第242話 モササウルス捕獲作戦 準備とBBQ 11月上旬
<<五稜郭建設予定地>>
「さて。早速仕掛けを造るぞ」と、後ろに控えるツツや怪人達に伝える。
新参者のアメリカ人達は、ノーラさんに任せた。とりあえず、初級でいいので魔術訓練をしないと危ないからな。
こちらはこちらで準備を進める。まず、トレーラーに積まれた直系2m、長さ15mの鋼管杭3本を平場に降ろす。もちろん、反重力魔術と触手を使って上空に引き上げてから移動させる。端から見たら、浮遊するおっさんが巨大な鉄の塊を持ち上げているように見えるだろう。きっとシュールだ。
この鋼管杭は、両端部に鉄板が溶接されており、水密構造になっている。
要は、このまま海に落としても浮き上がる構造だ。これが巨大な
次に、長さ200mのスタットリンクチェーンが6本。これをどこかの岩に埋め込んで、ブイを係留させる計画にしている。このチェーンは、金に物を言わせて、どこかで使う予定の品を横取りしてきたらしい。
さすがはベクトル。
チェーンを1本1本空中に持ち上げて、鋼管杭に取り付けられたアンカーリンクに接続させていく。1つの鋼管杭に付き、チェーンが2本だ。1本は陸上の岩に埋め、もう1本はアンカーを付けて海に沈めるような仕掛けだ。
次に針の準備に取りかかる。
針は、様々な太さの特殊丸鋼を10本ほど持ってきている。今は単なる真っ直ぐな丸い棒だ。
「どのサイズが最適なのか、分らんからな。よし、糸目、この鋼材をこういう形に加工してくれ」といって、俺は石鯛用の針を取り出して糸目に見せる。もちろんこれは、500円玉より少し大きいくらいの釣り針だ。
「あ、アンタねぇ。この棒だけでも相当な高値で売れるわよ」と、糸目が言った。
「まあ、その辺は三角さんに任せよう。お前なら、この大口径でも加工できるだろう?」
「ああ、はいはい。大丈夫。曲げて先を尖らせて、そして『返し』を付ければいいのね?」
まず、糸目の冶金術で針を尖らせていく。逆側は輪っかにして巨大なスイベルに通す。
そして、熱した後に曲加工してフトコロを造る。最後に返しを造って出来上がり。
焼きを入れるかどうか迷うが、焼きを入れたら固くなる代わりに脆弱になる。今回は焼きは入れないことにした。
そして、スイベルの先には大口径のワイヤーロープ300mを取り付ける。
とりあえず、太さの異なる針と道糸のセットを3つ仕上げる。
「よし。今日はここまでにするか。後はエサを捕まえないといけない」と、ヤードに広げた巨大な3セットの仕掛けを眺めながら言った。
一仕事終えて満足してしまった。
だけど、「ちょっとぉ。これ、このままにするつもり? 邪魔」と、徳済さんに言われた。
女性って、なんで男の趣味を分かってくれないのか・・・
・・・・
徳済さんに邪魔と言われたので、今日中にブイだけでも設置することに。
直径2mの鋼管杭を触手で掴み、反重力魔術をたたき込んで空中に浮遊させる。
「うお~~ファンタスティック!」「オウ! スーパーマン!」
アメリカ人がいちいち煩い。
反重力魔術を使うと、このくらいは簡単にできる。というか、巨石に比べるととても軽い。鋼管杭は大きいので派手に見えるけど。
鋼管のブイにスタットリンクチェーンを取り付けた仕掛けを、1セットずつ空輸する。
一応、護衛にマルチロール1機とオキタのファイターが随伴で出撃。マルチロールには、怪人2人とアメリカのベクトルさんが乗っている。ベクトルさんは小さな四角いカメラで必死に俺を撮影している。撮影は、映像権は俺が得ることを条件に許可している。後でベクトル側が買ってくれるそうだ。恐竜ハントドキュメンタリーを作るんだとか。もちろん、一般公開はせず、自分たちだけで楽しむ用なんだと。金持ちの道楽というやつだ。
近くの岩礁でできた島付近まで空輸し、適当な岩礁に土魔術を使って埋め込む。そこからチェーンを引っ張って、ブイとアンカーを海に投入。これでブイは流されないだろう。
スタットリンクチェーンも、見た目はかなり丈夫に感じる。いかにモササウルスがパワフルでも、流石にこれは切れないだろう。途中、スイベルという回転するパーツを入れているので、ねじり切られる可能性も低くなる。
