第45話 我が家でお疲れ会

 翌日の休日の昼。俺達だけでささやかなパーティーをしようと、俺とソフィアで料理やお菓子の準備をしていた。


 こんなイベントはゲームに無かったんだが、俺が自ら企画したものだ。折角頑張ったんだから、こういうのもあってもいいよなって思ってな。


「ハル、時間って何時だったっけ?」

「予定では十三時に集まる予定だから、もう少しで来ると思うぞ」


 ピンポーン――


「あ、来たね!」

「噂をすれば、だな。俺が出迎えるよ」


 インターホンに反応して玄関を開けると、そこにはゆいがバスケットを持って立っていた。モコモコの服を着ていて、とても可愛らしい。


「あ、こんにちは……」

「こんにちは。服、かわいいね」

「かわっ!? あ、あのあのあの……その……あ、ありがとーございまぷしゅ~……」

「お、おいどうした!?」


 なんか急に目をグルグルにしたゆいを咄嗟に受け止めると、仕方なくそのままゆいをおんぶして部屋の中に連れていった。


「ゆいちゃん? どうしたの?」

「俺もわからん。なんか急にぷしゅ~……みたいな事を言って、それっきり」

「そ、そうなんだ。ゆいちゃん、大丈夫?」

「だいじょうぶでしゅー……」


 よかった、とりあえず意思疎通ができるんなら安心だ。さて、さっき玄関に置いてきてしまったバスケットを回収しに行かなければ。


「お。あったあった」


 ピンポーン――


「はーい」

「こんにちは、磯山君。ご招待にあずかり光栄だよ」

「西園寺先輩! そんなかしこまらないでくださいよ!」


 俺の家にやってきた西園寺先輩は、上品に笑っている。ゆいはふわっとした感じの服だったけど、西園寺先輩のは体のラインが出るような、カッコいい服を着こなしている。これだけでも絵になるな。


「まさか来てくれると思いませんでした」

「なに、可愛い後輩の頼みだからね。忙しい時期も終わったら、何とか時間を作ってこれたよ」


 西園寺先輩は忙しい人だから、誘っても来れないだろうと思っていたのに、わざわざ時間を作ってきてくれるだなんて、とても光栄だ。


「ただ、私は男の家にプレイベートで来るのは初めてでね。些か緊張している。変な事をしたら承知しないからな?」

「わ、わかってますよ。立ち話もなんですし、上がってください」

「ありがとう。何か手伝える事があったら言ってほしい」

「実はもう大体終わってるので、大丈夫です」

「そうか。それは申し訳なかったね」


 ややバツが悪そうな顔をしながら、西園寺先輩は俺と一緒にリビングに行くと、リビングにいた二人に笑顔で出迎えられた。


 ゆい、ずいぶん復活が早いな……。結局何だったんだろうか?


