衣は、むかし、阿耨達池にして、浣洗せしに、龍王、讃歎、雨、華、礼拝しき。

小乗教師、また、化糸の説あり。

よるところ、なかるべし。

大乗人、わらうべし。

いずれか、化糸にあらざらん?

なんじ、化をきくみみを信ずとも、化をみる目をうたがう。

しるべし。

糞掃をひろうなかに、絹に相似なる布あらん、布に相似なる絹あらん。

土俗、万差にして、造化、はかりがたし、肉眼の、よくしるところにあらず。

かくのごとき( or かくのごとく)のものをえたらん、絹、布と論ずべからず、糞掃と称すべし。

たとえ人、天の糞掃と生長せるありとも、有情ならじ、糞掃なるべし。

たとえ松、菊の糞掃と生長せるありとも、非情ならじ、糞掃なるべし。

糞掃の、絹、布にあらず、金、銀、珠玉にあらざる道理を信受するとき、糞掃、現成するなり。

絹、布の見解、いまだ脱落せざれば、糞掃、也、未夢見在なり。

ある僧、かつて、古仏にとう、

黄梅、夜半の伝衣、これ、布なりとやせん? 絹なりとやせん? 畢竟じて、なにものなりとかせん?

古仏、いわく、

これ、布にあらず。これ、絹にあらず。


しるべし。

袈裟は絹、布にあらざる。

これ、仏道の玄訓なり。

商那和修尊者は第三の付法蔵なり。

うまるるときより衣と倶、生せり。

この衣、すなわち、在家のときは俗服なり、出家すれば、袈裟となる。

また、鮮白比丘尼、発願、施、氎ののち、生生のところ、および、中有、かならず、衣と倶、生せり。

今日、釈迦牟尼仏にあうたてまつりて出家するとき、生得の俗衣、すみやかに転じて袈裟となる、和修尊者におなじ。

あきらかに、しりぬ、袈裟は絹、布、等にあらざること。

いわんや、仏法の功徳、よく身心、諸法を転ずること、それ、かくのごとし。

われら、出家、受戒のとき、身心依正、すみやかに転ずる道理、あきらかなれど、愚蒙にして、しらざるのみなり。

諸仏の常法、ひとり和修、鮮白に加して、われらに加せざることなきなり。

随分の利益、うたがうべからざるなり( or うたがうべからずなり)。

かくのごとくの道理、あきらかに功夫、参学すべし。

善来得戒の披体の袈裟、かならずしも布にあらず、絹にあらず。

仏化、難思なり。

衣裏の宝珠は算、沙の所能にあらず。

諸仏の袈裟の体、色、量の有量、無量、有相、無相、あきらめ参学すべし。

西天、東地、古往今来の祖師みな、参学、正伝せるところなり。

祖祖、正伝の、あきらかにして、うたがうところなきを見聞しながら、いたずらに、この祖師に正伝せざらんは、その意楽、ゆるしがたからん。愚痴のいたり、不信のゆえなるべし。

