第129話 生徒会選挙、本格始動
さらに少し月日が経ち……十一月になった。今月から、生徒会選挙に参加した生徒が活動出来るのもあってか、学園のいろんな所で選挙の話を聞く。
そんな中、俺はソフィアやゆいと一緒に、選挙用のポスターを貼ったりビラ配りといった選挙活動をしていた。
このポスターやビラは、事前にゆいがアイデアを提案してくれたものだ。シンプルながらも、わかりやすくて良い。
「未来の生徒会長、そして学園の長となる天条院 カレンですわ! あなた達には、このワタクシに投票する事を命令致しますわ! それがこの学園にとって最高の未来に繋がる事になりますの! 何故ならワタクシは高貴なる血を受け継いだ、選ばれし人間なのだから!」
俺達から少し離れた所で、天条院が自前のお立ち台に登って宣伝している。それは良くも悪くも派手で、とても印象に残る。ポスターやビラなんか、まるでモデルのように撮られた天条院の写真が、とても目立っている。
「やっぱり……これじゃ地味でしょうか……?」
「そんな事ないよ! ゆいちゃんが提案してくれたデザイン、アタシは凄く好きだよ!」
「ああ、俺もそう思う」
俺達のポスターやビラには、インパクトは全く無い。それは天条院のを見た後だと、如実にわかる。
でも、これはあくまでインパクト大会ではなく、選挙活動なんだ。反発も多く出そうな活動よりも、地味ながらも好感を持ってもらえる活動の方が良いんじゃないだろうか?
「さて、ポスターも一通り貼ったし、俺はビラ配りに行ってくるよ。二人は先に帰っててもいいからな」
「アタシもやるよ! 天条院や他の候補者に負けられないもんね!」
「ゆ、ゆいも……頑張りますっ!」
「二人共……ありがとう」
二人の優しさに感謝しながら、俺は二人を連れて校門前まで行くと、用意したビラを配り始める。
なんだか、こうしていると玲桜奈さんを退学から救った時の事を思い出す。あの時も毎日動いてたな……。
「生徒会選挙に参加する磯山 陽翔で~す! よろしくお願いしま~す!」
はきはきと、そして満面の笑顔でビラを配るソフィア。こういう時にソフィアの持ち前の明るさは、遺憾なくその強みを発揮する。
一方のゆいは、生徒の前まではいけるんだが、その後にオドオドしてビラを引っ込め、そして次の生徒にも同じようにしてしまうを繰り返していた。
やっぱり引っ込み思案なゆいには、こういう表立った事は不得手なんだろう。あまり無理はさせられない。
「ゆい、きつそうなら無理しなくても……」
「い、いえ……頑張ります。ゆいみたいな……弱虫には出来ないかもしれませんけど……ここで逃げたら、陽翔さんに恩返しできません」
「恩返しって……」
「だって、ゆいは……陽翔さんに助けてもらった恩を返せていません。だから……ちょっとずつでも、陽翔さんの力になりたいんです」
そう言うと、ゆいは声と体を震わせながらも、道行く生徒にビラを配り始めた。
恩返しなんて……俺はそんな深く考えるような事はしてないし、そもそも恩返しなんて求めてないのに。ゆいは本当に真面目な子だな。
「二人の優しさに報いるためにも、なおさら負けられなくなったな。よし……俺も気合を入れてビラを配るぞ! 次の生徒会選挙に立候補する磯山です! みなさんの清き一票をよろしくお願いします!」
気合いを新たに入れなおしてから、俺はビラ配りに取り掛かる。しかし、俺が違近づくと、みんな俺を避けるように離れていってしまう。
これも玲桜奈さんの退学騒動の時と同じだ。やっぱり俺が男だからか、いまだに多くの生徒に敬遠されているんだろう。
……もちろん、こんなのでめげるつもりはないけどな。
「ごらんなさい! あそこで惨めにビラ配りをしてる男を! あんな男にこの由緒正しい学園の生徒会の一員にさせたら、学園の明日はありませんわ! 賢いあなた方なら、どちらに投票すればいいか、一目瞭然でしょう!」
ビラ配りを続けていると、お立ち台に立つ天条院が、わざわざ俺の事を指差しながら、高らかに言う。うざったいパフォーマンスでイライラするけど、ここで乗っても良い事は無い。
ていうかさ、あんだけ自分以外の人の事を見下しておいて、こんな時だけ賢いあなた方って、都合よすぎるだろ。ある意味政治家の孫娘って感じがするけど。
