第22話 先輩を安心させるために
「大丈夫です。俺がついてます」
「……磯山君……」
急に抱きしめたせいか、体を強張らせた西園寺先輩だったが、俺の言葉で少し安心してくれたのか、嗚咽を止めてくれた。
「すまない……幼い頃に雷が落ちるのを見てから、雷が怖くて……こんな事が知れたら、学園の皆から失望されてしまうというのに……」
「怖いものの一つや二つ、誰にでもありますよ。俺にだってありますし」
俺が怖いもの。それは、ソフィアとゆい……そして西園寺先輩がバッドエンドを迎えてしまう事。
「俺は西園寺先輩みたいに凄い人間じゃないですが、励ましたり慰めたりする事くらいは出来るので、少しは頼ってください。これでも男ですから」
「…………」
西園寺先輩は、涙でまだ潤んだ瞳で、俺の顔をジッと見つめる。その表情は、やや驚いているような感じだ。
あ、安心させるためとはいえ……あまりにもクサい台詞過ぎたか!? 思い出したら顔から火が出そうなくらい恥ずかしい!
「って、すみません変な事を言って! 俺なんかに言われても困りますよね! でも、俺の本心ですから!」
「……ふふっ、なるほど。理事長が君を選んだ理由が、少し理解できたよ」
「えっ?」
「君が真面目な男だって話だよ。私は少し男というものを誤解してたのかもしれないな――きゃっ!」
再び雷鳴が轟いたせいでビックリしてしまった西園寺先輩は、俺の事を強く抱きしめてしまった。
ちなみにだが、西園寺先輩は俺よりも身長が高い。だから、立った状態で西園寺先輩に抱きつかれると、普通におっぱいに顔をうずめそうになる。
それを上手くかわしても、今度はおっぱいが体に押し当てられるんだが、もうこれは防ぎようがない。
「その……今更ですけど、急に抱きしめちゃいましたが、大丈夫でしたか……? 他に何かしてほしいことがあったら、何でも言ってください!」
「今回は非常事態だから、まあ仕方が無かろう……それに、驚きはしたが、人の温もりに触れていると落ち着く。だから……君が良ければ、このままでいてもらえないか……?」
「わかりました。俺に任せてください!」
押しキャラの一人である西園寺先輩に頼ってもらえるのが嬉しくて、俺は思わず心の中でガッツポーズをしてしまった。
そもそも推し以前に、前世では人に頼られるなんて事はされた覚えがないからな……なんだかくすぐったいが、悪くはないな。
「あれ、だいぶ雨音も雷の音もしなくなりましたね。やっぱり通り雨だったのか」
西園寺先輩を励まし始めてから十分くらいは経っただろうか? いつのまにか雨音は減り、雷の音もしなくなっていた。
「みたいだな。ありがとう磯山君。もう大丈夫だ」
「はい。少しでもお役に立ててよかったです」
「何を言う。君がいなければ、私はパニックになっていたかもしれない」
西園寺先輩なら、なんだかんだで一人でも何とかしちゃいそうな気がするんだけどな……生徒会長をしてるくらいだから、頼りになりそうな人だし。
「やれやれ、こんな事をしていたら彼女さんに怒られてしまうな」
「彼女さん??」
「小鳥遊さんの事さ。付き合ってるのだろう?」
「付き合ってませんよ!」
「……は? あれで?」
「はい。数日前に再会した幼馴染です」
俺の言ってる事、そんなにおかしいだろうか? 西園寺先輩の口がポカーンと開いたまま固まってしまった。
「そ、そうか。当事者の君がそれでいいなら構わんが……彼女も大変だな」
「……?」
「お~い玲桜奈! 呼ばれたから来たわよぉ~!」
「イサミか。鍵を開けてくれ!」
「はいはぁ~い」
西園寺先輩の意味深な言葉に首をかしげていると、金剛先輩が体育倉庫の鍵を開けてくれた。
ふーっ……よかった。これでとりあえず帰る事が出来るな。
「雷が鳴ってたけど、大丈夫だったかしらん?」
「ああ。磯山君がいてくれたからな」
「……ふぅ~ん? やるじゃないのぉ磯山ちゃん。アタクシの見立ては間違ってなかったわねん」
「……?」
見立てって何の事だろうか? よくわからないけど、二人きりになったって怒られるよりは全然マシか。
そんな事を思いながら、俺達は一度生徒会室に戻ってきた。
「磯山君、今日はありがとう。だが、これで良い気になって学園で騒ぎを起こすような事はしないように。まあ君の事だから、自分から進んで何か問題を起こすとは思わないが」
「肝に銘じておきます。また何かあったら、いつでもお手伝いをするので、声をかけてください」
「ふふっ……わかった。困った時は頼りにさせてもらうとしよう。それでは、また来週」
「はい、失礼します」
俺は二人に頭を下げてから生徒会室を後にすると、思わず深く息を漏らしてしまった。
週末というのも重なったせいか、めっちゃ疲れた……やっぱりゲーム通りじゃない事が起こると、かなり精神面で疲れる。これで元引きこもりぼっちだからさ。
「疲れたし、想定外の展開続きだったけど……西園寺先輩と少しは仲良くなれたし……とりあえずオッケーって事にしておくか。さて、早く帰らないとソフィアが心配するな」
もしかしたらスマホに連絡が来てるかも……うおっ、ソフィアからのメッセージや着信の通知が大量に来てるんだけど!?
って……連絡も無しに遅くなったら、心配もするか。ソフィアの性格なら尚更だよな。悪い事をしてしまった。
「早く帰ってソフィアを安心させてあげないとだな。えーっと、今から帰ります……心配かけてごめんっと……」
ソフィアにメッセージを送った後、一秒でも早く帰るために走る――のを何とか堪え、早足で学園を出た俺は、今度こそ全力で走りだした。
こんなに全力で走るなんて、前世の頃じゃ考えもしなかった。あの時は太ってたせいで、走ると駄肉が揺れて馬鹿にされまくったから、走るのが嫌いで……懐かしい。
まあ運動自体が嫌いだったっていうのもあるけどさ。
「はぁ……はぁ……あー疲れた……た、ただいまー」
「ハルぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「おわっと!!」
家に帰ってきたと同時に、ソフィアが大声で俺の名を呼びながら飛び込んできた。それを、俺はなんとか踏ん張って受け止めた。
ぶっちゃけソフィアが飛びついてくるのは予想してた。俺だって少しは学ぶんだぜ?
「ふぇぇぇぇん!! じ、じんばいじでだんだよぉぉぉぉ!!」
「ちょっとトラブルがあって……わ、わかったから! 俺が悪かったよごめんって! だから離れてくれ! 当たってるから! あと涙と鼻水が制服についてるから!」
「やだぁぁぁぁ!!!!」
「子供かお前は!? って……あれ?」
子供の様に駄々をこねるソフィアを何とか引き剥がそうと躍起になっていると、リビングのドアからこちらを見ている人がいるのが目に入った。
あれって……ゆい……?
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