実をすてて、虚をもとめ、本をすてて末をねがうものなり。

これ、如来を軽忽したてまつる、ならん。

菩提心をおこさんともがら、かならず、祖師の正伝を伝受すべし。

われら、あいがたき仏法にあうたてまつる、のみにあらず、仏袈裟、正伝の法孫として、これを見聞し、学習し、受持することをえたり。

すなわち、これ、如来をみたてまつるなり。

仏、説法をきくなり。

仏、光明にてらさるるなり。

仏、受用を受用するなり。

仏心を単伝するなり。

仏髄をえたるなり。

まのあたり、釈迦牟尼仏の袈裟におおわれたてまつるなり。

釈迦牟尼仏、まのあたり、われに袈裟をさずけましますなり。

仏にしたがうたてまつりて、この袈裟は、うけたてまつれり。


浣袈裟法。

袈裟をたたまず、浄桶にいれて、香湯を百沸して、袈裟をひたして、一時ばかり、おく。

またの法、きよき灰水を百沸して、袈裟をひたして、湯のひややかになるをまつ。

いまは、よのつねに、灰湯をもちいる。

灰湯、ここには、あくのゆ、という。

灰湯さめぬれば、きよく、すみたる湯をもって、たびたび、これを浣洗するあいだ、両手にいれて、もみあらわず、ふまず。

あか、のぞこおり、あぶら、のぞこおるを期とす。

そののち、沈香、栴檀香、等を冷水に和して、これをあらう。

そののち、浄竿にかけて、ほす。

よくほしてのち、摺襞して、たかく安じて、焼香、散華して、右遶数帀して礼拝したてまつる。

あるいは、三拝、あるいは、六拝、あるいは、九拝して、胡跪、合掌して、袈裟を両手にささげて、くちに偈を誦してのち、たちて、如法に著したてまつる。


世尊、告、大衆、言、


我、往昔、在宝蔵仏所時、為、大悲菩薩。

爾時、大悲菩薩摩訶薩、在、宝蔵仏、前、而、発願、言、


世尊、

我、成仏、已、

若、有、衆生、入、我法中、出家著袈裟者、

或、犯、重戒、或、行、邪見、若、於、三宝、軽毀不信、集、諸重罪、比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷、

若、於、一念中、生、恭敬心、尊重、僧伽梨衣、生、恭敬心、尊重、世尊、或、於、法、僧、

世尊、

如是、衆生、乃至、一人、不、於、三乗、得、受記別、而、退転、者、

則、為、欺誑、十方世界、無量、無辺、阿僧祇、等、現在、諸仏。

必定、不成、阿耨多羅三藐三菩提。


世尊、

我、成仏、已来、諸天、龍、鬼神、人、及、非人、若、能、於、此著袈裟者、恭敬、供養、尊重、讃歎、

其人、若、得、見、此袈裟、少分、

即、得、不退、於、三乗中。


若、有、衆生、為、飢渇、所逼、

若、貧窮鬼神、下賤諸人、乃至、餓鬼衆生、

若、得、袈裟、少分、乃至、四寸、

即、得、飲食、充足、随、其所願、疾、得、成就。


若、有、衆生、共相違反、起、怨賊想、展転鬪諍、

若、諸天、龍、鬼神、乾闥婆、阿修羅、迦楼羅、緊那羅、摩睺羅伽、狗弁荼、毘舎遮、人、及、非人、共鬪諍時、

念、此袈裟、

依、袈裟力、尋、生、悲心、柔軟之心、無怨賊心、寂滅之心、調伏善心、還、得、清浄。


有、人、若、在、兵甲、鬪訟、断事之中、

持、此袈裟、少分、至、此輩中、為自護故、供養、恭敬、尊重、

是諸人等、無能、侵、毀、触、嬈、軽、弄。

常、得、勝、他、過、此諸難。


世尊、

若、我袈裟、不能、成就、如是五事聖功徳、者、

則、為、欺誑、十方世界、無量、無辺、阿僧祇、等、現在、諸仏。

未来、不応、成就、阿耨多羅三藐三菩提、作仏事、也。

没失、善法、必定、不能、破壊、外道。


善男子、

爾時、宝蔵如来、申、金色右臂、摩、大悲菩薩、頂、讃、言、

善哉。

善哉。

大丈夫。

汝所言、者、是、大珍宝、是、大賢善。

汝、成、阿耨多羅三藐三菩提、已、是袈裟(衣)服、能、成就、此五聖功徳、作、大利益。


善男子、

爾時、大悲菩薩摩訶薩、聞、仏讃歎、已、心、生、歓喜、踊躍、無量。

因、仏、申、此金色之臂、長指、合縵。

其手、柔軟、猶如、天衣。

摩、其頭、已、其身、即、変状、如、童子、二十歳人。


善男子、

彼会大衆、諸天、龍神、乾闥婆、人、及、非人、叉手、恭敬、向、大悲菩薩、供養、種種華、乃至、伎楽、而、供養、之、復、種種讃歎、已、黙然、而、住。


如来在世より今日にいたるまで、菩薩、声聞の経、律のなかより、袈裟の功徳をえらびあぐるとき、かならず、この五聖功徳をむねとするなり。

まことに、それ、袈裟は三世諸仏の仏衣なり。

その功徳、無量なりといえども、釈迦牟尼仏の法のなかにして袈裟をえたらんは、余仏の法のなかにして袈裟をえんにも、すぐれたるべし。

ゆえ、いかん、となれば、

釈迦牟尼仏、むかし、因地のとき、大悲菩薩摩訶薩として、宝蔵仏のみまえにて、五百大願をたてましますとき、ことさら、この袈裟の功徳におきて、かくのごとく誓願をおこしまします。

