第156話―かんろ―

デートするには絶好で好適こうてきだった。

荒ぶることのない晴れ渡った空が広がり小気味よい気候、自然の少ない都会に住んでいる地域では珍しいさえずる鳥のオーケストラ。

そうした秋の特有のさわさわと立つ風を肌に当てられ心は優雅な言葉を紡ぎたい心情に至る。


「どれほど待ち望んでいたことでしょうか。

ああ、わたしの心と想いはキレイな青空で美しくある雲の上で漂っているような心境です。

立て続けてお兄ちゃんとデート最高です!!」


「穏やかな気温と天気だと舞い上がってしまうのは仕方ない。でも冬雅お願いだから冷静になってほしいと切に思いますッ!!!」


冬雅が現実から帰らずに妄想の中で浸かっている。そのような状態であるのをこれ以上の悪化しないよう注意しながら歩いていた。

往来が激しくなる時刻が過ぎ去った午前、カンコドリの声のようなヒッソリとした静かさ。

右と左が連なって立て並んでいる住宅を挟んだ通路を並んで歩いていた。肩にあたるような距離ではなく密着しない程よい間隔を空けている。


「どんな苦難でも雷のように嵐でも屈しません。いっぱい愛を告げ交わしてイチャイチャするのです。それでお兄ちゃんと……

きゃあぁぁーーッ!」


「冬雅さーーん。戻ってきてくださーーい」


不思議なことに冬雅は、デート中であっても一人で盛大に想像の翼を広げて高く高くと羽ばたいていた。声をかけても生返事だけで時たまにハッと声を漏らして気を取り戻したと思えば先程の醜態に耐えられず顔を赤らめる。


「うぅー、お兄ちゃんにとんでもない姿を見せてしまったですよ」


「照れているのは日課のようなものだから別に気にしていないよ。それよりも今後の秋のデートを話でもしないか?」


「日課のようなものですか、うーん。

わたしなりに解釈すると。あられもない姿を見て慣れている。

見てくれていることに喜ぶべきか反応が薄くなっていることに危機感を持つべきか……」


「そこまで真剣に考えなくてもいいのでは」


手をおとがいに当てて渋面を作った冬雅の横顔はさながら未解決事件を挑むような刑事か探偵みたいなものだった。

そのうち使い古されたトレンチコートとかコスプレするのだろうなあと俺も現実味のないことを考えるのであった。

――家の近辺に経営されている喫茶店。

以前ここで冬雅と一緒に入ったことがある。支払いをしようとして財布を忘れてしまい冬雅が払ったことのある思い出の場所。


「お、お兄ちゃん入りましょうか」


頬を桃色がかった朱色に染めながら上目遣いの冬雅。なかなかどうして見蕩れてしまうほど魅力的だった。息を飲んでしまっていることを自覚したのは五秒ほど。

思考が回り始めて、疑問を抱くようになる。冬雅の反応だと入るのを恥ずかしいみたいだから問うべきかと考えたがやめた。

小さく頷いて返事をして入店。


「いらっしゃいませ」


バイトの大学生らしき女性が駆けつける。席を案内され冬雅と指し向かいに座る。

壁や家具などは内装はアンティーク風、古き良き雰囲気のある空間の喫茶店だった。

コーヒーを注文して店員が立ち去ると冬雅は前のめりになって目を輝かせて口を開く。


「ねぇねぇ将来の話をしましょう。お兄ちゃんは子供の数は何人ぐらい欲しいですか?」


「な、ななッ!?」


冬雅は数瞬の前にしていた赤面を今度は俺が注文を頼んで浮かぶ羽目はめとなる。

まだキスもしていない。いやそれどころか恋人繋ぎさえもしない日は長いのだ。

いくら何でも順序を一段と二弾を軽々と飛ばして省いた問い掛けされたことで俺は、つい年齢の不適切な態度をしてしまった。

やおらになる心臓が速まるのを意識から無理やり考えないようにして言葉を返そうと口の周り筋肉を駆使する。


「ど、どうしてそんなことを?」


なにも答えないまま質問を質問で返して訊く。


「こ、これは……鉄板てっぱんのセリフなんです。よくありますよねぇ?喫茶店やファミレスなどで恋人がするであろう話題を広げる第一のセリフなのです!!」


まさか返されるとは思わなかったのか冬雅は恥じらいながらも声を落とさずに答える。

さ、さすがは毎日と告白してドキマギさせてやりますと嘯くだけはありますね。ええ……どこで俺は関心をしているのだろうか。

とにあえず冬雅をしようとする話題をぞらすことにしないと。この話題するには刺激が強すぎる。どちらも、双方として、お互いのために。


「そ、そうなのか。

それよりも懐かしいよね。ここに入ったのっていつ以来かな?いやぁー、懐かしい」


急なことなので上手く言葉が出てこない。話術が拙いことで定評のあるため話題を変えようとして失敗してしまった感がある。

そしてベストタイミングなことに注文したコーヒーが運んでテーブルの上に置く。

ふむ、丁寧ていねいな所作だと関心していると勢いよく冬雅が立ち上がり椅子が危うく倒れる勢いだった。


「ありのままを告白しますと。

お、お兄ちゃんの子供が欲しい気持ちは強いです。もちろん生活の基盤が整えるまでは出来ません。

なにより恋人らしいことした最終的な計画の予定なのですけど想定外なこともありますよねぇ。その想定外が起きても構わないと思っています。

どうか末永く幸せになりましょう一緒に……

お兄ちゃん大好きです。心から大好きです!」


ほとばしる想いを駆け巡る気持ちのまま冬雅は告白をした。声を高くと張り出された鈴を転がした声は心の奥にまで響いた。

心を奪われるといのはこういうことを指すのかなと考えていると俺は周囲の異変に察知する。

そうだ!ここは喫茶店の中だ。

つまり冬雅の高々と宣言された告白は店内にいる多くの者が今ここで聞いていることとなる。


「あ、ありがとう冬雅。俺は……幸せだよ」


「わあっ!?本当ですか。

えへへ、わたしも幸せでいっぱいですよ」


とても満足に満ち満ちた顔で冬雅は席に座り直した。さて、この混沌として最も注目されている状況をどう切り抜けるかと俺は頼んだエスプレッソをすすって思考をする。

あっ、この苦みと味わい深さは甘露かんろだ。

美味しかったコーヒーをまたすすりながら俺は窓の景色を眺める。

もう十月らしい景色だ。

日が落ちれば夜が長くなり露が冷たくなるだろう時期。まだ季節が寒露かんろとなりうとしていることを遅まきながら認識するのだった。

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