第69話 バッドエンドを潰した先

 ソフィアの両親が来日してから数日、俺は三人に色々振り回されながらも、のんびりと夏休みを過ごしていた。


 聖マリア学園に通いだしてから、毎日色んな事があったから、こうしてのんびりしてるのが不思議な感じだ。


 まあ、三人のバッドエンドを潰せたから、気分的に落ち着けてるっていうのもあるんだと思うけどさ。


「……あれ、そういえば」


 俺の目標は、バッドエンドを潰す事だった。それが達成できた今、俺はこれからどうなるんだろうか?


 可能性としては、このまま特に何事もなく陽翔として過ごすのか、それとも役目を終えて死ぬ辺りか。ひょっとして、後者が正解で、この前の事故はそれが原因だったとか?


「もしそうなら、これからも気を付けておいた方が良さそうだな……」


 さすがに二度死ぬのは嫌だし、俺はこれからも三人と一緒に過ごしたいからな。


 それで、前者の方だとしたら、この後は俺は三人のうちの誰かと結ばれる未来――つまり、グッドエンドのルートに入るはずだ。


 でも、元々全員推しだったのに、一緒に過ごす中でより親しくなってしまった俺には、三人の中から一人を選ぶなんて、あまりにも酷な選択だった。


 それに、三人が少なからず俺に好意を持っているのは薄々気づいてる。だから、俺が一人を選んだら、残った二人が傷つく可能性がある。


「……俺は、どうするべきなんだろう」


 ソフィア。明るくて前向きで、いつも俺の事を想ってくれている大切な幼馴染。すぐにくっついたり、羞恥心が無いのは玉にキズだが、家庭的でとても良い子だし、いつもニコニコしていてとても魅力的だ。


 ゆい。内気な子だけど、変わりたくて頑張っていた姿はとても魅力的だし、漫画の事を話している時のキラキラした笑顔が俺は大好きだ。ごはんを食べている時の幸せそうな顔も魅力的だ。


 西園寺先輩。普段は文武両道で凄くカッコイイ先輩で、男の俺から見ても惚れ惚れするくらい凄い人で尊敬してる。学園のために日々奮闘する姿は特にカッコよくて魅力的だ。なのに、雷が苦手だったり、エッチな事にメチャクチャ耐性が無いといったギャップも魅力的だ。


「……選べねえ……」

「ハルー! 来て来てー!」

「ん? どうかしたかー」


 とりあえず考え事を中断した俺は、ソフィアの声が聞こえたリビングに行くと、そこにはゆいと西園寺先輩の姿があった。


 あれ、いつの間に遊びに来てたんだ? 考え事をしてたから、全く気付かなかった。


「あれ、ゆいに西園寺先輩?」

「こ、こんにちは……退院したって聞いたので……遊びに来ました」

「私も同じだ。グループメッセージで送ったはずだが?」

「すみません、考え事をしてて見てませんでした……」

「大丈夫、アタシがいいよって言ったから!」


 なるほど、それなら大丈夫だな! ってそんなわけないだろ! 家主に断りもなく呼ぶのはどうかと思うぞ俺は!


 ……まあ別にそれをわざわざ指摘したりはしないけどさ。


「それで、体は大丈夫か?」

「見ての通りピンピンしてますよ。二人共、心配してくれてありがとうございます」


 俺は元気なのをアピールするために、力こぶを作ってみせると、西園寺先輩はおかしそうにクスクスと笑った。


 その一方で、ゆいはオリヴィアおばさんに捕まってしまったようで、うっとりした顔のオリヴィアおばさんに抱きしめられていた。


「びょーいん、あったとき、ママかわいいおもったわ。もってかえりましょう」

「ふぎゅう……さ、さすが親子ですぅ……」


 三人と同等か、それ以上の大きさと破壊力を持つおっぱいに埋もれるゆいから、半分声になっていない声が漏れ聞こえる。


 なんていうか、ゆいはこうなる運命なのかもしれない。ソフィアにも何度こうされたかわからないし。


「オリヴィアおばさん、ゆいが死んじゃいますからその辺にしておいてください」

「そうなの? ごめんなさい」

「ふふっ、こういうところは親子だな。そうだ、小鳥遊さんのお父様とは先日お会いしたが、お母様とお会いするのは、これが初めてだった。ごほん……」


 西園寺先輩は咳ばらいを一つしてから、ゆっくりと口を開いた。


『はじめまして、私は西園寺 玲桜奈と申します。ご息女のソフィアさんには、日頃から大変お世話になっております』

『まあ、英語が大変お上手なのね。こちらこそ、娘がお世話になってます。あなた達の事は、娘からメッセージでよく聞いてるわ。飛行機はあなたが用意してくれたと聞いているわ。本当にありがとう』

『とんでもありません。私はご息女に多大な恩がありますし、なによりも大切な友人ですから』


 何を喋っているかはわからないけど、二人共メチャクチャ流暢な英語で話してる。西園寺先輩は英語がこんなに話せたんだな……。


 前までの俺なら、西園寺先輩はやっぱりすごいで片付けていただろう。でも今の俺は、これもたゆまぬ努力の結晶だと知ってる。努力家な西園寺先輩も、とても魅力的だ。


「ソフィアにこんなに友達が出来たなんて、まるで夢みてーだな……そう思わないか、ママ?」

「ええ。ソフィア、おともだちたくさん、しあわせね」

「どういう事ですか? 向こうに友達はいるでしょう?」

「あ~……それなんだが」


 なんだろう、何か言いにくそうな感じがするな。あまり聞かない方が良い話題だったか?


「この際だから、三人に話しておいても良いかな……実はアタシ、向こうでずっと一人ぼっちで、万年友達ゼロだったからさ。だからこうやって、幼馴染のハルや、お友達のゆいちゃんや西園寺先輩が一緒で嬉しいの!」

「おや、私も友達に入れてくれるのかい?」

「もちろんですよ!」

「それは光栄だな。では友好の印に、私の事を下の名前で呼んでくれないか? 君達の下の名前呼び、ちょっと憧れていてな」


 憧れてるところそこなの? なにこの人、本当に色々とギャップがあり過ぎてめっちゃ可愛い。


「玲桜奈先輩! う~ん、それだと……わかった! 玲桜奈ちゃん先輩はどうですか?」

「ほう、とても愛くるしい呼び方だ。気に入ったよ。是非それで今後も交流してほしい」

「もちろんです! 玲桜奈ちゃん先輩! ほらゆいちゃんも!」

「え? えとえと……玲桜奈ちゃん先輩……?」

「なにかな、ソフィアさん、ゆいさん」

「わ~! 下の名前で呼んでくれた! 嬉しいです!」


 なんか随分と仲睦まじい光景が広がってるな。三人が仲良くなるのはとても良い子とのはず……なのだが、俺がこの中の一人を選んだ時、仲が良かったら余計に傷が深くなるんじゃ……?


「っと、せっかく遊びに来たのに、これ以上大人がいたら邪魔だな。ママ、久しぶりにこの辺りを散歩しねーか?」

「おさんぽ、すてき! いきたいわ! パパ、いきましょ」

「そういうわけだ。後は若い女子だけで好きにやりな!」

「え、女子だけって……俺は?」

「お前は俺達の付き人だ。いいから黙って付き合え」

「え、えぇ~……」


 俺は不服を前面に押し出したが、全く受け入れてもらえず、半ば強引に倫治おじさんとオリヴィアおばさんに外に連れ出されてしまった――

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