その功徳、さらに、無量、不可思議なるべし。

しかあれば、すなわち、世尊の皮肉骨髄、いまに正伝する、というは、袈裟衣なり。

正法眼蔵を正伝する祖師、かならず、袈裟を正伝せり。

この衣を伝持し頂戴する衆生、かならず、二、三生のあいだに得道せり。

たとえ戯笑のため、利益のために身を著せる、かならず、得道の因縁なり。


龍樹祖師、曰、


復次、

仏法中、出家人、雖、破戒、堕罪、罪、畢、得、解脱、如、優鉢羅華比丘尼本生経、中、説。


仏在世時、此比丘尼、得、六神通、阿羅漢。

入、貴人舎、常、讃、出家法、語、貴人婦女、言、

姉妹、

可、出家。

諸貴婦女、言、

我等、少、容色、盛、美、持戒、為、難、或、当、破戒。

比丘尼、言、

破戒、便、破。

但、出家。

問、言、

破戒、当、堕、地獄。

云何、可、破?

答、言、

堕、地獄、便、堕。

諸貴婦女(皆)、笑、之、言、

地獄、受、罪。

云何、可、堕?

比丘尼、言、

我、自、憶念、本、宿命時、作、戯女、著、種種衣服、而、説、旧語。

或時、著、比丘尼衣、以、為、戯笑。

以、是因縁、故、迦葉仏時、作、比丘尼。

時、自、恃、貴姓、端正、(心、)生、憍慢、而、破、禁戒。

破、禁戒、罪、故、堕、地獄、受、種種罪。

受、罪、畢竟、値、釈迦牟尼仏、出家、得、六神通、阿羅漢道。

以、是故、知。

出家、受戒、雖、復、破、戒、以、戒因縁、故、得、阿羅漢道。

若、但、作、悪、無、戒因縁、不得道、也。

我、乃、昔時、世世、堕、地獄、

従、地獄、出、為、悪人、

(悪人、)死、還、入、地獄、

都、無、所得。

今、以(、此)、証知。

出家、受戒、雖、復、破、戒、以、是因縁、可、得、道果。


この蓮華色(比丘尼)、阿羅漢、得道の初因、さらに他の功にあらず。

ただ、これ、袈裟を戯笑のために、その身に著せし功徳によりて、いま得道せり。

二生に迦葉仏の法にあうたてまつりて比丘尼となり、三生に釈迦牟尼仏にあうたてまつりて大阿羅漢となり三明、六通を具足せり。

三明とは天眼、宿命、漏尽なり。

六通とは神境通、他心通、天眼通、天耳通、宿命通、漏尽通なり。

まことに、それ、ただ作、悪、人とありしときは、むなしく死して地獄にいる。

地獄より、いでて、また、作、悪、人となる。

戒の因縁あるときは、禁戒を破して地獄におちたりといえども、ついに、得道の因縁なり。

いま、戯笑のため袈裟を著せる、なお、これ、三生に得道す。

いわんや、無上菩提のために清浄の信心をおこして袈裟を著せん、その功徳、成就せざらめやは?

