第217話 サイレン秋祭り 本祭編 10月中旬

<<サイレン>>


ツツとナナセと一緒に、『シリーズ・ゲート』を使ってサイレンに転移する。昨日、食事を取った屋上席だ。昨日は緊急だったので、ここにゲートを繋いだのだ。

着いた瞬間、上空でパンパンとけたたましい爆竹のような音が上がる。競技開始の合図だろう。

急いで陸上競技場に行く。


「さて、まずはパシュートだ。晶達を見ないと。野球は負けてしまったけど」


「パシュートって、昨日も見たヤツですよね。楽しみです」と、魔王の娘ナナセが言った。彼女は内気だけど、こういうイベント事は好きみたいだ。早歩きで移動する。


・・・


会場に着くと、急いで適当な椅子に座る。パシュートは4チームが残っており、準決勝から開始して3位決定戦、そして最後に決勝戦が行われる。それが男女とも学生の部、大人の部とあるので、そこそこ時間がかかる。


見たいのは学生の部の女子。

今は男子をやっているので次だ。なお、我が息子は予選落ちしてしまっている。


「あの、ところで、これはどういった競技なんでしょうか」


時間があるのでナナセに競技の説明をする。


「3人一組になって、あの400mトラックをくるくる回る。最初はトラックの反対側同士でスタートして、お互い対戦相手の背中を目指して滑って、相手を追い抜いたら勝ち。追い抜けなかった場合は、決められた回数を回った時点でのタイムで競う」


「ああやって、3人が一列になって滑るんですね」


「風の抵抗の関係でね。一列の方が強い。で、メンバー内で先頭を入れ代わらなければならないっていうルールがあって」


「ははぁ。個人技のようでいて、団体力が試されるわけですね」


「そうそう。お、次は晶たちだな」


競技が終わると、係の人が出てきて、土魔術でトラックをならしながら1周する。


その間に選手3人×2チームがスタンバイ。ちなみに、アイススケートの様なつるっとしたスーツは着ていない、普通に運動着だ。相手チームはなんか早そう。フトモモがかなり大きい気がする。


「あきらぁ~~~頑張れ~~~!」と、大声で声援を送ってみる。


晶は恥ずかしそうにうつむき、システィーナが『何で私じゃないのよ』と言わんばかりの顔でにらみつける。加奈子ちゃんは苦笑い。よく見ると、トラックの外側に息子の志郎達もいて、声援を送っている。青春という感じだ。うん。息子のお友達に感謝だ。