ただ、ワイヤー、チェーン、針等の大きさは、カンで選んでいる。そこが心配事なんだが・・・
この作業を3往復。さて、これで準備は完了だ。
もちろん、ブイより先に道糸と針を付ける必要があり、こちらの方は、エサを捕まえてから設置するつもりだ。
・・・・
<<五稜郭建設予定地>>
恐竜捕獲機材が無くなったヤードを眺め、「さて、これですっきりしただろ」と、呟いてみる。決して個人に向けて言った訳ではない。
「そうね、すっきり。それで、今日はどうするの? サイレンに戻る?」と、徳済さんが反応した。
「今日は新人もいるし、ここでバーベキューパーティかな」と、言った。
「おお! やった! 今日はバーベキューだ」「よし、土魔術士、テーブルの準備だ」「肉はまだあるかぁ、少し魚釣りでもするかぁ?」
みんながざわつき出した。バーベキューが大好きなんだろう。
そりゃ、これだけ星空が綺麗なところで行うバーベキューは、格別だろう。その辺りをちょろちょろしていたオキタに声を掛ける。
「オキタ、大将に言ってきて」
「了解! 大丈夫と思うよ~」と、オキタが言って、そのままぱたぱたと軽空母の中に入っていった。
と、言うわけで、今日は総勢約80人でバーベキューだ。
・・・・
バーベキューの準備が出来て、乾杯をする頃には、日が暮れてしまっていた。
照明は、その辺の石柱とか軽空母の壁に光の魔道具を取り付けているので、暗くて困ることはないけど。
今回は立食形式で、みんな思い思いのテーブルでバーベキューを楽しんでいる。
ここは男女比がほぼ1:1だし、華やかで賑やかだ。
俺は、そんな風景をまったりと眺めながら、カエル肉を食う。
この肉は、アルセロールが俺のために焼いてくれた肉だ。何故かこいつは、俺にタイガ産を食わせたがる。おいしいからいいんだけど。
アブラカエル肉を食いながらまったりしていると、向いから誰かが歩いてくるのが見えた。
ごつい体格のアメリカ人。
アメリカのベクトルさんだ。
「ミスター・タビラ、サンクス。この度は、我々の依頼のために、ここまでの準備をしてくれた」と、アメリカンベクトルさんが言った。
「お金を貰うからには、恥ずかしくない程度の仕事はね」と、言ってみた。
今回のターゲットは、大型のモササウルスだ。別にモササウルスを指定された訳では無い。俺がモササウルスと言ったのだ。
それは何故か・・・以前、アルケロンを襲っていたモササウルスを見て思い付いてしまったのだ。
アルケロンをエサにしたら、ヤツが釣れるのではないかと。
と、いうわけで、アングラーの血が騒ぎ、モササウルス・フッシング計画をぶち上げた。
アメリカのベクトルさんは、俺が用意していた巨大釣り針を見て、「なんともダイナミックでタフな方法だ。私も楽しみになってきた」と言った。
俺のこのやり方は、彼の好みに合ったらしい。
「これでちゃんと捕れればいいんですけどねぇ。まあ、モササウルス自体は沢山います。なので、最悪私が仕留めます。でも、それだと傷がつくんですよねぇ」と言って、少し遠い目をしてみせた。
「全く凄いことだ。私も先ほど魔術訓練を受けた。これは、生身でもライフルやマシンガンで武装したマフィアより強いだろう。魔術があれば、秩序が変わる」と、アメリカンベクトルさんが言った。
秩序が変わるか・・・確かに、彼の言う通りなのかもしれない。魔術を使うと、生身の人間が兵器になるのだ。仮に第2世界で魔術を手にするものと手にできないものが二分されたとしたら・・・おそらく、魔術を得る者が秩序の支配者になる。これはそういうシンプルな話だ。
「ヒューマンウエポン・・・魔術を宿したら、戦車とは言わなくても、装甲車並にはなるかもしれませんね」と、言ってみる。
「イエス。近い将来、警察や軍は魔術訓練が必須になるだろう」と、アメリカンベクトルさんが言った。
「それならば、ここを魔術訓練学校にしたら、私は大もうけできるでしょう」
「ハハハ、それは素晴らしい考えだ」とベクトルさんが言って、何故か俺にシェイクハンドを求めてきた。何となく応じる。
