第26話 ポニーテール①

 某総合商社の団体客が来店した。

 その夜が初来店だったように記憶している。

 そのなかでも

「俺はエリートだ!」

と悪目立ちする俺様気質のポニーテールにつけられた。

 総合商社の客に多い、ちょろっとポニーテール。

 たいがい、粘着質傾向にある。

 私と相性がいいはずがない(笑)。

 ポニーテールは海外赴任帰りの独身で

「恋人募集中!」

と触れまわった。

 年のころは40代半ば。

 自称多趣味な男で、ファッションには特にこだわりがあると言うが、身につけている物がことごとく悪趣味だった。

「プレゼントするからいっしょに買いにいこうよ」

 場内指名(フリー客から取る指名)すらしていない初見の嬢に、店外デートにつき合え!とガツガツ迫ってくる。

「好きなブランドとかあるんですか?」

 うんざりした私は、それには応じず、話題をそらした。

 すると、がぜんポニーテールの顔が曇った。

 うつむいて押しだまっている。

 そうしたかと思うと、くるりと私に背を向けて周囲の同僚と騒ぎだしてしまった。

 思いどおりにならないことがあると拗ねるタイプらしい。

 自省がないので気づかないだろうが、女性を物のように右から左に動かそうとするから、女性を困惑させたり不快にさせたりしてしくじるのだ。

 しくじり続ける、のだ。

 エリートだ!と豪語するなら、それなりの問題解決力があってしかるべきじゃないか?

 リラックスしたりバカをしたくて、仕事以外で気や頭を使いたくない気持ちはわからないでもないが、女性の気持ちからは遠のく一方だ。


 団体席でぽつんと取りのこされた私が、その後、ポニーテールに話しかけることはなかった。

「ごちそうさまでした」

 つけまわし(嬢を客席につけたり、客席から外したりする係。俯瞰力が試されるため、ある程度のキャリアを要する)に抜かれたのでドリンクを頂いた礼を言ったが、ポニーテールはふり向きもしなかった。

『勝手に拗ねてろ!クソガキが!』

 私はさっさと退席して

「あいつ店外(デート)狙い」

すぐさま、つけまわしに報告した。

 そうすると、尻軽嬢をあてがって指名がつくので、店や嬢の利益になるうえ、真面目に仕事をしている嬢や新人が犠牲にならずに済んだ。

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