第96話 緊急渡米
翌日、俺とソフィアは急いでアメリカ行きの飛行機のチケットを取って……なんて事はせず、西園寺家の自家用ジェットでアメリカに向かった。用意してくれた西園寺先輩には、感謝しかない。
倫治おじさんが倒れたと聞いてから、ソフィアはもう気が気じゃないようで、ずっとソワソワしている。かくいう俺も、無事を確認するまで安心できそうもない。
「パパ……無事でいて……」
「きっと大丈夫。いつも元気な倫治おじさんだぞ?」
「そ、そうだよね! パパみたいな人が倒れるなんてありえないよね! どうせ転んで膝をぶつけたとか、そんな事だよね!」
「ああ、きっとそうだ」
空港に用意されていた西園寺家の車に乗りながら、ソフィアはアハハと笑ってみせるが、体は震えてる。
こんなの、誰が見ても強がりだってわかる。俺がもっとしっかりして、ソフィアを支えないと。それが俺の役目だ。
「ひゃっ……!?」
「きっと……いや、絶対に大丈夫だ」
「うん……」
もう何度目になるかわからない大丈夫を言いながら、俺がソフィアの肩を抱くと、ソフィアは驚きながらも、俺の肩に頭を乗せて目を閉じた。
せっかくみんなで問題を解決したのに、こんなふざけたクリスマスプレゼントがあってたまるか。頼む……無事でいてくれ!
「到着いたしました。私は駐車場でお待ちしております。ホテルも確保済みですので、ご利用の際にはお声がけください」
「なにからなにまでありがとうございます。ソフィア、行こう」
「う、うん。あの、ありがとうございました!」
俺達は運転していた使用人に頭を下げてから、病院の中に入る。部屋の番号に関しては、ソフィアが受付で聞いてくれたから問題ない。
「パパ! 大丈夫!?」
「あん? そ、ソフィアに陽翔!? どうしてお前さん達がここに!?」
病室に入ると、中にいた倫治おじさんとオリヴィアおばさんが、俺達の方を見ながら目を丸くしていた。
そういえば、動転しすぎて事前に来るとは言ってなかった……。日本にいると思っている俺達がアメリカにいたら、驚くのも無理はない。
「倫治おじさんが倒れたって聞いて飛んできたんですよ!」
「ふたりとも、びょういん、しずかに」
「あ、ごめんママ……」
「なんだよお前ら、大げさだな。ちょっと体調を崩しただけだ!」
「本当に? アタシの目を見て言える?」
「おうよ! どうよこの鍛え抜かれた肉体! これを見ても調子が悪いって言えるかぁ!?」
倫治おじさんは豪快に笑いながら、自慢の筋肉美を存分に見せつけてきた。
話してる感じだと、いつも通りって感じで何も心配するような事はないけど……倒れた事に違いはないから、やっぱり心配だ。
「まああれだ、こうやってお前さん達が見舞いに来てくれたのは嬉しい誤算だった。倒れた事に感謝ってか!」
「ふざけないで! 良いわけないでしょ!!」
俺達に心配をかけないためか、それか本当にそう思っているかはわからないが、あっけらかんとする倫治おじさんに、ソフィアは声を荒げた。
「昨日聞いて、どれだけ心配したと思ってるの!? あれから一睡もできないくらい心配で、こうして急いで来たっていうのに……ふざけないでよぉ……!」
「……すまん、パパが悪かった」
ここが病院なんてお構いなしに、ソフィアは大粒の涙を流しながら訴えかけると、倫治おじさんは少し嬉しそうに微笑みながら、頭を小さく下げた。
「見ての通り、パパは元気だから心配するな! 二、三日あれば退院できるだろうよ!」
「本当に?」
「おうよ! パパは嘘をつかん!」
倫治おじさんに手招きをされたソフィアは、頭をわしゃわしゃと撫でられた。それが嬉しかったようで、安心したように、エヘヘと笑った。
「そうだ、丁度いい機会だし……陽翔に言っておきたい事がある」
「え、俺?」
「そうだ、こっちに来い」
ソフィアと入れ替わるようにして倫治おじさんの前に立つと、頭をワシャワシャされる……なんて事はなく、俺は胸ぐらを掴まれた。
「ママから聞いたぞ! お前、この前ソフィアを危険な目に合わせたらしいじゃねーか! ちゃんと守ってやらないと駄目だろうが!」
「うっ……その節は申し訳ないです……全部俺の責任です」
倫治おじさんの言葉に、何も言い返す事ができない。俺がもっと気をつけていれば、ウィリアムの作戦に引っ掛からなかったんだからな……。
「ちゃんと反省しただろうな? これからはちゃんとソフィアを信じて、守ってやれるな?」
「はい!」
「……どうも信用できねえな。おい、こっちに来い」
俺の服を掴んでいた手を離すと、倫治おじさんは丸太のように太い腕を俺の肩に回して、俺にしか聞こえないくらいの小声で話し始めた。
「俺はよ陽翔、ソフィアを嫁にやってもいいと思ってる男は、世界中でお前だけだ。だから、ちゃんと守ってやれ」
「はい……!」
「頼んだぜ。俺の分まで……しっかりと、ソフィアを守ってやってくれ」
「……え……それって……」
なんていうか、もう自分は一緒にいられないから、俺に想いを託してるようにしか聞こえない。
なあ、倫治おじさんは大丈夫なんだろ? なのに、なんでそんな事を言うんだよ……!
「話は終わりだ。俺はこれからママと熱い時間を過ごさないといけねーからな! ほら帰った帰った! あ、もちろんソフィアはいくらでも残って構わねーからな!」
「ううん、あんまりいるとパパが休めないだろうし、アタシ達は帰るよ」
「そう。ふたりとも、どこでねるの?」
「……西園寺家がホテルを取ってくれてるみたいなので……そこで一泊してから帰るつもりです」
「ならよかった。そうだ、ちょっとはなしある」
そう言うと、オリヴィアおばさんは俺とソフィアを連れて病室を出た。
話ってなんだろうか……なぜか嫌な予感がする。
「こういうの、あまりいいたくない。でも、あなたたちには、いうわ」
「なんでしょうか……?」
「せんせい、パパのびょうき、ひどいって。いまはいいけど、いつわるくなるか、わからない。もう、あんまりながくないかもって……」
オリヴィアおばさんの口から出た衝撃の事実に、俺達はただ口を開けて驚く事しか出来なかった――
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