いかに、いわんや、一生のあいだ受持したてまつり頂戴したてまつらん功徳、まさに、広大、無量なるべし。

(もし)菩提心をおこさん人、いそぎ、袈裟を受持、頂戴すべし。

この好世にあうて、仏種をうえざらん、かなしむべし。

南洲の人身をうけて、釈迦牟尼仏の法にあうたてまつり、仏法、嫡嫡の祖師にうまれ、あい、単伝、直指の袈裟をうけたてまつりぬべきをむなしくすごさん、かなしむべし。

いま、袈裟、正伝は、ひとり祖師、正伝、これ、正嫡なり。

余師の、肩をひとしくすべきにあらず。

相承なき師にしたがうて袈裟を受持する、なお、功徳、甚深なり。

いわんや、嫡嫡、面授しきたれる正師に受持せん、まさしき、如来の法子、法孫ならん。

まさに、如来の皮肉骨髄を正伝せるなるべし。

おおよそ、袈裟は三世、十方の諸仏、正伝しきたれること、いまだ断絶せず。

三世、十方の諸仏、菩薩、声聞、縁覚、おなじく、護持しきたれるところなり。

袈裟をつくるには麤布を本とす。

麤布なきがごときは細布をもちいる。

麤、細の布ともになきには絹素をもちいる。

絹、布ともになきがごときは綾羅、等をもちいる。

如来の聴許なり。

絹、布、綾羅、等の類すべてなきくにには如来、また、皮袈裟を聴許しまします。

おおよそ、袈裟は、そめて、青、黄、赤、黒、紫色ならしむべし。

いずれも、色のなかの壊色ならしむ。

如来は、つねに、肉色の袈裟を御しましませり。

これ、袈裟、色なり。

初祖、相伝の仏袈裟は青黒色なり、(西天の屈眴布なり、)いま、曹谿山にあり。

西天、二十八伝し、震旦、五伝せり。

いま、曹谿古仏の遺弟みな、仏衣の故実を伝持せり。

余僧のおよばざるところなり。

おおよそ、衣に三種あり。

一、者、糞掃衣。

二、者、毳衣。

三、者、衲衣。

なり。

糞掃は、さきにしめすがごとし。

毳衣、者、鳥獣、細毛。

これをなづけて毳とす。

行者、若、無、糞掃、可、得、取、之、為、衣。


衲衣、者、朽故破弊、縫、衲、供、身、不、著、世間、好衣。



具寿、鄔波離、請、世尊、曰、

大徳、世尊、

僧伽胝衣、条数、有、幾?


仏、言、

有、九。

何、謂、為、九、謂、

九条、十一条、十三条、十五条、十七条、十九条、二十一条、二十三条、二十五条。

其僧伽胝衣、初之三品、其中、壇隔、両長、一短、如是、応、持。

次、三品、三長、一短。

後、三品、四長、一短。

過、是、条外、便、成、破、衲、也。


鄔波離、復、白、世尊、曰、

大徳、世尊、

有、幾種、僧伽胝衣?


仏、言、

有、三種。

謂、上、中、下。

上、者、竪三肘、横五肘。

下、者、竪二肘半、横四肘半。

二内、名、中。


鄔波離、復、白、世尊、曰、

大徳、世尊、

嗢咀羅僧伽衣、条数、有、幾?


仏、言、

但、有、七条。

壇隔、両長、一短。


鄔波離、復、白、世尊、曰、

大徳、世尊、

七条、復、有、幾種?


仏、言、

有、其、三品。

謂、上、中、下。

上、者、三、五肘。

下、者、各、減、半肘。

二内、名、中。


鄔波離、復、白、仏、言、

大徳、世尊、

安咀婆裟衣、条数、有、幾?


仏、言、

有、五条。

壇隔、一長、一短。


鄔波離、復、白、世尊、言、

大徳、世尊、

安咀婆裟衣、有、幾種?


仏、言、

有、三品。

謂、上、中、下。

上、者、三、五肘。

中、下、同、前。


仏、言、

安咀婆裟衣、復、有、二種。

何、為、二?

