第62話 地理に弱い?②

「えっと、○Rの東口!目の前の信号を渡って!少し歩くと○ブンイレブンが見えるでしょう?『どっちに?』って?○ブンイレブンの方に!もしもし?えっ?ちょっと待って!店長に代わるから!」

 他店から移籍してきた嬢が、顧客(※前店からの指名客)に道案内している途中で匙を投げてしまった。

 個人事業主であるキャバ嬢が顧客に道案内するのは当然の責務で、本来なら店長の仕事ではない。

 移籍する嬢は事前に店周辺の地理を把握しておく必要がある。

 例えば……

「○R東口を背にして目の前の信号を渡って……」

「右折して二本目の通りを左折して……」

「右手の○UB(チェーン店のパブ)を過ぎると青い立て看板が見えてくるでしょう?」

「ちょび髭のキャッチ(客引き)が立ってるから私の名前を伝えて!」

などと誘導すれば、スムースに来店してもらえる。


 女性は実際、地理に弱いのか?

 生物学的な問題ではなく“女性的な脳”に由来するのか?

 どのみち、私の周囲には地理弱い女性が散見していた。

「駅に着いたら電話して!」

 同僚の嬢の自宅に招かれ、曖昧な道案内をされたことがあった。

「近くにコインパーキングがあるでしょう!」

しまいには

「寺!寺!お寺の後ろのマンションだよ!」

と逆ギレされたりした。

 彼女には慣れしたしんだ街でも、初めて歩く私にはすべての情報が均一に見える。

 信号をいくつ渡るのか?

 右折か左折か?

 通りの名前は?

 なんなら、住所を教えてもらうほうが早かった。

 脳トレのためにふだんはオフにしているが、迷ったらGPSで辿るしね。


 某中小企業の採用担当だった指名客は、面接の際、自宅の最寄り駅から会社までの地図をB5版の用紙に書かせ、相手の論理的思考や空間認識力を観るのだと教えてくれた。

 私も試されたが、用紙から少しはみ出してしまった。

 バランスよく書けた人は採用率が高かったらしい(※全員、生物学的男性)。


 元来、男性にはコンパスが内臓されていると聞くが、そうではない人もいるだろう。

 酔った男性が一時的にコンパスを壊すことだってある。

 親しい男性に小動物のように服の端をつままれると

『俺っちに任せとけ!無事に帰したる!』

という気持ちになったりする(笑)。



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