第118話 新作パスタと弟子の成長

 ライセンス収入の契約を結んでから約一週間。


 パン・オ・ショコラやドリンクバーのおかげでテイクアウトは順調そのものだ。


 初めはドリンクバーの使い方を知らない人も多く、テイクアウトの回転率が少し落ちてしまっていたが、そちらも現在は以前の水準に近づいていた。


 使い方を覚えたリピート客が増えたのもあるし、初来店の人も事前知識を仕入れていたり、列のお客さんから教えてもらっていたりする。


 お客さん達としても、回転率は高いほうがいいということだろう。


 積極的に情報交換をしてくれるので、こちらとしてもかなり助かる。


 また、ちょうど今週、テイクアウトの列に並ぶお客さん用に、持ち運べるメニュー表を作成した。


 メニュー表の大きさは、持ちやすいA5サイズ前後。


強度の向上と防水のため、この世界におけるラミネート加工的な魔法をかけている。


 日本の店でも並んでいる時にメニューをくれるところがあったが、あれと同じだと思ってもらえればいい。


 窓口の前でメニュー決めに悩む時間が減ると、お客さん達からは好評の声をいただいている。


 さらに、メニューの裏面にはドリンクバーのシステムと使い方を記載。


 列の前後に教えられる人がいない場合でも、事前にシステムを理解できるようにした。


 そんなこんなで、テイクアウトの営業はかなり安定したと言える。


 しばらくは今のやり方を続けていき、時折新メニューを加える形になるだろう。


 一方、店内飲食のほうでも、今週から新メニューを追加した。


『ボロネーゼ』と『魚介のトマトクリームパスタ』の二品である。


 ボロネーゼは前々から少しずつ調整していたので、ほとんど最後の微調整のみで理想の味に仕上がった。


 そして、もう一品の『魚介のトマトクリームパスタ』は、ボロネーゼの調整に付随して出来た料理。


 魚介メニュー作りの一環として昼休憩に出したところ、予想以上に反応が良かったのだ。


 メニュー全体に占めるパスタの割合は増えるものの、どのパスタもそれぞれ独自の個性がある。


 従業員の皆とも相談し、三品までならば問題ないという結論になった。


「――どっちも人気みたいで安心したよ」


 午後の休憩中、皆に言いながら口角を上げる俺。


 ボロネーゼと魚介のトマトクリームパスタは、追加初日から大好評を博している。


 特に後者は全体で二品目の魚介系メニューのため、一部の熱狂的な魚介ファン達が歓喜の声を上げていた。


 魚介の旨味がストレートに爆発するパエリアと異なり、トマトクリームパスタの魅力はまろやかな魚介の旨味。


 クリーミーなソースに海の幸の出汁が溶け込み、奇跡的なまでの一体感を生み出している。


「魔力量も鰻登りに増えてるし……この勢いでもう二、三品メニューを増やしてもいいかもな」


 メニューのバラエティもずいぶん増えてきたが、スキルの【作成済みリスト】にはその何十倍もの料理が登録されている。


 まだ作ったことのない料理もあるし、新メニューの可能性は無限大だ。


「クービスの料理も、限定メニューとして出してみるか?」


 俺は隣で昼食をとるクービスに話しかける。


 最近では二、三日に一度、常連のお客さん相手にクービス作の改良版レムル――異世界風オムレツを試作料理として出しているが、概ね反応は好意的だ。


 限定的な『弟子の料理枠』という形にはなるだろうが、クービスが望むならメニューに加えてもいいと思う。


「いえ、さすがにそれは恐れ多いです。俺の料理はまだ師匠の料理に程遠いので」


 しかし、クービスはそう言って首を横に振る。


「そうか」

「ええ。限定的な形であれ、この店の料理としてお金を取るにはまだ早いです。それに……」


 クービスは笑いながら言う。


「今度は師匠の世界の料理にも挑戦しようと思っているんです。何にするかはまだ決めていませんが……今は店で料理を出してもらうよりも、自分の技術を磨くことが大切ですから」

「わかった。何か気になる料理があれば言ってくれ。できる範囲でアドバイスするからさ」

「ありがとうございます」


 そう言って頭を下げるクービス。


 彼にも俺の弟子として思うところがあるようだ。


 いずれにせよ、今は料理の試作を楽しんでいるようなので、のびのびと頑張ってもらいたい。


「クービス、頑張ってね!」

「ん。期待してる」

「キュ」


 俺達の会話を聞いていたビア達が、応援するように言う。


 ツキネの鳴き声は、「精進するように」といった感じだ。


 ほんと、クービスも変わったよなぁ。


 師匠として役に立てているかはわからないが、なんとなく弟子の成長のようなものを感じ、しみじみとした気持ちになる。


 彼のこれからの躍進に期待しつつ、後半の営業に備えるのだった。



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この場をお借りして、ちょっとしたお知らせをば。

本小説の第二巻が、2023年1月下旬に刊行予定となっています。

詳細については追ってご報告いたしますので、楽しみにお待ちいただければ幸いです。

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