一、者、竪二肘、横五肘。

二、者、竪二、横四。


僧伽胝、者、訳、為、重複衣。

嗢咀羅僧伽、者、訳、為、上衣。

安咀婆裟、者、訳、云、下衣、又、云、内衣。


又、云、僧伽梨衣、謂、大衣、也。又、云、入王宮衣、説法衣。

鬱多羅僧、謂、七条衣、也。又、云、中衣、入衆衣。

安陀会、謂、五条衣、也。又、云、小衣、行道、作務衣。


この三衣、かならず、護持すべし。

また、僧伽胝衣に六十条袈裟あり。かならず、受持すべし。

おおよそ、八万歳より百歳にいたるまで、寿命の増減にしたがうて、身量の長短あり。

八万歳と一百歳と、ことなることあり、という。また、平等なるべし、という。

そのなかに、平等なるべし、というを正伝とす。

仏と人と、身量、はるかに、ことなり。

人身は、はかりつべし。

仏身は、ついに、はかるべからず。

このゆえに、迦葉仏の袈裟、いま、釈迦牟尼仏、著しましますに、長にあらず、ひろきにあらず。

いま、釈迦牟尼仏の袈裟、弥勒如来、著しましますに、みじかきにあらず、せまきにあらず。

仏身の、長短にあらざる道理、あきらかに観見し、決断し、照了し、警察すべきなり。

梵王の、たかく色界にある、その仏頂をみたてまつらず。

目連、はるかに、光明旙世界にいたる、その仏声をきわめず。

遠近の見聞ひとし。まことに、不可思議なるものなり。

如来の一切の功徳みな、かくのごとし。

この功徳を念じたてまつるべし。

袈裟を裁縫するに、割截衣あり、揲葉衣あり、摂葉衣あり、縵衣あり。

ともに、これ、作法なり。

その所得にしたがうて受持すべし。

仏、言、

三世仏袈裟、必定、却刺。


その衣財をえんこと、また、清浄を善なりとす。

いわゆる、糞掃衣を最上清浄とす。

三世の諸仏ともに、これを清浄としまします。

そのほか、信心檀那の所施の衣、また、清浄なり。

あるいは、浄財をもって、いちにして、かう、また、清浄なり。

作衣の日限ありといえども、いま、末法、澆季なり、遠方、辺邦なり。

信心のもよおすところ、裁縫をえて、受持せんには、しかじ。

在家の人、天なれども、袈裟を受持することは、大乗最極の秘訣なり。

いまは梵王、釈王ともに袈裟を受持せり。欲色の勝躅なり、人間には勝計すべからず。

在家の菩薩みな、ともに、受持せり。

震旦国には梁、武帝、隋、煬帝ともに袈裟を受持せり。

代宗、粛宗ともに袈裟を著し、僧家に参学し、菩薩戒を受持せり。

その余の居士、婦女、等の受、袈裟、受、仏戒のともがら、古今の勝躅なり。

日本国には聖徳太子、袈裟を受持し、法華、勝鬘、等の諸経、講説のとき、天、雨、宝華の奇瑞を感得す。

それより、このかた、仏法、わがくにに流通せり。

天下の摂籙なりといえども、すなわち、人、天の導師なり。

仏のつかいとして、衆生の父母なり。

いま、わがくに、袈裟の体、色、量ともに訛謬せりといえども、袈裟の名字を見聞する、ただ、これ、聖徳太子の、おおん、ちからなり。

そのとき、邪をくだき、正をたてずば、今日、かなしむべし。

のちに、聖武皇帝、また、袈裟を受持し菩薩戒をうけまします。

しかあれば、すなわち、たとえ帝位なりとも、たとえ臣下なりとも、いそぎ、袈裟を受持し菩薩戒をうくべし。

人身の慶幸、これよりも、すぐれたる、あるべからず。

有、言、

在家、受持、袈裟、一、名、単縫、二、名、俗服。

乃、未、用、却刺、而、縫、也。


又、言、

在家、趣、道場、時、具、三法衣、楊枝、澡水、食器、坐具、応、如、比丘、修行、浄行。


古徳の相伝、かくのごとし。

ただし、いま、仏祖、単伝しきたれるところ、国王、大臣、居士、士、民にさずくる袈裟みな、却刺なり。

盧行者、すでに、仏袈裟を正伝せる、勝躅なり。

おおよそ、袈裟は仏弟子の標幟なり。

もし袈裟を受持しおわりなば、毎日に頂戴したてまつるべし。

頂上に安じて、合掌して、この偈を誦す。

大哉。

解脱服、無相、福田衣。

披奉、如来教、広、度、諸衆生。


しこうしてのち、著すべし。