そういえば、小田原さんも来たかっただろうに。ここにはいない。お仕事忙しいから。


タァン! 競技開始の合図だ。


女子は6周だっけ? お互いがもの凄い速さでトラックを駆け巡る。


が、相手が上手のようだ。僅か1秒も違わないと思うけど。


もの凄いスピードで滑りながら、両チームとも器用に前列を入れ替える。

だが、1周、2周と回るうちに、徐々に相手が上回ってくる。


「いけ~~~ああ~~っ! あ~~~! ま~け~た~か~」 僅差で負けた。


「残念でしたね」


滑り終わった3人が膝に手を突いて息を整えてる。地味に結構な運動量なんだろう。


「3位決定戦もあるけど、徳済さんを探そっか。ヴェロニカさんの話をしないと。お昼前にはイセを迎えに行かないといけないし」

「はい」


・・・


野球場に行き、きょろきょろと徳済さんを捜す。


「あ、いたいた」歩いて徳済さんの方に移動し「徳済さん。野球はどう?」と言って、徳済さんの隣に座る。ナナセは俺の隣に座った。


「あ、多比良さん。やっぱりケイヒンが勝ちそうね。パシュートはどうだった?」と、徳済さんが言った。


「晶達、準決勝で負けちゃった。3位決定戦はまだだけど」


「そう。ところで、昨日も来なかったわね。水政くんも美緒も待ってたのよ?」と、徳済さんが少しジト目になった。


「うっ。ごめん。昨日は急用で。今日こそ・・・いや、今日はイセが来るんだった」


「そういえばいらっしゃるのよね。いつ?」


「昼前。お昼は屋台で買い食いするんだって。あと八重垣祭りも見るって」


「そう。私もご挨拶させてね」


「了解。というか、昨日のヴェロニカさんの歌、気に入ったんだって。是非ジマー領にも呼びたいらしい。話が出来ない? 滞在1週間くらいでしょ? 明日から暇だろうし」


「分かった。話してみる。ところでこの2人はどうする?」と、徳済さんが、その隣に座るアマビエさんと水政くんを見て言った。


「どうするって、イセに会わせるかどうかって事? あいつはオフの時に仕事の話をされると、機嫌が悪くなるからなぁ」


「あ、あの、多比良くん。イセという方は一体どんな人なんだ?」と、水政くんが言った。


「ええつと、マ国、ええつと」「マガツヒ・マガライヒ魔道王国です」と、ツツが言った。


俺が言いよどんでいたので、代わりに答えてくれらしい。


「そうそう、略してマ国というところがあって。在駐ラメヒー王国のマ国大使の人」


「紹介してくれ」と、水政くんが即答する。


「いや、話聞いていたか? あいつ短気だからな。手が出るからな」


「うふふ。この間は粗相をしたウエイトレスに脳天締めアイアンクローしていたわね」と、徳済さんがニコニコしながら合の手を入れてくれる。


「それでもだ。だいたい何でお前がそんな人と知り会えてるんだ」


「俺、マ国の少佐だし。神敵というありがたい称号も持ってる」


ぶっと徳済さんが吹き出す。冗談ではないんだが。


「まあ、なんだ。今日はお昼も夕飯もサイレンで食べる。どこかで偶然を装って現われて、挨拶を交すくらいならいいんじゃないか?」


「私と一緒にいれば会えるわよ。夕飯ご一緒とかできないかしら?」


「本来、要人の予定を俺から明かすわけには行かないんだけどなぁ。成り行きに任せていい? お昼は屋台で買い食いするから・・・」


「分った。捜してみる」


「そうそう、軽空母とやらの話も聞きたいんだが?」と、水政くん。


「ま、そのうちに・・・さて、そろそろ時間だ。イセを連れてくる」と言って、席を立つ。


「あなたも忙しいわねぇ」


この世界には携帯電話がない。足を使うしかないのだ。



・・・

<<サイレン お昼前>>


急いで大使館に行き、イセ達をサイレンの野球場の屋上に転送させる。

ここから、神社のある日本庭園まで全員でてくてく歩く。

野球場から出ると、お祭り会場である日本庭園にはすでに沢山の人が集まっていた。


「もう人だかりが出来てるな。どうする? 先にお昼いただくか?」


「そうだな。買い食いというのも新鮮じゃ。だが・・・なんだ? これは」と、イセが怪訝な顔をした。


「なんなんでしょうか。この空気。まさか、昨日の歌の影響でしょうか」と、ジニィも何時になく真面目な顔をして言った。


イセもジニィもお祭りの雰囲気が気になるようだが、何を言っているのかよく分らない。双角族特有の感覚なんだろうか。


歩いて神社の方に進むと、巨大なブツが、広場に鎮座していらっしゃった。


「あ、もうご神体出てるな。神輿は夕方って聞いたけど」


「ねえねえ、おじさぁん。ゴシンタイって何ですか?」と、ジニィが目を輝かせて言った。


「ご神体とは、神が宿るとされる物体のことだ」


「じゃあ、あれはなんでしょうか」と、ジニィは嬉しそうにご神体を指す。


「だから、ご神体だよ」


「へぇ~~あれがぁ~~」と、ジニィがニマニマとした表情で絡んでくる。


「まあジニィ、お前が何を言いたがっているのかは分かる。あれは男根だ」


「男根が神?」


「そういうことになるな。俺は、実は根っからの地元人じゃないんだけど、ここに来た600人の地元にはそういう信仰があるんだ」


「ううむ。この集団の頭の中、みんな男根だらけじゃ」


なんとイセが少し引いている。イセが引くなんて大概だな。


「子孫繁栄のお祭りだからな。いいんじゃないか? それで」


「流石日本人」と、イセが言った。まあ、気持ちは分るようで分らない。心が読める種族が、頭の中男根集団に出会った場合の気持ちなんて解らない。


「ねえねえおじさん・・・あれ、あれぇ!」と言って、ジニィが真顔で口をあんぐり開けている。


木で掘られた巨大な男根のオブジェが台座の上に飾られており、それに女性が跨がっている。日本人女性のようだ。


「ああ、あれは子宝とか安産とかのおまじないじゃなかったかな。お、屋台が出ているな。何か買ってこよう」


ジニィの突っ込みは軽くスルーだ。


ん? 屋台を見渡すと、たこ焼き屋さんの列に嫁が並んでいる。


久々に見たな。うちの嫁。


「おお、奥方ではないか」と、俺の後ろからイセが言った。イセって、嫁のこと知っているんだっけ? 古城で会った?


