第206話―東京都の中心部で交錯される3―

休暇はいつもよりも自由となれる日だ。

生徒会や学園で手助けや相談事もあってウチには教養も身に付けるために怠れない。

政財界と戦うサファイア家の養子になったからには相応しい所作を励まないとならない強圧も知らずに掛かっている。

それを抜けるのも簡単ではあるがここまで手厚く育てられた。そのご恩を返さないと。


(だからなんだろうね。

同学年をどうしても遠く見えてしまうのは)


わたしは複雑な家庭で生まれた。

貧民から富裕層と置かれた環境が変わっていくものの古くから慣習化したものは抜けられないのもある。わたしの知る中では休暇とは土曜や日曜日ではない。

スケジュールの白紙が休暇なんだ、わたしだけの辞書にはそう記載されている。


(わたしの辞書にめくってみて恋愛の説明文はそのまま辞書と同じ。それもそう。

歪んだ劣情を恋愛とはいえない)


我ながらなかなかの過酷な人生を送っている。


(……あと冬雅おねえちゃん達を恋愛なんか眺めているとラブコメみたいなんだよね。

楽しいけど甘酸っぱいというか純愛と似て非なるものか……有り体に言うなら優しい恋愛?)


決着がつきそうにない。

きっとラブコメを研究者……いればの話だが。それとラブコメを心から愛するオタクと『ラブコメの定義について』と議論を開いてたら持論だけが展開されて混沌の極みとなるだろう。


(恋愛……か)


おにいちゃん達の邪魔にならないよう外に出たわけなのだが身近で見てきたから感化されたのか憧れをもつ。

世間でのわたしは…………Z(ゼット)世代、年頃の女の子、JK、美少女、お嬢様。

どれも女の子としてステータスみたいなのだが一人の人間であり特別的な付加価値なんて無い。

お嬢様でも品性下劣な人も少なからずいるし。


「ハァー、他にも属性をつけるならビッチとか」


「おいおい高校生のくせに独白するのかよ」


「うわぁ!?いるなら言ってくださいよ」


店に入ってからどこかへ行った奴が帰ってきた。どうしてこの男は大人のくせにジッとしないのか。おにいちゃんの実弟とは思えないぞ山脇移山。


「いや無理だろ。戻る度に居るぞ!なんてな。毎回そんなことを言うとか疲れる」


「減らず口を。

それで欲しいの買えましたか?」


黒炎弾こくえんだん!」


「……」


「レッドアイズブラックドラゴン知らないのか」


「知りませんよ。どうせ古いカードなんでしょう」


「その通りなんだが古いカードは思い出深いんだよ。淘汰されやすい隆盛期を生き残っているからこそ。

古いカードゲームがつづいて古きカードには惹きつけるんだ」


なんか熱く語っているがよく分からない。

どうも遊んだこと少しだけカードゲームを聞かされても困る。わたしは奴が寄りたいといって入ったのはカードショップ。


「ふーん」


「おっと比翼つまらなかったよな。

すまねぇ、すまねぇ。んで比翼はビッチじゃないでは無い」


「ち、ちがう!?」


急になにをいうのだ。

まったく嫌な独り言を耳に入ってしまって最悪だ。早くカードショップに出たい。


「落ち着けよ。どっちを否定しているか分からねぇぞ。いいかビッチなんて奴はビッチとは言わねぇか、またそれを認めても隠そうともせず誇る奴だ。比翼にはそれがない。

いくら過小評価するにしてもビッチとかありえねえぞ。あんまし責めるなよ自分をなぁ」


「…………ふん」


癪だがそのとおりだ。

深くは聞いてはこない。気遣っているのだろうか?奴はなにが楽しいのか快活に優しく笑うのだった。

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