六章 ゆい編

第99話 ゆいに告白

【前書き】


 こちらのお話は、四章の七十九話にて、陽翔が別のヒロインを選んだお話になります。なので、時系列は高校一年生の夏休みになります。


 前回の五章とは別のお話になりますので、混同されないように、ご注意の程よろしくお願いいたします。



――――――――――――――――――――――――



「陽翔さん」

「……ゆい」


 西園寺家が所有する孤島にある、海が一望できる高台にやってきていた俺は、俺の名を呼ぶ彼女――ゆいの姿を見ながら、その名を呼んだ。


 そう、俺が選んだヒロインはゆいだ。ずっと考えに考えた結果、俺の心を占領していたのは、気弱で内気だけど、弱い自分を変えようしたり、他人のために頑張れる健気なゆいだったんだ。


「あの……陽翔さん、急に呼び出してどうしたんですか……?」

「あ、ああ……その……」

「……?」


 何ここまで来て緊張してるんだよ俺。ここで告白するって決めたんだから、怖気づいてる時じゃないだろ! 頑張れ俺!


「ゆ、ゆいとちょっと話がしたくてさ」

「お話、ですか? よくわかりませんが……陽翔さんと二人きりなんて、ドキドキしちゃいます……あ、ごめんなさい! 変な事を言っちゃいました……」

「全然変じゃないよ。俺もドキドキしてる」

「そうなんですか……? ならお揃い……ですね。えへへ」


 薄暗い中でも輝いて見える程に可愛い笑顔を浮かべるゆいに、俺の心臓は爆発したんじゃないかってくらい大きく高鳴った。


 ……やっぱり俺は、ゆいの笑顔が大好きだ。可愛いというのも勿論あるけど、ずっと暗かったゆいの笑顔だからこそ、余計に輝いて見えるんだ。


「ここって、海が見えるんですね。夜の海って……なんだか吸い込まれそうで怖いです」

「そうだな。でも大丈夫。ゆいになにがあっても、俺が守るから」


 俺の隣に立って海を眺めるゆいを守るために、俺はゆいの手を優しく握った。


「陽翔さん……ありがとうございます。昔のゆいなら……飛び込んで消えちゃいたいって思ってたでしょう。でも……陽翔さんやソフィアちゃん、玲桜奈ちゃん先輩のおかげで……そんな事は思わなくなりました」

「そっか。俺、ゆいがそんな事を言えるようになったのが、凄く嬉しいよ」


 俺はゲームの中と現実で、ゆいが可哀想な目にあってきたのを知っているから、こうして強く、前向きになってくれたのが、何よりも嬉しい。


「そんな前向きになれたゆいには、暗い海より相応しいものがあるよ。上を見て」

「っ……! 綺麗な星空……」


 満天の星空を眺めたゆいの瞳は、星空に負けないくらい……いや、星空に勝ってると言っても過言ではないくらい、キラキラしていた。


「こんな綺麗なものを陽翔さんと一緒に見られるなんて……ゆい、嬉しいです」

「俺も嬉しいよ。でも、これだけで終わりにしたくないんだ」

「え……?」

「これから先もずっと、ゆいと二人でいろんな景色を見たいし、いろんな思い出を作りたいんだ」

「それって……」

「…………」


 落ち着け、落ち着け俺。ここまでお膳立てしたんだ……あとは好きっていうだけだ!


「陽翔さん……きっと大事なお話なんですよね? ゆい、ここでちゃんと聞いてます。ゆいは、昔に比べて強くなりました。だから……逃げずに、ちゃんとお話を聞きます」

「ゆい……ありがとう」


 ゆいは本当に強くなったな。俺も……その強さに報わなければ。


「俺は……ゆいが好きだ。友達としてじゃなくて、異性として」

「っ……!」

「俺、ずっと悩んでたんだ。このままズルズルいったら、三人共傷ついてしまうんじゃないかって。それで、俺は誰が好きなのか考えて……考え抜いて、わかったんだ。俺が好きなのは……俺の心を独占してるのは、ゆいなんだって」

「そんな……ゆいなんて、ソフィアちゃんや玲桜奈ちゃん先輩に勝ってる所なんてないんですよ?」


 俺の言葉が信じられないのか、ゆいは不安そうな上目遣いで、俺の事を見つめてきた。


 勝ち負けなんて存在しない。だって、ゆいの良さだってたくさんあるし、同様にソフィアや西園寺先輩の良いところだってたくさんあるんだからな。


「なら教えるよ。ゆいは確かにずっと内気で、親に駄目な子だって言われて育った。でもな、そんな自分を変えようとして、体育祭を頑張ったゆいの姿はかっこよくて大好きだ。そこがまず一つ。ここまではいいか?」

「ひゃ、ひゃい……」

「二つ目。ご飯を食べてる時の幸せそうな顔が大好きだ。三つ目。漫画の話をしている時のキラキラした目が綺麗で大好きだ。四つ目。俺達の誰かがピンチになった時、すぐに助けてくれるその優しさが大好きだ。五つ目――」

「も、もういいでしゅ……嬉ししゅぎて死んりゃう……」


 さっきまでの上目遣いは既にそこには存在せず、代わりに全身を真っ赤にして、グルグルうずまきみたいな目になったゆいの姿があった。しかも頭からは煙が出てる。


「お、おい! 大丈夫か!?」

「らいりょーぶれしゅ……しあわしぇすぎれ……キャパオーバーでしゅ……」

「そ、そうなのか」


 この感じだと、告白はOKなんだろうか? まだ断言はしない方がいいか。


 とにかく、今はゆいを休ませてあげよう。近くにベンチがあったはず……あったあった。台風のせいでまだ濡れてるけど、ハンカチで拭けば大丈夫そうだ。


「ほら、ここで休んで」

「ありがとうございます……」


 俺はゆいをベンチに寝かせると、そのままの流れでゆいに膝枕をしてあげた。


「はふぅ……陽翔さんの膝枕……落ち着きます」

「そっか。それで、答えなんだけど……」

「あ、すみません!」

「いでぇ!?」

「ひゃん!」


 ゆいが勢いよく立ち上がったせいで、ゆいのおでこが俺の顔面を捉えた。さすがに不意打ち気味の頭突きは響くぜ……。


「ご、ごめんなさい……! 焦っちゃってつい……」

「だ、大丈夫。それで、答えは?」

「さっきも言いましたけど……ゆいは基本的に駄目な子です。だから、陽翔さんにもたくさんご迷惑をおかけするかもしれません。それでも――」

「いい。なにがあっても、一緒に乗り越えよう」

「やっぱり陽翔さんですね……そんな陽翔さんが、ゆいは大好き」

「ゆい……!」


 ゆいはベンチの上にちょこんと正座をすると、俺から目を逸らさずに口を開いた。


「出会った時からずっと一緒にいて、守ってくれて、応援もしてくれて……そんなカッコいい人と一緒にいたら、好きになっちゃいました……。だから、ゆいは陽翔さんとお付き合いしたいです」

「俺もしたい。末永くよろしく頼む!」

「っ……はい!」


 もう我慢の限界になった俺は、ゆいの事を強く抱きしめてしまった。それに続くように、ゆいも抱きついてくれた。


 ……なんだこれ、告白成功してハグして、幸せすぎて爆発しそうだ。


「陽翔さん?」

「お、おう」

「好きです。誰よりも、大好きです」


 そう言いながら微笑むゆいの顔に、自分の顔を近づけて……ファーストキスを交わしたのだった。

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