第23話 ゆいの初めてのお友達宅訪問
「ど、どうも……おかえりなさい……」
俺と目が合ったゆいは、控えめに頭を下げながら出迎えてくれた。
えっと、どうしてゆいが俺の家にいるんだろうか? 別にいるのは全然良いどころか、むしろ歓迎なんだけど、来ると聞いてなかったからビックリした。
「どうしてゆいがここに?」
「あ、その……」
「びぇぇぇぇぇん!!」
「わかったから! ゆい、話はソフィアをなだめてからでもいいか?」
「は、はい。大丈夫です」
「ありがとう。ソフィア、中に入るぞ」
俺にくっついて離れようとしないソフィアを連れてリビングに来る事十分。その間ずっとゆいと一緒にソフィアを撫でる事で、ようやく落ち着いてくれた。
うん、もう絶対に遅くなりそうな時はソフィアに連絡を入れよう。
「落ち着いたか?」
「うん……ごめんね二人共……」
「俺こそ心配かけてごめんな。それで改めて聞くけど、どうしてゆいが?」
「えっとね、ゆいちゃんって一人暮らしでしょ? だから家に帰ったら寂しいかなって思って、遊びにおいでって誘ったの」
赤くなった目をこすりながら、ソフィアが事情説明をしてくれた。
なるほど、そういう事だったのか。ソフィアらしいな。
まあそれは良いとして、こんなイベントなんて……あ、うんあったわ。しかもタイミングもここだった。どんだけボケてるんだよ俺。
「で、です……ごめんなさい! 迷惑でしたよね!」
「全然迷惑じゃないよ。一人ぼっちの寂しさは俺も知ってるしさ」
「陽翔さん……ありがとうございます。ゆい……嬉しいです。誰かの家に遊びに来るなんて、初めてなので……」
ゆいの過去の境遇を知っているからだろうか? ゆいが楽しそうにしてたり、嬉しそうにしていると、俺も凄く嬉しくなる。
もちろんソフィアや西園寺先輩が嬉しそうにしてるのを見ても同じ気持ちになるが、ゆいだとそれが凄く大きいんだよな。
「さてと、ハルも帰ってきたし、ごはんの支度を始めよう! ゆいちゃんも食べていってね!」
「え、いいんですか……?」
「いいよね?」
「もちろん」
「あ、ありがとうございます。その、ゆいもお手伝いします」
「いいの!? お友達と一緒に料理だなんて、すっごく楽しそう!」
テンションが爆上がりしたソフィアは、ゆいを連れてキッチンへと向かう。それじゃ、俺は一旦着替えてから、二人の手伝いでもしようかな。
****
「よし、あとは盛り付けて終わりだね!」
「はい!」
「それにしても、ゆいちゃんがこんなに料理上手だなんてビックリだよー! おかげで凄く早く完成しちゃった!」
「じ、実は家で自炊してて……仕送りが少ないので、安売りの食材を買ってどうにかしてるんです」
俺はリビングでボーっとスマホをいじりながら、キッチンから聞こえてくる二人の声に耳を傾けていた。
え、手伝いをするんじゃなかったのかって? いや、手伝うって言ったんだけど、さすがに三人もいらないからゆっくりしててって、ソフィアに断られてしまったんだよ……。
それにしても、キッチンでエプロンを付けて料理をする二人の姿は、なんとも眼福な光景だ。ちなみにゆいは料理の邪魔になるからか、前髪は髪留めでまとめている。
「はーい、お待たせ~!」
「おぉ……!」
ソフィアに呼ばれてテーブルにつくと、そこには具沢山のクリームシチューと、レタスとトマトのサラダ、白米が用意されていた。
め、めっちゃうまそう……これを見るだけで腹が減ってくるぞ。
「それじゃ、食べよっか! せ~のっ」
『いただきますっ』
三人仲良くいただきますをしてから、俺は手始めにクリームシチューを口に入れる。すると、優しい甘みが口いっぱいに広がった。
「うん、うまい! やっぱりソフィアの料理は最高だな!」
「ありがとう! でも今回はゆいちゃんがたっくさんお手伝いしてくれたから、ゆいちゃんも褒めてあげて!」
「もちろん。ゆい、おいし――」
「もぐもぐっ……はふぅ……♪」
ゆいにおいしいよと伝えようとしたが、その言葉は最後まで口から出る事は無かった。