袈裟におきては、師想、塔想をなすべし。

浣衣、頂戴のときも、この偈を誦するなり。

仏、言、

剃、頭、著、袈裟、諸仏、所加護。

一人、出家、者、天人、所供養。


あきらかに、しりぬ。

剃、頭、著、袈裟より、このかた、一切諸仏に加護せられたてまつるなり。

この諸仏の加護によりて、無上菩提の功徳、円満すべし。

この人をば、天衆、人衆ともに供養するなり。


世尊、告、智光比丘、言、

法衣、得、十勝利。

一、者、能、覆、其身、遠離、羞恥、具足、慚愧、修行、善法。

二、者、遠離、寒、熱、及以、蚊、虫、悪獣、毒虫、安穏、修道。

三、者、示現、沙門、出家、相貌、見者、歓喜、遠離、邪心。

四、者、袈裟、即是、人、天、宝幢之相。尊重、敬礼、得、生、梵天。

五、者、著、袈裟、時、生、宝幢想、能、滅、衆罪、生、諸福徳。

六、者、本制( or 本製)、袈裟、染、令、壊色、離、五欲想、不生、貪愛。

七、者、袈裟、是、仏浄衣。永、断、煩悩、作、良田、故。

八、者、身、著、袈裟、罪業、消除、十善業道、念念、増長。

九、者、袈裟、猶如、良(福)田、能善、増長、菩薩道、故。

十、者、袈裟、猶如、甲冑、煩悩、毒箭、不能、害、故。


智光、当、知。

以、是因縁、三世諸仏、縁覚、声聞、清浄出家、身、著、袈裟、三聖、同、坐、解脱、宝牀。

執、智慧剣、破、煩悩魔、共、入、一味、諸涅槃界。


爾時、世尊、而、説、偈、言、

智光比丘、応、善、聴。

大福田衣、十勝利。

世間衣服、増、欲染。

如来法服、不如是。

法服、能、遮、世、羞恥。

慚愧、円満、生、福田。

遠離、寒、熱、及、毒虫。

道心、堅固、得、究竟。

示現、出家、離、貪欲。

断除、五見、正修行。

瞻、礼、袈裟、宝幢相、恭敬、生、於、梵王、福。

仏子、披、衣、生、塔想、生、福、滅、罪、感、人、天。

粛容、致、敬、真沙門。

所為、不染、諸塵俗。

諸仏、称讃、為、良田。

利楽( or 利益)、郡生、此、為、最。

袈裟、神力、不思議。

能、令、修、植、菩提行。

道、芽、増長、如、春、苗。

菩提、妙果、類、秋、実。

堅固、金剛、真甲冑、煩悩、毒箭、不能、害。

我、今、略、讃、十勝利。歴劫、広、説、無有、辺。

若、有、龍、身、披、一縷、得、脱、金翅鳥王、食。

若、人、渡、海、持、此衣、不怖、龍魚、諸鬼難。

雷電、霹靂、天之怒、披袈裟者、無恐畏。

白衣、若、能、親、捧持、一切悪鬼、無能、近。

若、能、発心、求、出家、厭離、世間、修、仏道、十方、魔宮、皆、振動、是人、速、証、法王身。


この十勝利、ひろく仏道の、もろもろの功徳を具足せり。

長行偈頌に、あらゆる功徳、あきらかに参学すべし。

披閲して、すみやかに、さしおくことなかれ。

句句にむかいて久参すべし。

この勝利は、ただ袈裟の功徳なり、行者の猛利、恒、修のちからにあらず。

仏、言、袈裟、神力、不思議。

いたずらに凡夫、賢、聖のはかりしるところにあらず。

おおよそ、速、証、法王身のとき、かならず、袈裟を著せり。

袈裟を著せざるものの法王身を証せること、むかしより、いまだ、あらざるところなり。

その最第一清浄の衣財は、これ、糞掃衣なり。

その功徳、あまねく大乗、小乗の経、律、論のなかに、あきらかなり。

広学に諮問すべし。

その余の衣財、また、かね、あきらむべし。

仏仏、祖祖、かならず、あきらめ、正伝しましますところなり。

余類のおよぶべきにあらず。


中阿含経、曰、

復、次、

諸賢、

或、有、一人、身、浄行、口、意、不浄行、

若、慧者、見、設生、恚悩、応当、除、之。

諸賢、

或、有、一人、身、不浄行、口、意、浄行、

若、慧者、見、設生、恚悩、応当、除、之。

当、云何、除?

諸賢、

猶如、阿練若比丘、持、糞掃衣、見、糞掃中、所棄、弊衣、或、大便汚、或、小便、洟、唾、及、余不浄之所染汚、見、已、左手、執、之、右手、舒張、若、非、大便、小便、洟、唾、及、余不浄之所汚処、又、不穿、者、便、裂、取、之。

