第51話 ゆいの人生
■玲桜奈視点■
やれやれ、磯山君に呼び出されたと思ったら、思わぬ事態になったものだ。まさか桜羽さんがこんな男達に襲われるとはな。
それにしても、こいつらは天条院の手先のようだが……。
「おい、お前らは天条院からどうして桜羽さんを襲うように言われた?」
「い、言えない……言ったら殺される!」
「…………」
丁度近くに座っていた男に問いかけてみるが、口を割る気配は無い。後で磯山君に何か知っているかを聞いてみるとしよう。
そんな事を思っていると、唐突に私のスマホから着信音が鳴り響いた。噂をすればというやつか?
「……む? 磯山君じゃない……お父様?」
スマホの画面には、お父様という文字が表示されている。お父様から電話だなんて、珍しい事もあるものだ。
「もしもし、玲桜奈です」
『私だ。至急の連絡があって電話した』
「至急の連絡? なんでしょうか?」
『実はだな……』
何か嫌な胸騒ぎを感じながらお父様に問うと、その予感は的中してしまい……私は思わず全身から血の気が引くような感覚を覚えながら、スマホを落としてしまった。
****
「落ち着いたか?」
「はい……迷惑かけてごめんなさい……」
「もう謝るのは禁止。ゆいは何も悪くないんだから」
「ごめんなさい……」
公園の隅でゆいを慰めてからどれほど時間が経ったか。ようやくゆいの嗚咽が収まった。
とりあえず収まったのは良いが、このまま家に帰したら、一日中一人で怯える事になるのは目に見えている。それに、あいつらがゆいの家に来ないとも限らない。
……ここは俺の家に連れて帰るのが賢明かな。マンションだから、ある程度のセキュリティはあるし。
「ひとまず俺の家に行こう。ここにいるよりは安全だ」
「いいんですか……? またご迷惑を……」
「一人にする方が気になるって」
「ごめんなさい……」
せっかく体育祭を経て前向きになったのに、今日の出来事のせいでまた前のゆいに戻ってしまったな……早く立ち直ってくれればいいんだが。
「行こう」
「はい……」
俺はゆいを放さないように手をしっかり握ると、家のある方角へとゆっくり歩を進めた――
****
あれから何事もなく家に到着した俺は、ゆいと一緒に家の中に入ると、先に帰ってきていたソフィアがもの凄い勢いでやってきた。
「やっと帰ってきた! あれから連絡がなかったから心配した……って……なんで手を繋いでるの? それに、二人共そんなに汚れてどうしたの!?」
「いろいろあってな……」
「そ、そうなの? とりあえず中に入って! それと、シャワー浴びて!」
「そうするよ。あ、ソフィアに頼みがある。ゆいと一緒に入ってきてくれないか? 今のゆいを一人にしたくないんだ」
「……? よくわからないけど、任せて! ゆいちゃん、おいで!」
なにがあったか知らないのに、ソフィアは快く引き受けてゆいを連れていってくれた。ソフィアの優しさには、本当に頭が上がらない。
さて、今のうちに西園寺先輩に無事に帰れた事を伝えておこう。
「……電話に出ないな。忙しいのか? 仕方ない、メッセージだけでも送っておくか。無事に家に着きました、ゆいも無事ですっと……」
メッセージを送るが、返信が帰ってこない。まさかあいつらに反撃でもされたか……? さすがにそんな事は無いと思いたい。
「はぁ……ちょっと疲れた」
多人数を相手にして、ずっと緊張していたのが緩んだからか、急激に疲れが出てきた。このまま目を閉じれば寝ちゃいそうだ。
……………………ぐぅ。
「ハルー! なんかゆいちゃんに生傷があるんだけど、どういう事!? って寝てるし!」
「あ、あの……ゆいのために頑張ってくれたので……あまり怒らないで上げてください……」
「怒ってないから大丈夫だよ! ほらハル、起きて~!」
「んにゃ……おお、出たか。悪い寝落ちしてた」
俺はひょいっと起き上がると、大きく体を伸ばした。床の上で寝てたからか、体がちょっと痛い。
「それで、一体何があったの? どう見てもただ事じゃないと思うんだけど」
「それがな……」
さきほどゆいの身に起こった事や、俺が助けに行った事、西園寺先輩が助っ人に来てくれて難を逃れた事。そして元凶が天条院じゃないかと思った事も伝えた。
「……それで、ゆいちゃんを傷つけたのは、天条院の一味って事だよね」
「おそらくな……おい、どこにいくんだ?」
「天条院の所。もう許さない。顔がトマトみたいになるくらい叩く」
「おいおい、何を言って――」
「止めないで! ああムカつく! どうしていじめっ子って人の嫌がる事をするわけ!? 考えただけで虫唾が走る! 前まではハルとゆいちゃんに免じて許してたけど、もうぜっっっっっっっっっっっっっったいに許さない!!」
芸術点が高そうなくらい溜めに溜めてから、ソフィアは家を出ようとするが、それを阻止するように、俺はソフィアの肩を掴んで止めた。
「おかしいじゃん! どうしてゆいちゃんがこんな目に合わないといけないの!? 馬鹿な親のために頑張って、認められなくて、捨てられて! 学校では酷いいじめを受けて、今回は乱暴!? ふざけんな! ゆいちゃんの人生……ぐすっ……なんだと思ってるんだよぉ……うわぁぁぁぁぁん!!」
俺から離れたソフィアは、床を叩いて怒りをぶつけながら、大きく声を荒げた。
ソフィアの言いたい事はよくわかる。俺だって、どうしてゆいがこんな酷い目に合わないといけないのかと、怒り狂いたい。
でも、今それをしたところで何の解決にもならない。俺達に出来る事は、ゆいの傍にいて出来る限り守ってあげる事だ。
「ソフィアちゃん……」
「うっ……うぅ……ごめんね……アタシ、なんにもできなくて……ゆいちゃんが苦しんでるのに……」
「いいんです……ソフィアちゃんがゆいのために泣いてくれるだけで……ゆいは満足ですから」
「そんな事言わないでよぉ……」
「俺達に出来る事なら……ある」
互いに慰め合うように抱き合う二人に、俺は諭すように言うと、二人の視線が俺に集中した。
「ゆい、落ち着くまでの間、ここで生活しないか?」
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