「局地戦やテロとの戦いでは、魔道兵が大活躍するかもしれませんね。大国間の正規兵同士の戦争なんて起こらないでしょうしね」と、彼と握手をしたまま言ってみた。ずっしりとした大きい手だ。
「もちろん。ヒューマンウエポンの強さが勝敗を分ける場面は多いだろう。だが、ミスタータビラ、ステイツは、R国が近々戦争を起こすと考えている」
「え? ああ、R国でしたら、アフガンにアゼルバイジャンとかジョージアにシリアにしょっちゅうやってますね。確か」
大国は戦争をしないという俺の考えが甘かったか。日本が平和ぼけをしているだけで、世界は血なまぐさい。
「イエス、そのR国がウクライナ東部に軍を集めている。先日、大統領府は軍事侵攻のおそれを発表した。おそらく、大統領の杞憂は現実となるだろう」と、ベクトルさんが言った。
ベクトルという会社は、戦争後の復興事業で大もうけする会社という噂を聞いたことがある。彼らの戦争分析は、傾聴に値する。
「ウクライナというと、クリミア半島があるところか。まさか戦争前夜だったとは」
「イエス。それに日本は、北海道の一部を彼らに占領されている。その時、日本はどうするだろうか」
「北方領土ですね。樺太の半分も国際法上はまだ日本領土だったりするけど。まあ、日本は何もしないでしょう。遺憾の意を表するくらいしかできない」
R国は核兵器を持っているし、日本は国連の敵国条項に世界の敵だとはっきり書いてある。世界は、軍事行動をしようとする日本に軍事侵攻しても、それは合法なのである。
なので、日本が北方領土を取り戻すため、北海道に軍事力を集めた瞬間、ミサイルが飛んで来きてもおかしくは無い。日本は外交音痴と聞く、その行為を合法的なものと主張されれば、裁判でも負けてしまう恐れがある。
なんとも暗澹たる気分になる。
「ミスタータビラ、日本政府があなたを頼ったら?」と、ベクトルさんが言った。
「どのような頼られ方なのでしょう。私は恐竜ハントするくらいが似合っている」と、言っておいた。
その時にならないと分らないけど。前提条件の無い、想定の話は答えようがないと思った。
「ソーリー、楽しいバーベキューの時に物騒な話をしてしまった」と、ベクトルさんが言った。この話題はもう終わりということかな?
「いえいえ」
「私はベクトル家の一員です。以後、お見知りおきを」と、彼がウインクをして言った。男前だ。
ただ、俺としては、建設部門以外ではあまりベクトル家は頼りたく無いんだけどね。血なまぐさそうだから。
今日のバーベキューは、こんな感じで過ぎていった。
・・・
次の日、朝起きて一風呂浴びて、ぼーとしながら軽空母の食堂に行くと、「おはようございます」と、朝からきびきび働く大将の弟子に挨拶される。
「ああ、おはよう」と、適当に返す。
「寝ぼすけね。もう朝食いただいているわよ」と、食堂で朝食中の徳済さんが言った。
寝坊というか、一風呂浴びていたら、フェイさんが入って来て、そのままゆっくりしすぎてしまったのだ。
徳済さんは、すでに御飯をほぼ食べ終わっている。
座席に座ると、すぐに朝食が運ばれてきた。
「今日はどうするの? もう捕獲作戦に入るの?」と、隣に座る徳済さんが言った。
「そうだね。このミッションも日本の組閣までには終わらせておきたい。捕獲した後も大変そうだし」
組閣が終わったら、日本人帰還事業が一気に動き出すはずなのだ。
「今回、軽空母を出すのよね」
「そう。艦載機も出して、アルケロンを探さなくちゃ」
「考えてみたら贅沢ね。この部隊で魔石ハントしたら、1日で億の稼ぎどころじゃないでしょうに」
「とはいえ、第2世界の有力者とは仲良くしないと。今回はドルも稼げるし」
今回は、なんたって、1億ドルの仕事なのだ。
「そうね。ドルがあったら、武器買って来れるんだもの」
・・・・
朝食後、軽空母の外に出る。
朝日がまぶしい。
すでに、石積み部隊が朝のミーティングを行っているのが見える。
防衛部隊や陰陽会は、走り込みを開始している。
ここ、五稜郭の朝の風景だ。
さて、今日も頑張りますか。俺は、水平線の曙を、目を細めて眺めてみた。
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