第109話―みえざる追跡―

忙しいわけでも退屈でもない一日。

生徒会で今日中に片付けないとならない至急の案件など無い。回るようなこともなく予定に余裕がある。

そうすると生徒会で他の対処も回れることも出来る時間のゆとりは確保してあるものの降ってくることもない。


「いやぁー、何事もなくひと仕事を終えたあとに飲むコーヒーは、すこぶる格別すぎるよ」


「だね。明日のスケジュールや予算の頭を抱えないで済むのは……リンゴジュースをゆっくりと飲めるのは吉日の至れり」


顔をゆるやかに微笑んでリンゴジュースをちびりちびり飲むのは我が生徒会メンバーで学友にあたるエイちゃん。

薄々と感じてはいたけど、もしかしてエイちゃんはリンゴが大好きなのかもしれない。

艶やかなヘアを青いリンゴの髪飾りがつけてある。大好物だけでは収まらずに愛情が宇宙のように広大に広がっていてエイちゃんのリンゴに抱く想いというものは宇宙のようにあるのかもしれないと考えながらコーヒーを啜る。


「てへへ、こうやってエイちゃんと黄昏の屋上で雑談するのも楽しい!」


変わり映えなく日々を過ぎようとする傾いていく陽を屋上でエイちゃんと並んで見ていた。


「そ、そう。いきなり楽しいと言われると照れてしまうよ……でも私も楽しいかな?」


「どうして、そこで疑問形なのかなエイちゃんは。花の女子高校生が夕日を眺めるの退屈だったとか」


内なる眠られしイタズラ心が目覚めてしまい血流のように流れるの感情そのまま言ってみた。


「ううん、そうじゃないの。けど……」


「けど?」


うーん、どうも困っている様子だ。

これは深入りとかしたかもしれない。すでに気の置けない仲なのかと思ったけど早すぎた。


「なんて言えばいいのか戸惑っているかな私、ヒヨちゃんとは仲良くなる前は単独行動とかしていたからなのか……誰かと二人だけで話した経験が少ないの」


つまりは、友達二人きりとかでいることが落ち着かないなんだと頬を赤らめて口にしたのだ。


「えぇーッ!まさかの発言ッ!?

なにを言うのかと思ったら立ち振る舞いが分からないだけなんて」


そんな事で悩んでいたなんて拍子抜けをしてしまった。わたしが声にして笑ったことに会計のエイちゃんは機嫌を損ねた顔になる。


「た、たしかに小さな悩みかもしれないけど軽視して欲しくはないのだけど。

こうみえても友達が少ないのだから」


「それ自慢をするような事でもない。

こう突っ込んだけど、わたしだって友達が少なかったときもあったんだよね」


あまり想起したくない暗い過去。搾取されていく世界は悪循環と知りながらも回るしかなくて日本が狭く感じていた。

そんな気持ちだからなんだろう、理解して欲しい相手や遊んでくれる人をいつのまにか考えなくなっていき友達というものがいなくなった。

あまりスマートな解決せず手を伸ばしてくれた恩人おにいちゃん、それと冬雅おねえちゃんたち。


「とても処世術が優れているからいるものだと」


「うん。でもそれは過去形でのこと、現在進行形として友達は多いほうだよ」


「えぇー、やっぱり友達おられるじゃないですかッ!?フッフフ」


「あっははは」


おかしいな事が起きてもいないのに、わたしとエイちゃんは声を出して笑う。おそらくエイちゃん自身もよく分からずに一緒に笑っている。

そんな心地よい中で、わたしは笑いが止まると鉄柵を手を置いて夕焼けに染るグラウンドを見ようと視線を下げる。


「えっ!?ねぇ、あそこを。エイちゃんあそこにいるのって後輩の……」


「ハ、ハムちゃんの隣に男の子がいるッ!?」


カバンを持って帰宅しようとする生徒会の庶務を任されている葉黄の姿があった。その隣にはイケメンと並んで歩いていた。

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