第63話 ソフィアとデート
「ん~! おいし~!」
「それはなによりだ」
無事に目を覚ましたソフィアを連れてバッティングセンターを後にした俺達は、ソフィアの希望でドーナツを食べに来た。
ドーナツなんて食べるの、いつ以来だろう。そう思いながら、俺はソフィアが幸せそうに笑いながら食べるのを眺めていた。
ゆいもおいしそうに食べるけど、ソフィアも負けず劣らずだな。この表情を見られるなら、いくらでも食べさせてあげたくなる。
「ねえ、こうしてドーナツを食べてると、昔を思い出さない?」
「……?」
「忘れちゃったの!? アタシの家に来て、ママが作ってくれたドーナツを食べたの!」
「……あー……そういえばあったなそんな事」
まだ幼かった頃、ソフィアの家に遊びに行った時におやつとして出してくれた事があったな。すっかり忘れていた。
「確か、二人で取り合いになったんだよな?」
「そうそう! 競争みたいな勢いで食べちゃって、最後の一個で取り合いになったの!」
「思い出してきた……それで、俺が無理やり取って食べて、ソフィアが大泣きしたような……」
「そうだよ~! ハル、その後におじさんから怒鳴られてた!」
懐かしいな。あの時の父さん、俺の記憶の中でトップスリーに入るほどブチ切れてたんだよな……今思えば、そりゃ怒られて当然だって思う。
「あの時はごめんな」
「別に気にしてな――こほん、あの時すごく傷ついたんだからねっ!」
「お、おう……?」
「お詫びとして、もう一個ドーナツを所望します!」
「それは全然構わないんだが……」
ソフィアの前には、既に三個のドーナツが置かれている。しかも、現時点で二つ平らげている状態だ。
正直食べ過ぎている今、これでさらに追加したら……。
「そんなに食べて、太らないか……?」
「うぐっ!? だ、ダイジョウブダヨー」
「目が泳ぎまくってるぞ。後で後悔しても、俺は責任取れないからな」
「む~……食べたいけど、最近お腹とか二の腕のお肉が気になってるし……むむむ……」
……ちょっと何言ってるかわからない。昨日、不本意ながらもソフィアの裸を見てしまった俺から言わせてもらうなら、どこが太ってるか全くわからない。強いて言うなら、おっぱいとふとももが凄いくらい……か?
まあ男の俺には理解できない悩みがあるのかもしれないし、言及するのはやめておこう。
「さっき運動したし、大丈夫だよきっと! それにドーナツは真ん中が開いてるからカロリーが無くなってるし、揚げてカロリーが飛んでるから大丈夫!」
「どっかで聞いた事あるような謎理論を展開するなって! それに、仮に両方とも本当だとしても、二重でカロリーゼロはおかしいだろ!」
「むぅ~!」
「む~む~言っても、カロリーは無くならないぞ!」
「め~も~!」
「なんで五十音で一個ずつずらした!?」
なんかコントみたいにテンポよく、そしてよくわからない会話をしながら、俺達はドーナツを楽しむ。
やっぱりソフィアといると楽しいな。もちろんゆいや西園寺先輩と一緒にいる時も楽しいが、なんていうか……安心感があるというか……これも幼馴染だからだろうか。
「ごちそうさまでした! おいしかった~!」
「よかったな。それで、この後どうする?」
「そうだね~……デパートに行って、洋服見たいかな! ご飯のおかずも買いたいし……あ、最近サイズが合わなくなってきたから、それも見たいかな!」
「サイズ?」
「下着のサイズ。なんかちょっと小っちゃくなってきちゃって……」
「ぶふっ!?」
まさかの爆弾発言に、俺は思わず飲んでいたジュースを噴き出しかけてしまった。
下着のサイズって……ただでさえデカいのに、更に育つってどういう事だ!? これも外国の血が混じってるからか? それともギャルゲー世界だからか!?
「だ、大丈夫? 急にどうしたの?」
「ごほっごほっ……なんでもない……」
「あ、もしかして……サイズ、気になっちゃった?」
「…………」
「にひっ、そんな顔を赤くしちゃって~ハルかわいい~。後で教えてもいいよ?」
「教えなくていいから!」
全く、たまに小悪魔みたいな事を言うの、心臓に悪いからやめてもらいたい。可愛くて断れないのが、余計タチが悪すぎるんだよ。
「色もちょっと悩んでてさ~。水色とかピンクとか……ちょっと大胆に黒のレースとかも良いと思わない? ハル、見たいよね?」
「俺に聞くな! ていうか、見せる前提で話すな!」
うぅ……周りの視線が痛い……特に男達の妬みの視線……学園にいる時に向けられる視線とは、かなり違っていて……こっちはなんていうか、気持ち悪い。
「……あ、メッセージが来た」
「ゆいからか? それとも西園寺先輩?」
「ん~……あれ!? ママ!」
目をパーッと輝かせたソフィアは、そのままスマホを操作して電話を始めた。終始英語で何を言っているか理解できなかったが、母親と話せて嬉しいっていうのだけは伝わってくるな。
……暇だし、スマホでもいじってるか……。
「――お待たせハル!」
「おう、もういいのか?」
「うん! 続きはこっちで話すから!」
「どういう事だ?」
「夏休みにね! パパとママがこっちに遊びに来るんだって!」
「…………」
テンションマックスのソフィアとは裏腹に、俺は顔面を蒼白にさせながら、スマホを床に落としてしまった。
なぜなら、ソフィアの両親の帰国――これが、ソフィアのバッドエンドのトリガーとなるからだ。
「楽しみだなぁ……! ハル、どうしたの? 顔真っ青だよ?」
「な、なんでも……ない」
「もしかして、緊張してる? そりゃパパの前でソフィアをください! なんて言うんだもんね~そりゃ緊張……」
「…………」
「ハル……?」
ソフィアの軽口にも対応できないくらい、俺はテンパっていた。
マズイ、このまま……このまま両親が帰国したら……二人は……二人は……死ぬ。そして、ソフィアもその後を追うように……!!
「ハル! しっかりして!」
「ソフィア……」
「何考えてるの? アタシにも話してみて」
「……ごめん、ソフィアには話せない」
「どうして? アタシ達、幼馴染でしょ!?」
「幼馴染だからだ。大切だから……話せない。でも、話す決心がついたら……話すかもしれない」
「……うん、アタシはハルを信じてるよ。だから、あまり一人で抱え込まないようにね」
「ありがとう」
俺は一度気分を落ち着かせるために、ジュースをぐいっと飲み干した。
そうだ、まだ未来は決まった訳じゃない。それに、夏休みならまだ時間はあるはず。その間に、対処法を見つければいいだけだ!
やってやる……やってやるぞ! ソフィアの両親には恩があるし、何より死んでほしくないし、ソフィアが悲しんで壊れる姿も見たくない。
頑張れ俺。三人のバッドエンド殲滅作戦、最後の一人であるソフィアを助けるまで、絶対に気を抜かない! 必ず乗り越えてやる!
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