第116話―比翼は音を立てずに観察している参ノ書―
実行力と粘りの強さでは定評のある冬雅はメイドとしての振る舞いは
とはいえ、とにかく突然するという際限のない行動は控えるものだった。予想を超えるような想定内な行動も取らず冬雅は、感覚的に大好きと告げるのみ。
「うーん、お兄ちゃん待って。離れないで」
夜が更けていき冬雅は疲れたのか眠りに落ちていた。令嬢メイドとして、ご褒美が欲しいと要求してきて俺はため息をこぼしながら願望を叶えてあげさせることにした。
冬雅が要求したのが膝枕。ここは肘枕だと思っていたがそれは距離的に近すぎるのと一緒に横にならないと出来ないため難しい。
もしかしたら断れる可能性が低いと計算して膝枕を頼んだかもしれない。
「一体どんな夢を見ているのか大体は想像つけそうだけど起こすべきかな」
「手を握れればいいじゃないですか?」
ベットの上で声をかけるのは隣に腰掛けている比翼だ。足をブランコのように前後を揺らしてゲームをていた比翼はそんなことを言った。
「さすがにそんな安易に悪夢から抜けられない。なら起こした方が懸命な判断だと――」
「そもそも懸命な判断から離れていると思うんだけどねソレは。
悪夢を言ったつもりないけど試すのも一つだよ。好きな人から手を握るだけで力が無限に湧いてしまうものだから」
「そこまで言うなら」
そうなことなる訳がないと半信半疑で冬雅の
「うーん……えへへ、お兄ちゃん。ずっと一緒だよ。もう離れないから。これから、ずっと一緒にいようねぇ」
起きているのではないかと疑いたくなるような反応だった。
安堵した冬雅は、安心しきって静かに微笑みを浮かべている。握っていた手を離れないよう落ちないようギュッと握り返す。
……ふむ、これは手を離すのは難儀になりそうだ。どうしたものかと悩んでいると比翼は、勢いをつけながら跳躍してベッドから立つ。座ったままで跳ね起きるような動作した比翼は反転して腰掛けたままの俺を見下ろして言う。
「ここは、お若い二人きりにさせておきますかな。わたしはベッドの下でも寝ておくよ」
「わざわざそんな気遣いしなくても。
俺が出ていくら女の子の二人だけで就寝しないと」
「生憎と、わたしは百合な恋愛しないので。そうは言ったけど、ここの部屋で寝るから三人になるわけになるね。
真奈おねえちゃんとは添い寝しておきながら本命の相手には添い寝しないのは問題。
おにいちゃん観念して添い寝しないと」
くっ、たしかに真奈が泊まることがあったときは一緒によく寝てはいたけど大きな責任が伴うようなことはしていない。
それに冬雅とは添い寝は、あまりしていない。とはいえこれは俺が独断で決めるものではない。
「添い寝するかは俺だけじゃなく冬雅の意見を聞かないとならない。……こういうのは一緒に納得した上で、じゃないと」
途中から恥ずかしくなって言い淀んでしまったけど許容はだろう。
「でも、遅いですし。起こしにくいじゃないですか?そっと手を離すのも不可能に近いですし諦めて添い寝するべきですよ」
いや、そんなことは出来るはずがない!と否定はしたものの――そして現在。
けっきょく強く握られていて離れようともしない冬雅。しかたなく比翼の助言に従うことになるのであった。
「やれやれ素直じゃないですよね。
おにいちゃんは」
「大人だから素直になるのが難しいんだよ」
シーリングライトは豆電球にして、蒸し暑くならないようクーラーをタイマー設定して俺と比翼は眠りつこうとしていた。
まだ意識が遠くなることも無く他のことを考ていると比翼が声掛けてきた。
「ツンデレよりも
面倒くさいですね大人は……冬雅おねえちゃんの前では、もっと素直になった方がいいですよ。
その方が喜びますし、おにいちゃんも心を許せる唯一の人になるわけですから」
まさか妹のような存在であった比翼からそんな助言を貰う日が来るとは夢にも思わなかった。
心を許せる唯一の人というのは、ずっと隣にいてくれる人生のすべてを共有が出来る人。
なんだかそれは過大な解釈だなと我ながら、とんでもない恥ずかしいことを考えていた。
でも、そうで在りたいとは思っている。
「前向きに検討しておくよ」
「うわぁ。
それ検討なんかせず廃棄するつもりだよ。
まあ早まらないで二人のベースで進むんだよ」
「ああ」
これで話が区切りのようで比翼が声をかけてこない。そのまま時間が過ぎると小さな寝息が耳に入る。どうやら比翼は眠ったようだ。
「お兄ちゃん……大好きです」
またも冬雅は寝言を口にしていた。
気のせいか声に感情的というか弾みがあった。
そして今は俺だけ起きている。今ならどんな言葉でも彼女たちには届かないだろう。
「冬雅……俺も冬雅のことが大好きだよ」
この先どんなことがあるか分からない。
きっと険しい道になるのだろう。
それでも冬雅を幸せにしよう。
たとえ相手が俺でなくとも構わない。別れても冬雅を幸せにすると自分に固く誓うのであった。
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