「天条院、演説で他の立候補者を非難するのは禁じられている。ルールを守れないようなら、即刻退去、もしくは出馬剥奪を行う」
天条院に呆れていると、校内からやってきた玲桜奈さんが強めの口調で注意した。すると、天条院の言葉はピタッと止んだ。
俺の位置からではわからないけど、きっと眉間にシワを寄せてウザがってるだろう。
え、自分が悪い事をしたのに怒るのかって? 天条院はそういう奴だからな。
「まったく。陽翔、調子はどうだ?」
「玲桜奈さん。まあボチボチって感じですね」
「そのビラの山でよく言えたものだ。少し眺めていたが、あまり良いとは言えないと思うのだが」
「ははっ、手厳しいですね」
玲桜奈さんの視線の先――それは俺の持っているビラの山だった。さすがにこんなのを持っていてボチボチは無理があったか。
「厳しい戦いになると思うが、陽翔の誠実さを前面に出していけば、必ずわかってくれる人間は出てくる。実際に、君の行動によって、君を慕う者も現れただろう?」
「……そうですね。ありがとうございます。おかげで元気が出ました。あ、そうだ。さっきは天条院を止めてくれてありがとうございました」
「気にするな。違反者を取り締まるのは、現生徒会の仕事だからな」
こういう時に恩着せがましく言わない辺りが、さすが玲桜奈さんって感じだ。俺もこんな堂々としたカッコいい人間になってみたい。
「それに……ここだけの話だが、陽翔と会いたくなってな……本当は校門にはイサミが来る予定だったんだが、交代してもらったんだ」
「そ、そうだったんですね」
周りの人に聞こえないように、こっそりと耳打ちして教えてくれた。その表情は、ちょっといたずらっ子みたいに笑っていた。
……ここが外で本当に良かった。二人きりだったら……いや、これ以上はよそうか。
「ハル~配り終わったから残ってる分を頂戴~って、玲桜奈ちゃん先輩、様子を見に来てたんですね!」
「ああ。もう配り終えたのか。さすがソフィアさんのコミュニケーション力だ」
「家事以外だと、これくらいしか取り柄が無いので! えへへ」
ソフィアの良さはそれだけじゃないのに。そんな事を思っていると、疲れた顔をしたゆいが戻ってきた。
「はふぅ……むずかしいです……」
「ゆいさんは苦戦気味か?」
「あ……玲桜奈ちゃん先輩……そうなんです……ちょっぴり怖くて」
「それなら、相手の顔じゃなくて、手を見るんだ。それで、その手の前に置くようにビラを出してみるんだ。試しにやってごらん」
「は、はいっ」
玲桜奈さんに優しく背中を押されたゆいは、言われた通りにやってみたが、やはり上手くいかなかった。
これではゆいが落ち込んでしまう――その考えは杞憂に終わった。なぜなら、ゆいはへこたれずに、言われた通りのやり方を繰り返したんだ。
そして、数枚ほどではあったが、ついにビラを配ることに成功した。
「や、やった……やりました! 配れました!」
「やったなゆい。おめでとう!」
「さすがだ。君なら出来ると信じてた」
「凄いよゆいちゃん! さっきは苦戦してたのに、こんな短時間で貰ってくれたよ!」
「この調子なら……陽翔さんに少しは恩返しができます……もっと頑張らなきゃ!」
ゆいはすごく気合たっぷりな状態で、またビラ配りに向かった。あの調子なら、多分大丈夫そうだ。
「それじゃ私は生徒会室に戻るよ。まだ仕事が残っていてね」
「あ……はい、また」
もう玲桜奈さんと離れ離れなのか。寂しいけど、これからのために頑張らないと。そう思ったのも束の間、玲桜奈は再び耳打ちをするために、俺の耳に顔を近づけてきた。柑橘系のいい香りがして、少しくらくらする。
「応援してるぞ。頑張れ、陽翔……好きだぞ」
「っ!?」
「それじゃあな。二人によろしく言っておいてくれ」
ほんのりと頬を赤めながら微笑んだ玲桜奈さんは、そのまま校舎へと走っていってしまった。
は~……あんなの卑怯だろ……こちとら玲桜奈さんへの想いを抑えこんでるっていうのに……。
まあいいや、煩悩なんかさっさと振り払って、ビラ配りに勤しむぞ!
「……ふーん? あの雰囲気……何かある気がしますわね。面白そうですし、ちょっと情報収集をしてみましょう。こういうのは情報戦を制したものが勝ちますし! おーっほっほっほっほっ!!」
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