如是、

諸賢、

或、有、一人、身、不浄行、口、意、浄行、

莫、念、彼、身、不浄行。

但、当、念、彼、口、意之浄行。

若、慧者、見、設生、恚悩、応、如是、除。


これ、阿練若比丘の拾、糞掃衣の法なり。

四種の糞掃あり、十種の糞掃あり。

その糞掃をひろうとき、まず、不穿のところをえらびとる。

つぎには、大便、小便、ひさしく、そみて、ふかくして、浣洗すべからざらん、また、とるべからず。

浣洗しつべからん、これをとるべきなり。


十種、糞掃。

一、牛嚼衣。

二、鼠噛衣。

三、火焼衣。

四、月水衣。

五、産婦衣。

六、神廟衣。

七、塚間衣。

八、求願衣。

九、王職衣。

十、往還衣。


この十種、ひとの、すつるところなり。

人間の、もちいるところにあらず。

これをひろうて袈裟の浄財とせり。

三世諸仏の讃歎しましますところ、もちいきたりましますところなり。

しかあれば、すなわち、この糞掃衣は、人、天、龍、等の、おもくし擁護するところなり。

これをひろうて袈裟をつくるべし。

これ最第一の浄財なり、最第一の清浄なり。

いま、日本国、かくのごとく糞掃衣なし。

たとえ、もとめんとすとも、あうべからず。

辺地、小国、かなしむべし。

ただ檀那、所施の浄財、これをもちいるべし。

人、天の、布施するところの浄財、これをもちいるべし。

あるいは、浄命より、うるところのものをもって、いちにして貿易( or 貨易)せらん、また、これ袈裟につくりつべし。

かくのごときの糞掃、および、浄命より、えたるところは、絹にあらず、布にあらず、金、銀、珠玉、綾羅、錦繍、等にあらず、ただ、これ、糞掃衣なり。

この糞掃は、弊衣のためにあらず、美服のためにあらず、ただ、これ、仏法のためなり。

これを用、著する、すなわち、三世諸仏の皮肉骨髄を正伝せるなり、正法眼蔵を正伝せるなり。

この功徳、さらに、人、天に問著すべからず、仏祖に参学すべし。


正法眼蔵 袈裟功徳


予、在宋の、そのかみ、長連牀に功夫せしとき、斉肩の隣単をみるに、開静のときごとに、袈裟をささげて頂上に安じ、合掌、恭敬し、一偈を黙誦す。

その偈に、いわく、

大哉。

解脱服、無相、福田衣。

披奉、如来教、広、度、諸衆生。


ときに、予、未曾見のおもいを生じ、歓喜、身にあまり、感涙、ひそかにおちて衣襟をひたす。

その旨趣は、そのかみ、阿含経を披閲せしとき、頂戴、袈裟の文をみるといえども、その儀則、いまだ、あきらめず。

いま、まのあたり、みる。

歓喜、随喜し、ひそかに、おもわく、

あわれむべし。

郷土にありしとき、おしゆる師匠なし、すすむる善友あらず。

いくばくか、いたずらに、すぐる光陰をおしまざる。

かなしまざらめやは?

いまの見聞するところ、宿善、よろこぶべし。

もし、いたずらに郷間にあらば、いかでか、まさしく、仏衣を相承、著用せる僧宝に隣肩することをえん?

悲喜、ひとかたならず。

感涙、千、万、行。


ときに、ひそかに発願す、

いかにしてか、われ、不肖なりというとも、仏法の嫡嗣となり、正法を正伝して、郷土の衆生をあわれむに、仏祖、正伝の衣、法を見聞せしめん。


かのときの発願、いま、むなしからず。

袈裟を受持せる在家、出家の菩薩、おおし。

歓喜するところなり。

受持、袈裟のともがら、かならず、日夜に頂戴すべし。

殊勝、最勝の功徳なるべし。

一句、一偈の見聞は、若、樹、若、石の因縁もあるべし。

見聞、あまねく、九道にかぎらざるべし。

袈裟、正伝の功徳は十方に難遇ならん。

わずかに一日一夜なりとも、最勝、最上なるべし。


大宋、嘉定十七年癸未、十月中に、高麗僧、二人ありて、慶元府にきたれり。

一人は智玄となづけ、一人は景雲という。

この二人、しきりに仏経の義を談ずといえども、さらに文学の士なり。

しかあれども、袈裟なし、鉢盂なし、俗人のごとし。

あわれむべし。

比丘形なりといえども比丘法なし。

小国、辺地の、しかあらしむるならん。

日本国の比丘形のともがら、他国にゆかんとき、また、かの智玄に、ひとしからん。

釈迦牟尼仏、十二年中、頂戴して、さしおきましまさざりき。

すでに、遠孫なり。

これを学すべし。

いたずらに名利のために天を拝し、神を拝し、王を拝し、臣を拝する頂門をめぐらして、仏衣、頂戴に回向せん、よろこぶべきなり。


ときに、仁治元年庚子、開冬日、在、観音導利興聖宝林寺、示、衆。

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