第74話 学園祭2
その後もあちこち回り、昼食を食べてからリックの剣舞部の舞を一緒に見た。
ゲーム内ではスチルでしか見られなかった舞を、音楽と共に華麗な動きまで目の前で見られるのは感動だ。
まだ一年生だから他の生徒と一緒に舞ってはいたけれど、最後の挨拶の時にはシルフィから花束を受け取っていた。
あれ、ゲーム内ではメルルの恋愛イベントだったのよね……。着々と、シルフィとその道を進んでいる気がする。昔からの友達があまり知らない女の子と仲が発展していくのも、少し寂しい。
……そんなこと、口が裂けても言えないけど。
校舎内をヨハンと歩いていると、見覚えのある綺麗な色合いの看板を見つけた。
「あら、アンソニーの部屋って書いてあるわよ」
「え、そんなの無視だよ、無視」
「絵が飾ってあるのかしら。絵画に罪はないわよ」
そんな話をしていると、アンソニーがひょこっと部屋から顔を出した。
「あ、やっぱりライラ様の声だった。寄ってってくださいよ」
「うっわ、来ちゃったじゃないか」
……ほんと、アンソニーのこと嫌いよね。
私のせいもありそうだけど。
「まぁいいじゃない、寄っていきましょう」
「気が進まないなぁ」
ヨハンがいるなら大丈夫でしょう。
手をつなぎながら中に入ると、やはり絵が飾ってあった。
警備の人もいるから物々しい。
絵には全て本物の何かが入っている。
「こっちは絵の上に押し花がたくさん……すごく綺麗。こっちは絵の上に針金アートね」
前世にもありそうな、前衛的な作品がたくさん飾られている。
「フルーツカービングとかも、あなたならできそうね」
「なんですかそれ、知りませんね」
「メロン……あー、ここだとシャグワッテね。あれの皮を彫刻してレース状にしたりするのよ」
「それは面白そうだ。ライラ様、ぜひ俺ともう少し話を……」
「だーーめーーだ! ライラはどうしてすぐに男の気を引くんだ」
ご……ごめんなさい。つい思ったことを言ってしまったわ。
「それじゃ、面白い発想を教えてもらったお礼に、お二人の相性診断をしますよ。暇なんで、ここでやっていたんです」
教室の隅に「恋人同士の相性診断、受け付けます」と、やたら凝った絵と一緒に書かれているわね……。
「あなたの絵に、相性診断。それにしては人がいなさすぎではないかしら。誰もいないけど」
「あー……。警備が怖すぎて、すぐにどっかへ行っちゃうんですよね」
うん……怖いよね。四隅に黒服の人がいたら。
「一般人を装わせればよかったじゃない」
「いやー、たくさんの客の相手をするのも面倒なんで。ほどほどに来てもらうため、どうするか考えた結果がこれです」
芸術以外では迷走する男ね……。
手綱を引いてくれる女の子がいれば、こんなことにはならなかったと思うけど。
アンソニーの攻略ルートが、少し気になるわ。
「ヨハンは、もう行きたいのよね」
「はー……。君がね、どうしてもやりたいのなら止めないよ。どうしてもやりたいのならね」
……強調するわね。
でも、アンソニーが考えた相性診断は少し気になるわ。後でどんなのだったのかと考えてしまうくらいなら、やってしまいたい。
「よし、やりましょう」
「そうこなくっちゃ」
「えー……」
相性診断は、ごくごく簡単なものだった。
お互い同じ質問に答えていくだけだ。
芸術以外は本当にどうでもいいのね、アンソニー……。
しかし悩む。
『守りたいですか、守られたいですか』
『信じたいですか、信じられたいですか』
『話したいですか、聞きたいですか』
『好きだと言いたいですか、言われたいですか』
『決めたいですか、任せたいですか』
『許したいですか、許されたいですか』
『与えたいですか、与えられたいですか』
『攻めですか、受けですか』
『恋人からどこを、好かれていますか』
『恋人のどこを、好きですか』
最初の八問は強く思う方を選択する。
具体的に書いていないのが、また憎らしい。
ネタが一つ入っているのは気にしないでおこう。
恋人と反対の選択を選べば相性がよくなり、同じなら悪くなる。
最後の二問は、恋人とは質問の順が逆になっているらしい。どこを好きかと、どこを好かれているか、同じであれば相性がよくなり違えば悪くなる。
最後には『お互い同じ思いを共有しているのも、違った思いを抱いているのも素敵なことです』とのフォローが書かれている。
本当にお遊びの相性診断。
しかし……大いに悩む。
というか、なんでこんなことをアンソニーに知られなきゃならないのよ!
……やっぱり、やるんじゃなかったかも。
今日一日で一番悩んでいるわ。
「……できたわよ」
「……僕もだ」
お互い疲労困憊だ。
楽しそうなのはアンソニーだけ。
最後の二問は、アンソニーに見られることも考えて『全部』と書いておいた。
「うわぁー、さすがですね。百点ですよ、相性バッチリです。こんなの見たの初めてです。驚きましたね。あ、お互いの理解を深めるため、用紙は交換してお持ちくださいね」
それは私も、びっくりすぎるほどびっくりだわ……。奇跡的な確率じゃない?
ヨハンが何を書いたのかは百点なら全て分かるけれど、改めてヨハンの回答を見ながら考えたい。
ヨハンもそうだったのか、文句も言わずに交換した。
アンソニーの前で感想は言い合いたくない。見るより前にここは立ち去ることにした。
「じゃ、もう行くわ。楽しかったわよ」
「俺もお会いできて嬉しかったです。また学園でお話してくださいね」
「しなくていい!」
考えすぎてヘトヘトだ。
もうそろそろ学園祭も終わりの時間。
昨日は準備日の土の曜日、今日は日の曜日で、明日も学園祭はあるけれど午前のみになる。
午後は後片付けだ。
夕方からは中庭でダンスパーティーがあるものの、参加は絶対ではない。私たちが踊ると目立ってしまうので、東屋かどこかで話でもする予定だ。
「そろそろ終わりね」
「ああ、明日も一緒に回ろう」
「ええ」
「あ、そうそう、次の土の曜日はあいつをここに置いていくんだ」
カムラのことね。
本当に最近会っていない。ちらりと科学実験なるものを覗き見くらい、すればよかったかな。
「そうなの?」
「ああ、学園祭と後片付けで明日の講義が潰れて、土の曜日の午後にばらけて補講がくるだろう? カムラの授業の補講日は、次から二週連続だって。僕たちの取った科目は翌週から二週連続だから、僕も戻らず補講を受けるよ」
「あら、初めて一緒に土の曜日を過ごせるわね」
「本当だよ、もう」
この時の私には次の土の曜日から、あんなにも怒濤の展開が待ち受けているとは……思いもよらなかった。
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