第94話―黄葉に色づく街並み其の弐―

目にした珍しい本を気づいたらペラペラと流し読みをしていた。


「あぁー、勉強するの忘れてしまったな」


「そう嘆くヒヨちゃんだったが、捗り具合は順調なのであった」


大学教授が科学的な根拠から察するにと、なぜか考察論が延々と続いていくページから顔を上げる。エイちゃんは相変わらずに顔はほころんでいて誰からも愛嬌を振る舞う。


「ううん、そんなことないよエイちゃん。

わたし宿題よりも参考書とか気になる知識欲に向けてしまうから他よりも比較的で遅いから」


当たり前であるが同じ生徒室にいるのだから

何をしているかは作業中でも目や耳に入る。

さすがに吉水生徒会長も交渉しているというのに、筆頭格である自分がゆっくりするわけにもいかない。


(とはいえ、やることそんなにないんですよね)


勉強する気持ちにはなれず、自ら率先として何かをするため模範的となれるものを探す。

せっかくの空いた時間を雑務しようとするなんて立派な社畜精神だなと自虐的になる。

あたりを回ってみてゴミ箱があふれるほど溜まっていたのでそれを捨てにいくことにした。

ついでに筆記道具やノートなどを教室でカバンに放り込むことにして生徒室をあとにした。

階段を降りて渡り廊下に出る。


「あっ比翼さんだ!あの、今日もお勤めご苦労さまなのです」


イソヒヨドリのような発声は後ろからした。

その判別がつけやすい声に誰かが想像がつきながら振り返ると赤茶げたボブヘアーをした可憐な少女が両手を後ろにして柔和な笑みを浮かべていた。

そして親しげに向ける青く透き通った瞳。

この子は生徒会の役員でゆるキャラのような存在。

ピカピカの一年生である葉室黄葉はむろこうようが纏う感情は、ほのぼのしていて平穏とさせる保護欲の高さを誇る高校生。


「ノー、ノー。黄葉こうよういいですか目上に対しての労いの言葉というのは、まぎわらしいでしょう」


「へっ?」


目を点になるボブヘアーが似合う黄葉。

わたしは指を立てながら先輩として注意をする。


「お疲れ様さまが目上に使われるものです。

それと対となるのが先程にした同等か目下にはご苦労さまと使うもの」


「へぇー、やっぱり比翼さんは何でも知っているんですね。とても尊敬します!」


「いえいえ、わたしがなんでも知っているわけではないよ。知っているのは学んだ範囲だけ」


羨望せんぼうの眼差しを向けられて、むず痒さを感じる。向けられるほどに値するとは自分には思ってはいないのですが黄葉に言われると自信や自尊心が高まって満たされる。


「比翼さんゴミを捨てにいくんですよね!でしたら私も持ちますよ。お手伝いします」

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