紅(あか) 五
その様が目に入っている筈なのに、
何故なら、その闇の妖精族はフォルスではなかったからだ。フォルスが連れてきた仲間だ。
それでも確かな事は、今の闇の妖精族にとっての獲物は、無謀にも己に刃向かってきた陸王只一人と言う事だ。
肌の色、耳の形、美しい顔の造作、そして瞳と髪の色を見て、その種族がなんであるか分からない者はいない。
けれど陸王は挑む。しかも
闇の妖精族は陸王を嬲るように地から茨の鞭を何本も
闇の妖精族はそれを繰り返し、その繰り返し自体を楽しんでいた。さながら猫が追い詰めた獲物をいたぶる様に、それはよく似ている。
一息に突っ込んでいけない事に、陸王は徐々に
「
忌々しげな声音だった。
このままいたぶられ続けるのなら、いっそ、と思った。相手はたかが
思い立った途端、陸王は闇の妖精族に向かって一息に突っ込んだ。
闇の妖精族もその姿を見止めて、これで何度目になるか分からない茨の束を眼前に展開した。今度こそは陸王を捕らえる為に。
今までならこれで陸王は退いていた。だと言うのに、ふっと眼前から消え失せたのだ。
慌てて闇の妖精族は己の周りに結界を張った。鋭い鎌鼬の壁に、天からは無数の稲光を呼び寄せた。雷鳴と共に、それは闇の妖精族を取り囲む。そして辺りに目を馳せた。
陸王の姿を捜して。
と瞬間、背後に突き刺さっていた稲妻が轟音を立てて消し飛び、同時に闇の妖精族を護っていた風の刃が消し飛んだ。
背後を振り返ると、その先にいたのは陸王。
陸王の目の前だけ、そこに突き立っていた稲妻がぽっかりと口を開け、その姿を晒している。
刀を握る陸王の両手は手から肘にかけて、黒く
闇の妖精族はその陸王から逃げ出すようによろよろと
そして陸王の瞳に一瞬、変化が起きた。
闇の妖精族を
「きさ、ま……。まさか」
自分で張った稲妻の結界に触れたのだ。声を出す間もなく、闇の妖精族の身体は燃え上がり、炭化した。それと同時に術が解け、弾けるような音を立てて稲妻の結界が解かれる。
それを見届けて、陸王はその場に片膝をついた。刀を地面に突き立てて肩で大きく息をつく。闇の妖精族は雷韋が言うほどに恐ろしくはなかったが、面倒な相手だとは思った。
それでも流石に稲妻を斬るのには勇気がいったが。
下手を打てば、闇の妖精族が自滅したような結果になってもおかしくはなかったのだから。
陸王はもう一度大きく息を吐き出し、その時になってようやく砦の中から現れた兵士に肩を貸されて立ち上がる。兵士達にかけられていた術も解かれたのだろう。彼らは多かれ少なかれ、皆、血を流していた。
そうして陸王を立ち上がらせると、今度は
「待て! これ以上の
それに対して、衛士も言葉を返した。
「あの侍はグローヴ卿に手配されている罪人だ。そしてこの二人もその仲間。引き渡すのが筋というものだろう」
「いいや、この方々は客人だ。客人を引き渡すわけにはいかぬ。しかも貴様らは迎えの馬車を襲った。この馬車がエウローン卿の馬車であると知っての事か。もしそれを承知の上で襲ったのであれば、礼を
その言葉に、衛士達の間にざわりと動揺の声が広がる。
「道理が分かったら退け。エウローン卿は何もグローヴ卿と事を構えたいわけではない。ただ客人を迎えたいだけの事。卿の馬車を襲ったその責は追って伝える。さぁ、退け!」
兵士の言葉の影で雷韋は他の兵士に肩を貸して貰って砦へと歩き出し、雪李はヘルハウンドを送還していた。
そして衛士達は
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