第75話―比翼公記(ひよこうき)三巻―

空は抜けられたような澄み切った青色。

おだやかな五月晴さつきばれの下、ここ柘榴坂ざくろざか高校では体育祭を催していた。

この日のために準備をこき使われて執り行っていた。暑くなく暖かい日を浴びながら種目のリレーを走っていた。


『おおーと、学園のアイドル比翼選手。

運動は苦手か!?三着でゴールしたぁぁぁー』


頼みますから注目させないでください。

あまり好成績を残していないのに三着なったこと実況する必要あるのはと視線で非難してみますが気づいていない。


『まさかの結果でしたね。

柘榴坂の期待の星とまで謳われていましたが、さすがに運動は苦手なのでしょうか。

その辺、どう思われますか生徒会長?』


『そうですね……私が思うには、比翼書記は、このリレーをあえて負けることで大差をつけないよう点数を調整させた』


実況席には放送部の女子生徒。その側にはゲストとして招かれた生徒会長の吉水管抄という人選がミスしているとしか思えない。


『なるほど。では勝利よりも生徒会として体育祭を成功させることを優先して負けたと』


そう推測して相槌を打ちながらマイクを向ける。


『ええ、その通りです。

五月といえばリセットに近い信頼関係を構築している段階、この競技を五月に運ぶことで連帯感と団結力を高めるためでしょうね』


そこまで考えていない。わたしは全速力で挑んで三位になっただけなのだ。

荒ている息を整えると、わたしに向かって進むリズミカルな足音に顔を上げる。


「あはは、また株が上がってしまったね。とりあえずヒヨちゃんお疲れ様」


タオルを差し出して笑みを浮かべるのは生徒会会計を担当する昌榮しょうえい


「どうもエイちゃん。

どうせ生徒会の人気を集めにアリもしないことを言っているんですよ。これでまた変に、わたしの期待を持たれる人が増えるだろうね」


額の汗を拭いながら空を仰ぎ見ながら応える。

とにかく人徳を積もうとする傾向のある生徒会長は、ときどき生徒会の一員わたしたちを傑物であるかのように虚言を吐くことも彼は、いとわない。その人気集めをプロジェクトの一環として彼は今こうして実況席にいる。

ぼんやりとしていると生徒の声が聞こえる。


「ねぇねぇ。今年になって五月に体育祭って何かおかしいよね」


「不思議だね。秋するものなのに」


喧騒の中で、その特定の声だけを都合よく聞き取れた。たぶん開催期間を変更しようと関わっていたことの関心から鋭くなっている。

体育祭を五月にしたのは生徒会長の言ったことの団結力と連帯感で友情を芽吹くこと。

それだけでは根性論や伝統を重んじる保守の教師陣は首を振らない。

わたしは教諭と生徒会で分かれて実務室のソファーで座りながら説明したことことを想起して記憶をさかのぼる――。


『比較的に五月にしたのは気分で決めたわけではありません。この季節にしたのは熱中症に慣れるための予習的に慣れさせることです』


『ほう。熱中症対策ことか?』


続いていた行事の変更する交渉の場。

手が空いている教諭の顔ぶれの一人が関心を寄せた人が好戦的な笑みを浮かべる。


『はい。それにです……皐月さつきの天候は、とても……よろしいのです』


『なんとッ!?よろしいというのか!』


『ええ、よろしいのですよ……コレがね』


『比翼書記その辺にしたまえ。

ご貴重な時間を作っていただけたのた。これでは話が進まない』


わたしの傍らで落ち着いた様子で叱責する吉水生徒会長。ちなみにこの場での移動中では『オレらはヒマじゃねぇんだよ。まったく石頭共が』と毒を吐いていたのは言わないでおこう。今のところは。


『指導貴方もですよ島清興しまきよおき教諭。

寸劇は、終わってからにしてくださいよ。

生徒の前では威厳を忘れないでください』


『いやぁー、すまねぇなぁ』


まったく反省の色を見せない初老の男性、島清興は頭を掻きながら笑う。

そのときに注意をしていた生徒会長と若い教諭は息を合わせたようにして、ため息をこぼす。


『話を進めたまえ比翼書記』


そして愚かな生徒会長の吉水管抄は、どうも促すだけで説明をしようとはしない。よし、決めた管抄と下の名前を頭に愚を入れて、

愚管抄ぐかんしょうと揶揄しよう。そうしよう。鬱憤を晴らせる気がする。

それに教諭陣の視線は、わたしの方へ向けられており断れない雰囲気だ。


『天候が良好と続けるのもありまして雨季の心配は少ない。それと一年生は、すぐ思い出を作れるのもありますし三年生は受験が危機的に迫られる焦燥感しょうそうかんも少ないのは魅力的ではありませんか』


期間を早めることの利点を示すことで承諾しやすくする。そんな手応えを感じながら説明を終えて生徒会長にチラッと見る。

彼は、ほとんど何もしていないのに神妙そうな顔をして頷いていた。この愚管抄。

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