なぜなら、目を輝かせて幸せそうに食べるゆいの姿に、思わず見惚れてしまったからだ。
いや待て、これはヤバすぎる。前髪で見えにくくなってた時も可愛くて魅力的だったのに、しっかり顔が見える状態だと、その魅力が何百倍にも引き上げられている。
「やーん! ゆいちゃんってば可愛すぎるよ! ほら、まだたくさんあるからいっぱい食べてね!」
「ありがとうございます……おいしぃ……」
食べる事に夢中なのか、可愛いと言われても何の反応も示さずに食べ続けるゆいと、嬉しそうに皿にどんどん持っていくソフィアの図は……なんていうか、親子みたいな微笑ましさを感じた。
「ソフィアもちゃんと食べろよ?」
「うん、大丈夫! ハルも沢山食べてね! はい、あ~んっ」
「じ、自分で食えるから!」
「…………」
「……あ、あーん」
「えへへ~♪」
涙目で口を尖らせながら見つめてくるのはズルいだろ……思わず従っちゃったぞ。ゆいの前であーんなんて恥ずかし……あ、食べるのに夢中で見てないなこれ。
そんな事を思いながら食べていたら、気付いたら俺達は沢山あったシチューを完食してしまっていた。
「ごちそうさまでした。ごめんなさい、おいしくて沢山食べちゃって……」
「ううん、いいんだよ!」
「ソフィアの言う通りだ」
「……お二人は本当に優しいですね……あれ? お腹いっぱいになったからでしょうか……? 陽翔さんのお顔がよく見えます」
「前髪を纏めてるからじゃないか?」
俺が指摘すると、ゆいはなぜか顔を真っ赤にしながら、両手で顔を隠してしまった。
「あ、あわわわ……ごめんなさい! ずっとお見苦しいものをお見せして……! 早く食べたくて意識が向いてなくて……本当にごめんなさい!」
「どうしてだ? 別に変な所なんて無いよな?」
「うん、無いね。むしろ可愛いからずっと前髪が無い方が良いと思う!」
「ゆ、ゆい……その、おでこが広いのが好きじゃなくて……」
おでこ? あー……言われてみると、確かに少し広くは見えなくはない。でも、まるっこいおでこは、とても可愛らしいと思うんだが。
「可愛いじゃないか。何がいけないんだ?」
「っ!? か、かわかわっ……!?」
「ああ。とても可愛いと思う。ソフィアもそうだよな?」
「うん! 全面同意!」
「ひぅ……!」
目の前に推しがいて、褒めれる部分があれば褒める。ギャルゲーマーとして当然の事だ。あくまで持論だけどな。
「は、陽翔さんに……可愛いって言われた……あわわわ……」
「……むぅ……ねえハル、アタシの事も可愛いって言って!」
急にどうしたんだソフィアは。そんな赤くなった頬を膨らましてたら、小さなリンゴに見えてしまうぞ。
「可愛いぞ。それに家事をしてくれたり、学園で一緒にいてくれてありがとうな」
「あうっ……そ、そこまで言えとは……ず、ずるい!」
「何がズルいのかはよくわからんが……とりあえず、皿洗いしてくるよ」
「あ、それならゆいが……」
「ほら、俺は今日はなにも手伝えてなかったし、これくらいはね」
「でも……」
「う~ん、じゃあ一緒にやろうか」
「っ! はいっ!」
「アタシもー!」
やや狭くなったキッチンで、三人で手分けして皿洗い担当、皿拭き担当、棚にしまう担当に分けて手際よく終わらせた。
終始ゆいとソフィアが楽しそうで、見ているこっちも楽しくなる。こんな気持ちになるなんて、前世では考えもしなかったな。
あの時は、もう色々と面倒で……馬鹿の相手をするのに疲れて引きこもって……そして死んで。目が覚めたら推しを助ける生活が始まって……何とも奇妙な人生だな。
「あの、長居するのも申し訳ないので、今日はそろそろ帰りますね」
「そっか、もう二十一時か」
ゆいが家に帰ると……そこは一人ぼっちの空間。そこで、ゆいは今日の事を思い出して、楽しかったなーっとなるが……段々と寂しくなる……そんなビジョンが浮かんだ。
そんなゆいを帰すのは、なんだか可哀想だ。そう思った俺は、ゆいにある事を提案した。
「今日、泊まっていかないか?」
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