第77話 停電パニック!
「わわっ、真っ暗だよ~!」
暗闇の向こうで、ソフィアの少し慌てた声が聞こえてきた。
今の、近くに雷が落ちてきたのか? その影響で停電になったのか? なんにせよ、このままじゃ暗くて危ないな。
「スマホスマホ……あった。みんな、大丈夫か?」
「アタシは大丈夫!」
「ゆいも……大丈夫です……ビックリはしましたけど……」
近くに置いてあったスマホを手に取ってライトを照らすと、特に問題なさそうなソフィアとゆいの姿があった。
それに関してはとりあえず安心だが、問題は――
「ひ、ひぃぃぃぃ……!」
やっぱりか。西園寺先輩が丸くなって震えている。まるで死に直面した小動物を連想させるくらいの怯えっぷりだ。
雷が苦手なのは知ってるから、嫌な予感はしていたんだけど、この怯え方は前回の比じゃないぞ。
「わ、わた……暗いの駄目で……こ、怖いよぉ……助けてお父様ぁ……お母様ぁ……」
「大丈夫ですよ玲桜奈ちゃん先輩! アタシ達がついてます!」
ソフィアは西園寺先輩を勇気づけながら、強く抱きしめた。それに続くように、ゆいもくっついた。
雷だけじゃなくて、暗いのも駄目なのは知らなかった。苦手な事が二つも一気に起きれば、こんなに怯えてしまうのも無理はない。
「二人は怖くないか?」
「アタシは大丈夫かな~」
「ゆいも……大丈夫です。雷はちょっと怖いですけど……停電はいつもの事なので……」
うん、二人は本当に大丈夫そうで安心した。ゆいの家の停電事情がちょっと気にはなるけど、今は関係ない。
「そのうち点くと思うから、今はここでジッとしていよう」
「さんせ~い」
「わ、わかりました……」
方針を決めてから待つ事五分……十分……十五分……一向に電気は点かなかった。このままだと、スマホのバッテリーが先に切れて真っ暗になってしまう。
「電気、点かないね……」
「もしかしたら、ブレーカーが落ちちゃったのかもしれないな。西園寺先輩、ブレーカーってどこにありますか?」
「あ、あっち……玄関のところに……」
「わかりました。俺が見てくるから、みんなはここで待っててくれ」
ブレーカーがある玄関へと向かおうとするが、西園寺先輩に震える手で掴まれてしまい、立ち上がる事が出来なかった。
「い、行かないで……怖い……!」
「って言われても……このままじゃ点かないかもしれないですし」
「な、なら……みんなで一緒に行きませんか……?」
「それいいね! ほら、映画とかでも個人行動は……えっとなんだっけ、しぼーフラグ? っていうんだよ!」
こんな停電如きで死亡フラグが立ってたまるかとは思うけど、みんなで一緒にっていうのは同意見だ。何かあった時に対処もしやすいだろうし。
「よし、じゃあみんなで確認しに行こう」
みんなでブレーカーを目指して部屋を出る。廊下も当然のように暗闇に支配されてるせいで、かなり歩きにくい。
そして……暗闇以上に、俺を歩きにくくしている要因がある。
「……あのさ、なにもそんなにくっつかなくてもいいだろ……」
「だ、だって……怖いのだから仕方ないだろう……!」
「ゆ、ゆいも……この方が安心できるので……」
「アタシはハルにくっつきたいだけ~♪」
現在、ソフィアが俺の右腕に抱きついて完全に占領し、ゆいが左手をギュッと掴んでいる。西園寺先輩は、俺の背中に力強く抱きつきながら震えている。
完全に美少女達に囲まれてるこの状況。暗いせいか、柔らかい感触がいつもより強く感じられて、脳が沸騰しそうだ。
「ひゃあ!」
「きゃっ……! び、ビックリしました……」
「お~今のは近かったね~」
今日一番の轟音が、辺り一帯に響き渡る。近くに落ちた可能性が高そうだ。
「うぇええええん!怖いよぉぉぉぉ!!」
雷に負けないくらいの泣き声を上げながら、西園寺先輩が俺の背中に顔をうずめる。
多分涙やら鼻水で、背中がべっちゃべちゃになってそうだけど、これで少しでも西園寺先輩の恐怖が薄れるなら安いものだ。
「大丈夫ですよ玲桜奈ちゃん先輩!」
「みんな一緒ですから……怖くありません……!」
「う、うぅ……ありがとう……こんな情けない先輩で申し訳ない……西園寺の名折れだ……」
「誰にだって怖いものはありますよ。だからそんなに気にしないでください」
「磯山君……」
完璧な人間なんていない。俺なんか、前世では世間一般で言う、いじめに屈した引きこもりの落ちこぼれだったしな。
「焦っても仕方ない。怪我しないように、ゆっくり行こう」
一声かけてから、俺は三人を連れて再び歩き出す。決してこのハーレム状態を続けたいからゆっくり行こうって言ったわけじゃないからな! 断じて違うからな!
「あ……あそこだ……」
西園寺先輩の指示通りに玄関までやってきた。ブレーカーはっと……あれだな。うん、ここからでもわかるけど、やっぱりブレーカーが落ちちゃってる。
「落ちて……ますね」
「ああ。あれを戻せば電気が点くな」
「よかったですね、玲桜奈ちゃん先輩!」
「あ、ああ……あとは雷さえ鳴り止めば言う事ないんだが……ひっ!?」
遠くの方でゴロゴロと音がすると、連動するように西園寺先輩の体が強張っていた。雷め、早くどっか行っちまえっての! 西園寺先輩が怖がってるだろ!
「とにかくさっさとブレーカーを……ん?」
稲光で玄関が照らされた瞬間、なにか動く影のようなものが一瞬だけ見えた。み、見間違いか……?
「ね、ねえ……? 何かいるよね?」
「ソフィアも見たか?」
「う、うん。アタシ達以外に人がいるわけないし……」
「も……もしかして、おばけですか……!?」
「お、おばっ!? そ、そんな非科学的な……い、い……るわけないじゃにゃいか!」
ずっと余裕だったソフィアとゆいも、さすはに得体のしれない存在は怖いのか、俺に強くくっついてきた。西園寺先輩に至っては、もう呂律が回っていない。
まさか、本当におばけなんて……まさか、そんなのが現実に……って、ここギャルゲー世界だった! もしかしたら、変なのがいるかもしれない!
「俺が見てくる。みんなは待っててくれ」
「アタシも行く! ハル一人で危ない目にはあわせないもん!」
「ゆいも……役に立つかはわかりませんが……行きます」
「うぅ……怖いが……後輩が頑張っているんだから……私も頑張らないでどうする……!」
「……わかった。それじゃ、ゆっくり近づくぞ」
生唾を飲み込みながら、恐る恐る影のあった所へと歩み寄る。
そこにいたものとは――
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