「そうだな。たこ焼き食う? 鉄板は『ラボ』で特注したらしいよ。買ってこよう」

何だか俺もたこ焼きが食べたくなってしまった。


・・・


とりあえず、たこ焼きを数パック買ってくる。嫁はやっぱり俺を無視していて、近くに寄ったのに会話無し。


一瞬目線が交錯したのだけど・・・無表情で気持ちが読めない。まあ、今は俺も仕事中。スルーするか。


「ほい。たこ焼きだ」


「ねえねえおじさん、あのアメってぇ・・・」と、ジニィが言って、屋台で売られているアメを指さす。


「ああ、男根アメだな。舐めると元気になるらしいぞ」


「買ってぇ! おじさんアレ買ってぇ!」と、ジニィが言って、俺の袖を掴んで引っ張る。


「分かった分かった。後で買ってやるわ」


適当な空き地にテーブルと椅子を土魔術で造り、そこに座ってみんなでたこ焼きをつつく。ナナセの近くに2本の腕が出現し、たこ焼き1パックが亜空間に消える。やっぱり魔王もいるようだ。


ここの屋台は商工会の有志らが、こっちの人達も誘ってやっているんだとか。お酒とか雑貨屋さんも建ち並び、実にお祭りらしい。


「おじさん、あの棒も買ってぇ!」


ジニィが指さす方向を見ると、木刀くらいの大きさの木彫り男根が売ってある。


「あん? 木彫りの男根か? 何に使うんだよ。まあ、後で買ってやる」


・・・


テーブルでたこ焼きをつついていると、徳済さん一行がやってきた。


「あ、多比良さん、こちらにいたのね。イセ様もご機嫌麗しゅう」と、徳済さんが言って優雅にお辞儀をする。


「ああ、多恵か。楽しませて貰っておるよ」と、イセが言った。


徳済さん、登場。後ろには例の日本人2人もいる。


「ああ~~~おじさんだ! おっじさ~~ん」


誰だ? ノリがジニィに似ているが、あいつは場所と空気を読む。

あいつはシスティーナだ。手を振りながら走ってくる。


「なによ! なんで晶しか呼んでくれないのよ。失礼しちゃう。負けちゃったしっいい~~ががっ!」


マイペースで話かけてきたシスティーナに、イセがアイアンクロー攻撃を噛ます。


「なんぞ? 躾のなっておらぬお子様がおるのお・・・」


「がっ、痛っ・・・ごっ・・・・」


魔術障壁の展開も許さぬ早業だ。

いやいや、イセよ。お前余所の子をそんなに・・・


徳済さんは苦笑いだけど、後ろの2人は引いている。


「ああ、そうだ徳済さん、ヴェロニカさんは聞いてくれた?」


「あ、ええ。マ国でのコンサートの件ね。大丈夫って言ってくれたわ。後は移動の問題だけね」


「おお、あの異世界の歌姫か。早速、本国に言って準備させよう。移動はジマー家がどうとでもする」と、イセが言った。


イセは機嫌が直ったのか、システィーナのアイアンクローを外してくれた。


「痛い~~痛かったよ~~」と、システィーナが痛がる。俺にかまって欲しいような感じがする。


「お前も悪い。大人が挨拶している時に」


「だってぇ・・・」


システィーナの後ろには、晶と加奈子ちゃんもいる。


「まあ、イセ、こいつはシスティーナ。メイクイーン男爵。後のは晶と加奈子。加奈子ちゃんは小田原さんの娘さんね」


「ほう。そうか。小田原には世話になっておる。それに、お主はメイクイーンの大砲娘だったか」


徳済さんの後ろでは、例の2人が『自分たちも紹介しろ』という顔をしている。

イセなら、もうお前達が誰だか分かっていると思うけど。それで無視しているんだから、話するのが面倒なんだろう。


「そういえばイセ。今日、うちの軽空母が帰ってくる。多分、もうそろそろだ」


「ほう。あそこの料理人は腕が良い。一品追加してくれたら、楽しめるだろう。まあそこに、もう一つテーブル追加するくらいは多めに見よう」と、イセが俺と徳済さんの方を見みて、言った。あの二人を呼んでよいということだろう。


「了解。レストランの手配はやっておこう。直ぐに手配した方がいいだろうし、今から急いで糸目にでも指示してくる。徳済さん、ここ任せていい?」


「いいわよ。私は後で、ヴェロニカにも声をかけてみるわ」


ここは徳済さんに任せ、急いで軽空母に行くことに。糸目をサイレンに連れてきて、テーブル追加と出張料理人の手配をして貰おう。俺もベガスさんのような執事が欲しいと思ってしまった。


・・・


用事を済ませ、再びお祭り会場へ。イセ一行は、すでにたこ焼きを食べていたテーブルにはいなかった。


周りをキョロキョロと捜すと、信じられない光景が飛び込んでくる。


なんと、イセと嫁がしゃべっている。

話し声は聞こえない。何をしゃべっているんだ?