「西園寺先輩! 来てくれてありがとうございます~! 張り切ってたくさん作ったので、ぜひゆっくり食べて疲れを癒してくださいね~!」

「こ、こんにちは……。体育祭の運営、お疲れさまでした……」

「二人共ありがとう。君達と休日を過ごせて嬉しいよ」

「ふわぁ……発言も仕草もイケメンすぎるねぇ……」


 上品に口に手をあてて笑う西園寺先輩は、流れるような綺麗な動作で座布団に座った。


 ソフィアが見惚れるのも凄くわかる。俺だって相手は女子なのに、そこらの男よりもイケメンに見えるくらいだしな。


「今日はみんなに喜んでもらいたくて、カレーを作ったんだ~! お菓子も作ったんだけど、それはカレーの後のデザートって事で!」

「ほう……食べる前から美味なのがわかる」

「だらだらだらだら……じゅるり」


 俺と西園寺先輩が感心している傍ら、ゆいは待ちきれなくてよだれを垂らしまくっている。よっぽどソフィアの料理が好きなんだろうな。


「はい、ゆいちゃんには大盛だよ~!」

「い、良いんですか……!? いただきますっ!!」


 目の前に置かれた大盛のカレーライスに目を輝かせながら、ゆいは凄い勢いでカレーを口に運んでいく。見ていて気持ちの良い食べっぷりだ。


「ん~! やっぱりソフィアちゃんのごはん、すっごくおいしいです……! 昨日のパーティーのごはんもおいしかったですけど……ソフィアちゃんの方が、ゆいは好きです」

「おや、では来年は小鳥遊さんの料理に負けないくらいのシェフに頼まないといけないな」

「え、いや……あの、ごめんなさい……昨日のごはんを否定してるわけじゃ……!」

「勿論わかってるさ。私個人としても、小鳥遊さんの料理はとても美味だと思うからね。あむっ……うむ、やはり美味だ」


 西園寺先輩は、ソフィアからカレーを受け取って食べると、キリッとしていた表情が柔らかくなった。


 ゆいの言う通り、確かに昨日のごはんは絶品だった。特に勝った白組への賞品として振舞われた、三ツ星シェフのデラックスパフェはかなりやばかった。今までのスイーツの概念を一気に変えてくる一品だった。


 だけど、俺としてはやっぱりソフィアの料理とかお菓子の方が、おいしく感じるんだよな。不思議なものだ。


「うん、二人の言う通りうまいな! ソフィアは本当に凄い!」

「えへへっ! もっと褒めて!」

「ほ、褒めるからくっつくな!」

「むぅ……ずるい……じゃなくて、その……ゆいも褒めてほしいです」

「なんでゆいまで!?」


 俺の腕に抱きついてきたソフィアに対抗するように、ゆいは逆側の腕に控えめに抱きついてきた。おかげで俺の両腕が二人のやわらかくて大きなおっぱいに包まれております。


 ソフィアに関しては百歩譲って良いとして、ゆいは褒められるような事は今してないと思うんだが!?


「い、家でもハレンチな事をしているのか!? ただでさえ学園での過度なボディタッチが目立つというのに!?」

「誤解です! 俺が頼んでるわけじゃないですから!」

「それなら早く離れろ! そんなにくっついて……む、胸も当たって……不純異性交遊だ!」


 何故か俺が悪者にされてしまったが、とりあえず二人を何とか引き剥がした。


 うっ……そんな不満げな顔で見ないでくれよソフィア……ゆいも悲しそうに俯いてるし……でもあのままだと西園寺先輩に怒られてただろうし……どうするのが正解だったんだ!


「ほ、ほら! とりあえず食べよう! なっ!」

「むぅぅぅぅ……」


 その後、ややふくれっ面のままだったソフィアをなだめながら、俺達はカレーを全て平らげた。最初はちょっとだけ変な雰囲気だったけど、すぐにいつものように穏やかな感じに戻ってくれたから助かった。


 ……しかし、真の事件はここから起ころうとしていたんだ。


「さて、それじゃお待ちかねのデザートターイム! 今回はショートブレッドを作ってみました! あと、おいしそうなお菓子を適当に買ってきたよ!」

「あっ……ゆい、マカロンを作ってみました。上手く出来たと思う……んですけど」


 ソフィアはキッチンから、ゆいは持ってきていたバスケットを開けて出してくれた。


 ちなみにショートブレッドっていうのはバタークッキーの事だ。見た目がカラフルなマカロンに比べると地味かもしれないが、既にバターの良い香りがして食欲をそそる。


「二人共、とても上手に作るものだな。実は私も菓子を用意してみたんだ。うちのシェフの力作だ」

「え~!? なにそれ凄く楽しみです!」

「ふふっ、私も好物でな。油断してるとつい食べ過ぎてしまう代物さ」


 そう言いながら、西園寺先輩はバッグから、市販されててもおかしくないくらい綺麗で色とりどりのケーキを出した。


 おぉ、テレビで見た事があるような綺麗なケーキだ! これはかなり期待できる!


「それと、私もチョコを作ってみたんだ。あまり量は無いが、上手く出来たと思う」

「…………え??」


 西園寺先輩はケーキに続いて、小さな袋に詰められたチョコを出した。


 ……マズイ、このままじゃ……死人が出る。

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