第50話 最強の助っ人

 スーツ姿の男の指示に従うように、周りの男達が一斉に襲い掛かってくる。それに対して、俺は必要最低限の動きだけで避け、確実に蹴りを入れて倒していく。


 前にチンピラに絡まれた時も、思った以上に動けるなとは思っていたけど……俺の想像以上に、身体能力に関しては前世は関係していないっぽいな。


「このガキ、かなり強いぞ!?」

「うろたえるな! さっさと潰せ!」

「へい!」


 男の一人が、懐からナイフを取り出し、それを俺に向かって躊躇なく突き刺そうとしてきた。あまりの思い切りの良さに驚きつつも、俺はナイフを持つ手に蹴りを入れて叩き落とした。


 び、ビックリした……まさか武器まで使ってくるとは。咄嗟に蹴って難を逃れたとはいえ、判断が遅かったら刺されていてもおかしくなかったぞ。


「武器まで使うなんて……お前ら、どうしてそこまでゆいに酷い事をしようとする!」

「何度も言わせるな。これは俺達に与えられた仕事だ。遂行しないと、お嬢様の手によって、俺達の身にも危険が及ぶ」


 お嬢様……? この口ぶりからして、こいつらに指示をした女がいるって事だよな? そんな事をする奴が……まさか?


「詳しく説明しろ!」

「お前が知る必要は無い」

「なら、無理やりにでも聞かせてもらうぞ!」


 俺は一人一人倒しながら、ゆいの隣に立つスーツ姿の男に近づこうとする。あいつがこの中では一番リーダーな感じがするし、あいつを倒せばゆいを助けられそうだからな。


「ぐはっ……」

「ぎょえぇ!?」

「はぁ……はぁ……どうだ!」


 変な断末魔を叫ぶ男達になど目もくれず、俺は一人ずつ倒していく。


 後五人……かなり体力を消耗しちゃってるけど、弱音なんて吐いていられない。


「……このままだと、天条院の奴に怒られちまうんじゃないか?」

「な、なぜそれを!? はっ……」

「やっぱりか……!」


 焦っている様子のスーツ姿の男の顔を見逃さなかった俺は、試しにカマをかけてみたら、見事にはまってくれた。やっぱり今回の首謀者は天条院だったか!


 あの女、一体どう考えたらこんな酷い事をしようとするんだ!? やっぱり体育祭の一件で恨んでいたのか!? それにしたって、やってる事が酷いなんてレベルじゃないぞ!


「知られてしまっては仕方がない。もう坊主には死んでもらう」

「なっ……!?」


 スーツ姿の男は、懐から黒光りする鉄の塊を取り出した。それは……誰が見てもわかる。そう……拳銃だった。


 いくらなんでも、生身の男子高校生が拳銃なんかに勝てるはずがない。あんなのをぶっ放されたら、ひとたまりも無いだろう。


 ……怖い。足どころか、身体全部が震える。


 でも……でも! 逃げるわけにはいかない! 逃げるな! 戦え!!


「ダメぇぇぇぇ!!!!」


 引き金に人差し指がかかる。もうここまでかと思った瞬間、ゆいが全力でスーツ姿の男の足にタックルした。そのおかげで倒れまではしなかったが、一瞬の隙が生まれた。


「今だ!」

「行かせるかガキ!」

「くそっ! 邪魔すんな!」


 ゆいが決死の思いで作ってくれた隙を活かすために、一気に走りだそうとしたが、残っていた男達に行く手を阻まれてしまった。


 もう少し判断が早ければ……!


「この女……ふん、予定とは違うが、こいつが傷つけばお嬢様も満足するだろう。その足、貰うぞ」

「あっ……やぁ……!」

「ゆ、ゆいぃぃぃぃ!!」


 ゆいを蹴り飛ばして動けなくしたスーツ姿の男は、銃口をゆいの足に向ける。


 何とか助けに行きたいけど、男達が邪魔で近づけない。それどころか、突き飛ばされて尻餅をついてしまった。


 このままじゃ……ゆいは……俺には助ける事なんて出来ないのか……? 俺のしていた事なんて無駄だったのか……!?


 ……認めない。認めてたまるか! 助けられる可能性が僅かでもあるなら、最後の最後まで……地面を這ってでも可能性を掴んでやる!