談笑しているように見える。いつの間にそんな関係になったんだ? 会話の内容が気になる。


「おじさんおじさん。ねえねえ」


後ろからジニィが現われた。


「あ、ああ。お待たせ。楽しんでる?」


思考をこちらに戻す。あっちは気にしても仕方が無い。


「おじさ~ん。私、今からアレに乗ります!」


ジニィはそう言うと、ぱたぱたと走っていって、木彫りの巨大男根に跨がる。あの男根は直径1m、長さ2mくらいありそうだ。


「なん、だと?」


ジニィが木彫りの巨大男根に跨がると、彼女を乗せたままブツがふよふよと浮遊しだした。

まさか、反重力魔術!


よく見ると、横にいる白い頭巾を被った日本人男性が操っているようだ。


不安定に動く男根から振り落とされないように、必死に耐えるジニィ。いろんなところがぶるんぶるんと揺れる。

周りの日本人達がどよどよと騒ぎ出す。

ジニィは巨乳だからな。


「ほう。記念写真を撮ってやろう」


すかさずアイテムボックスから一眼レフを取り出す。


激しく動くからピントが合い辛い。しかし、こちらには連射機能がある。周りから白い目で見られながらも、連射機能で激写しまくる。


「あの、おじさん。私も乗ってみたい」と、ジニィと一緒にいたナナセが言った。


ナナセも? まじで?


「ま、まあ、いいんじゃない?」と、気持ちを悟られぬよう、冷静を装った声を出す。


ジニィが降りてきた後、ナナセもブツに跨がる。


周りの男子中学生の目が釘付けになっている。


大人達も固唾を呑み込み凝視する。


そして、ブツが超絶爆乳を載せてゆっくりと上昇する。直後、ゆっさゆっさと揺れだした。

この浮遊男根の揺れ方は、さっきのジニィの周期とは異なる。


おそらく、一番美しく見える揺れ方をする周期で揺らしているのだろう。

男根を操る頭巾男のプロ意識が垣間見える。


当然、こちらも連射だ。途中から、動画に切り替えて撮る。


とても、この世の物とは思えないような光景が撮れた。


超絶爆乳 巨大男根 浮遊 ゆさゆさ 何という属性の多さ。

男根を操る頭巾の男性も、頑張って長めに、そして最後には激しく揺らしてくれた。以心伝心というやつだ。


「おじさんのエッチ。揺れるとこ撮りましたね」と、ジニィが横から言った。


「記念にね。お! そろそろ神輿が始まるぞ」


ジニィの鋭い突っ込みをさらっと躱す。

そして、白い頭巾を被った男衆数十人が、わらわらと大小様々な巨大男根を持って練り歩く。中央には超巨大男根神輿が鎮座していらっしゃる。


「ほう。なんとご立派な・・・」と、誰かが呟く。


ジニィが口を開けて固まっている。いつの間にか戻って来ていたイセも、無言のままたたずんでいる。よほどショッキングなのだろう。


わっしょい! わっしょい! かけ声と共に男衆の熱気が伝わってくる。


神輿と男衆は日本庭園を練り歩いた後、神社の社に向かっていった。ご神体を入れるのだろう。


「さすが、日本人」と、イセが真顔で呟く。


ご神体が社に格納された後は、徐々に人が減っていき、熱気が少しだけ遠ざかる。


日も少し落ちて暗くなり、周りの屋台の提灯に明かりが付く。

よく見ると、遠くにある弓道場が射的場になってる。明るいうちは気付かなかった。


徐々に、神社や日本庭園周りの祭り風景が幻想的になる。


ああ、ここは昭和の頃、子供の頃に見たお祭りの風景にそっくりだ。懐かしい・・・


しかし、そろそろ夕食の時間だ。花火が打ち上がる前にレストランに行かねばならない。


「さて、そろそろレストランに行くか」


「はぁい。この熱気と活力。そして風情とはかなさ。ジマー領のお祭りって皆で騒いでお酒飲むだけなんだもん。こういうのもいいなぁ~」と、ジニィが目を細めて言った。


ジニィもなかなか良い感性を持っているもんだ。

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