第17話 大食いの桜羽さん
「桜羽さん!? まさかこんな所で会えるなんて思ってなかったよ!」
「ひゃあ!?」
予想もしてなかった所で桜羽さんに会えてテンションがマックスになったソフィアは、桜羽さんの元に駆けよると、思い切りハグした。
嬉しい気持ちはわかるけど、大人しい桜羽さんに、俺を相手にする時と同じようにしたら、ビックリさせちゃうだろ……。
「ソフィア、桜羽さんビックリしてるだろ」
「あ……ご、ごめんね! 嬉しくてつい……」
「い、いえ……」
「桜羽さんは、ここで昼か?」
「は、はい……教室とか中庭は……その、人が多くて落ち着かないので……」
「そうだったんだ! 実はアタシ達、桜羽さんを誘ってお昼を食べようと思って! さっき教室に迎えに行ったんだ!」
えへへと嬉しそうに笑うソフィアとは対照的に、桜羽さんはポカンと口を開けて固まっていた。
これは俺の推測だが、前髪でかなり見えづらくなっている目は、きっと丸くなっているに違いない。
「ゆ、ゆいみたいな暗い人間と食べても……きっと楽しくないですよ……」
「そんな事はない。折角知り合えたんだし、一緒に食事してもバチは当たらないだろ?」
「そうそう! アタシ達、友達だもん!」
「とも……だち……」
噛み締めるように友達と口にする桜羽さんの頬には、一筋の涙が流れた。
え、泣くほど嫌だったのか……? 俺、余計な提案しちゃったか……?
「ど、どうしたの!? もしかしてどこか痛いの!?」
「ち、ちが……嬉しくて、つい……ゆい、誰かとご飯を食べるのなんて、ほとんど経験無くて……でも、いいんですか……? ゆい、お邪魔じゃないですか?」
「邪魔だったら最初から誘ってないから、心配しなくて大丈夫だ」
「あ、ありがとうございます……じゃあ、ご一緒させてください」
「やったー! アタシ、ビニールシートを持ってきたから、そこに座って食べよう! その方が、ピクニックみたいできっと楽しいと思うよ!」
そう言いながら、ソフィアは持っていた鞄の中から、よくあるカラフルなビニールシートを取り出して広げる。
それにしても……泣かれた時はヒヤッとしたな。この展開はゲームに無かった事だから、無駄にドキドキしてしまう。
「ではではさっそく……ジャーン!」
「おぉ、凄いな……」
「綺麗……」
全員が座ったのを見計らい、ソフィアが重箱の蓋を開けると……そこには綺麗に握られたおにぎりや、鳥の唐揚げや卵焼き、ミニトマトやブロッコリーといった、様々なおかずが入っていた。
「よかった~崩れてない!」
「みたいだな。それにしても、本当にソフィアは料理上手だな」
「えへへ~もっと褒めて~!」
「だ、だから抱きつくな! 桜羽さんもいるんだぞ!」
名前も知らない人に見られるならまだしも、友達である桜羽さんに見られるのは恥ずかしいし、変に思われたら今後に支障が出てしまう可能性もある。
「あー、えっと桜羽さん。これは違く……て……」
言い訳をしようとしたが、俺は咄嗟に必要ないなと悟った。なぜなら、桜羽さんの目線は、ソフィアの弁当に釘付けになっていたからだ。
「お、おいしそう……じゅるり……」
「さ、桜羽さん! よだれ出てるよ!」
「ふぁ!? ご、ごごごめんなさい! あまりにもおいしそうで……な、なんでもしますから許してください!」
「えへへ、褒めてくれてありがとう! よかったら桜羽さんも食べて! ハル、桜羽さんにお裾分けしてもいいよね?」
「もちろん」
「いいんですか!? あ、ありがとうございます! いただきますっ!」
出会った時とは比べ物にならないくらいテンション高めな桜羽さんは、から揚げから口に入れる。
すると――
「~~~~っっっ!!!!」
桜羽さんは、両手を上下にブンブンと振って、何かを伝えようとしている。なんだろう、凄く辛かったとか? まさかソフィアがイタズラでわさび山盛りとかして……るわけないか。そんな子じゃないし。
「大丈夫か?」
「……ぷはぁ! ご、ごめんなさい……その、おいしすぎて……咄嗟に言語化できなかったので、つい体で……」
「そんなに喜んでもらえるなんて嬉しいな~! たくさん作って大正解だよ! 二人とも、いっぱい食べてね!」
「うぅ……嬉しいなぁ……おいしいよぉ……」
泣いたり笑ったり忙しない桜羽さんだったが、その感情の全ては【嬉しい】で統一しているように感じる。
そうだよ、俺が桜羽さんが魅力的だと思った一つが、いつもは大人しくて暗い子が、ごはんを食べる時には、凄く幸せそうに食べるところなんだ。
いわゆるギャップ萌えってやつだな。ソフィアも触られたらよわよわというギャップがあり、それも漏れなく可愛くて好きなところだ。
ちなみにだが、西園寺先輩にもギャップ萌えがあったりする。しばらく生活していれば、見れる機会はあると思うが……俺が展開を変えちゃってるから、いつになるかはわからない。
「あむっ、はぐはぐ……ごくごくっ……」
「そんなに急いで食べなくても、お弁当は逃げないから大丈夫だよ~」
「ごめ……もぐもぐ……おいし……はむっ……」
「いい食べっぷり過ぎて、見てるだけで嬉しくなっちゃうよ~! ハルも早く食べて!」
「ああ、いただくよ。ソフィアも食べないと、午後まで持たないぞ」
「勿論食べるよ! でもアタシ、少食だからあんまり食べられないんだ~」
小食なのに、おっぱいは見事に育つ理由は何なんだろうかと思いつつ、卵焼きを口に入れる。すると、砂糖の優しい甘みが口いっぱいに広がった。
「ん~……うまい! 朝も食べたけど、何度食べてもうまい!」
「やったー! こっちも食べて! あ~ん」
「自分で食べれるから!」
「ぷ~……じゃあ桜羽さん、あ~ん」
「えぇ!? あ、あ~ん……もぐもぐ」
「どう? おいしい?」
「おいしいです……」
「やったー!!」
その後、凄まじい勢いで食べ進めた桜羽さんのおかげで、凄い量があった弁当は全てキレイに無くなった。
知っていた事ではあるが、桜羽さんは俺の想像以上に大食いだった。俺やソフィアはあまり食べないから、なおさらそう見えるのかもしれないが。
「ごちそうさまでした。ゆいなんかがこんなおいしいお弁当をいただけるなんて……明日バチが当たって死んじゃうかもです」
「前から思ってたんだけど……桜羽さんは、どうしてそんなに自分を悪くいうの? なにか悩んでるからとか?」
「………………」
「アタシ、もし悩んでるなら力になりたいの。だから、よかったら話してくれないかな?」
「……つまらない話ですが……聞いてくれますか?」
「もちろん。ハルもいいよね?」
「ああ」
二人でそう言うと、桜羽さんは話す決意をしてくれたのか、ゆっくりと息を吐いてから、ぽつぽつと話し始めた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。