 そう思って立ち上がると、俺の気持ちに応えるように、スーツ姿の男の拳銃がはじけ飛んだ。


「がっ……!?」

「えっ!? 銃が飛んだ!?」


 あまりにも突然の事だったせいで、スーツ姿の男も、ゆいも、俺も驚いてしまった。


「そこまでです。両手を頭につけながら伏せなさい。私の指示以外の行動はご遠慮願いたい。さもなくば、次は確実に当てますよ」

「え、あなたは……?」


 声のした方向を見ると、そこには銃を構えたメイド服の女性が立っていた。


「ワタクシは西園寺家に仕えるメイドでございます。ご安心を、陽翔様とゆい様の味方です。窮地に間に合ったようで安心しましたわ」

「あ、ありがとうございます。って、なんで銃なんて!?」

「西園寺を守るために、丸腰というわけにはいきませんから」


 な、なるほど? でいいのか? 金持ちやそれに準ずる連中の考えは全く理解できない。


 ちょっと待て。メイドの人が来たって事は……西園寺先輩、来てくれたんだな!?


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ぼへぇ!?」

「なんだこいつ――ふぎゃあ!?」


 確認をするまでもなく、加勢に来てくれた西園寺先輩が、それこそ電光石火のように、一瞬で倒してしまった。それに続くように、黒スーツにサングラスの男達が来て、次々に男達を倒していった。


「西園寺先輩!」

「すまない、待たせたな。怪我は?」

「俺は特に。ゆいが蹴られてたので、少し怪我はしてる可能性はあります」

「わかった。こいつらは私に任せて、桜羽さんを」


 そう言うと、西園寺先輩は再び男達と取っ組み合いをしに行く。その間に、俺はついに二人きりでスーツ姿の男と対面する事が出来た。


「さて、ボスの所まで来たぜ? ゆいは返してもらおうか」

「くそがっ……これを失敗したら俺達は……この命が果ててでも、任務を遂行する!」

「おい、何をする気だ!」


 スーツ姿の男は、地面に落ちた拳銃を拾いに行こうとするが、何故か変な声を漏らしながら、その場で倒れこんでしまった。


「勝手な行動を取るからですわ。大丈夫、麻酔弾でお眠りになられているだけです」

「こっちも片付いたぞ」

「あ、ありがとうございます。そうだ、西園寺先輩! こいつらは天条院の手先です!」

「やはりか。体育祭で一件か? どれだけ執念深いんだか……こいつらを屋敷に連行して事情を聞く。車に運んでくれ」


 西園寺先輩の言葉に従うように、黒いスーツの人達は、あっという間に男達を車に乗せこんでしまった。


 なんか映画のワンシーンを見ていた気分だ……。


「乗っていくか?」

「いえ、ゆいは俺に任せてください。西園寺先輩、この後に習い事があるのでしょう?」

「まあそうだが……私も心配でな」

「お気持ちは嬉しいですが、ここは任せてください」

「そこまで言うなら信じよう。それと、もし遅くなるようなら小鳥遊さんに連絡を入れるように。彼女の事だから、心配して町内を泣きながら走り回るぞ」

「否定できない……とにかくありがとうございました。このお礼はいつか必ず」

「相変わらず律義だな。じゃあ、今度購買のパンと牛乳でも奢ってくれ。それじゃ」


 そう言うと、西園寺先輩は来た時と同じ車に乗って去っていった。男達も乗せていっちゃったから、公園は急に静かになってしまった。


 いや、今は公園の様子よりも、ゆいの確認をしないと!


「ゆい! 大丈夫か!」

「陽翔……さん」

「どこか痛い所はあるか?」

「蹴られたところと、おしりがちょっと……」

「他は?」

「ない、です……ごめんなさい……」

「ゆい……」

「きゃっ」


 怯え切ってしまっているゆいの姿がいたたまれなくて、俺は気づいたらゆいの事を力強く抱きしめていた。


「本当に無事でよかった……」

「ごめんなさい……ゆいのせいで危険な目に……やっぱりゆいは一人の方がいいんですね……」

「そんな事は無い。なにかあったら、その時はまたみんなで力を合わせて立ち向かえばいい。だってゆいは……もう一人じゃないんだ」

「っ!! は、はるとさぁん……!」


 俺しか抱きしめていなかったところに、ゆいが答えるように強く抱きついてきたと同時に、子供の様に泣きじゃくり始めた。


 大丈夫、ゆいはもう一人じゃない。友達が沢山いるんだ。みんながいれば、必ず危機を……バッドエンドを乗り越えられるはずだ。


 まずはゆいのバッドエンドはこれで防げた……でいいんだよな? ゲームではここに俺達が来ないで、酷い事をされて、そのままゆいが自殺するもんな?


 よかった……やっぱりゲームの展開は変えられるんだ……よし……よし! よしっ!!


 この調子だ! この調子でソフィアと西園寺先輩のバッドエンドも必ずぶっ壊してやる!!


 ――の前に、今は目の前のゆいを慰める事に集中しないとだよな。

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