第215話 サイレン秋祭り 前夜祭 スポーツ観戦 10月中旬

<<サイレン>>


あ~気分が悪い。若干二日酔いだ。ディーとガイアのペースで飲んでいるとついつい飲み過ぎてしまう。

昨日は、日本居酒屋に顔を出そうと思っていたのに。

結局、ディーの家、タマクロー邸の空き部屋を借りて寝てしまった。


今、軽空母はお使い中だから、俺は宿無しだ。厳密にはあるが、歓迎されないと思うし。


温泉アナザルームに行くか・・・ここでゲートを出してもいいけど、ディーの部屋に行くのが安全でいいか。


タマクロー邸の廊下をふらふらと歩く。勝手知ったるタマクロー邸。ディーの部屋もガイアの部屋の位置もバッチリだ。


ディーの部屋に到着し、一応、コンコンとノックする。


「ディーいるかぁ?」


『いるぞ~』


「開けるぞぉ~」


『いいぞ~』


そっと、開ける。ディーのやつ、まだベッドで寝ていやがる。


「なんだ? 夜這いか? オレじゃなく、先にガイアにしてやれよ・・・」


「おはようディー。夜這いという時間帯じゃないだろ。飲み過ぎた。温泉に行く」


「温泉かぁ。オレも行く」


「ツツには書き置きでも残しておこう」


「ふぁぁああ・・・」


ディーが起き出した・・・何故か全裸だ。


「お前、寝るとき全裸なの?」


「そうだな。面倒だし」と言って、ディーが自分のベッドからもそもそと起き出す。


「そのまま行くのか?」


「ああ。着替えは持って行くが・・・」と、ディーが言って、そのままのそのそと着替えを用意する。


温泉アナザルームは、たまにだが、イセも魔王も使う。まあ、滅多にバッティングしないし、気にしなくてもいっか。


温泉アナザルームの、特別なゲートを出現させる。


「じゃあ、いくか」「ふぁい」


・・・・


温泉アナザルームに行くと、温泉スペースから誰かの気配を感じる。


「・・・誰かいるな・・・おお~~い。入るぞ~~」と、声を掛ける。


誰だろう。まあ、ディーは人に裸を見られるのは恥ずかしく無いようだし、いっか。

ここには一見さんはいないし。


「誰もいないんじゃないのか?」


「いや、いるな。魔王か? お前がいるから恥ずかしがっているのだろう」


普通逆だとは思うのだが。


「ふぅ~ん。体洗ってくる」


「魔王~魔王なのかぁ~~」


温泉の奥、洞窟風呂がある方に誰かいる。湯煙の先から、あの独特に曲がった角が見えた。色はグレー。頭髪も白に近いグレー。魔王だな。


「・・・やっぱり魔王か。おおい魔王、今ディーが体洗ってるからよ、覗かずにいてくれない?」と、俺が言うも返事が返ってこない。



何だ?


じゃぶじゃぶと露天風呂の中を歩いて岩風呂の方に行く。


「うおい魔王。いるんだろ?・・・は?」


女? 魔王が女になってる。爆乳だ。白髪の爆乳ホワイトへアード・デビルだ。


「あ、あの、その・・・ごぶさた・・しております・・」と、爆乳が言った。


「いや、娘さんか。ごめんごめん。おじさんも体を洗いに行くから。混浴駄目だったら、そのうちに、ね?」


全裸のおじさんは、ばしゃばしゃと全力で逃げ出す。いかんいかん。


「誰だったんだ?」と、すでに泡だらけのディーが振り向いて言った。


「魔王の娘さん。ここ使ってたのか」


そういえば、そんなことを桜子に聞いたような聞いていないような・・・


まあ、今はとにかく俺も体を洗うことにする。その後、サウナにでも直行すればいいだろう。


ザバーっと音を立てて、思いっきり温泉水を頭から被る。ふう。生き返る。

やっぱ効くなぁ。ここの湯は。主に二日酔いに。


・・・・


体を洗い、その後まったりとサウナで時間を潰す。ここもいい気持ちだ。そのうち、魔王の娘ナナセも上がるだろう。

水分補給しながらサウナで汗をかく。


まったりしていると、急にドアが開く・・・少し、サウナの温度が下がる。


ディーが来たのか?


「あ、あのぉ」


魔王の娘だった。爆乳の。一体何を考えてるんだ? ここのサウナは何故か狭い。一度に2人くらいが限界だ。


端の方に避けてあげると、開いたスペースにドカッと座ってきた。爆乳が凄いことに。座った自分のフトモモに付くくらいの大きさだ。タオル一枚巻いていない。


この子は、元々おデブちゃんだった。それが、第一次日本人帰還事業の時に魔王の代理として現われた時には、腰のくびれが出来ていた。

お尻周りと太ももとかが相当むっちりはしているが、十分、女性らしいスタイルをしている。以前は顎や腰のくびれが無く、酒樽のような体型だった。


というか、何か言ってくれよ。とても気まずい。それに暑いんだけど・・・


「あ、あのぉ! おじさん、桜子ちゃんはお元気ですか?」と、ナナセが言った。


な、なんだ、桜子のことを聞きたかったのか。そういえば、桜子は夏休み中にこの子と一緒に勉強していたんだっけ。確か同じ歳。

なので、この子は今年で18歳のはずだ。


「あいつは元気だぞ。一時期マスゴミの嫌がらせを受けてぶち切れたりしてたけど。そうそう百鬼隊の人が何人か居候しているらしい。今、桜子は道場のある屋敷に住んでるんだけど」


「そうなんですか。良かった」


この子は内気な子だけど、人と話す時は相手の顔を見る質らしい。返答の度にいちいちこちらの顔を覗いてくる。体がこちらに向くと、巨大なあれが俺にあたりそうになる。


そして、また訪れる沈黙。そろそろサウナから出たいんだけど。彼女が入り口側に座っているから、俺が出られない。あの大きさで通路を塞がれると、通るときに必ず接触する。胸部装甲のトップに。


「父から、あなたのお話はお聞きしています」


「魔王から?」


「そうです。とても感謝していました。あの! 私も、とても感謝しています」


「そうか」


「私、とても太っていたんです。それがコンプレックスで。でも遺伝だからって諦めていました」


「そういえば、痩せたよね。主に腰回りが」


「そうなんです! 桜子ちゃんからこの温泉の話を聞いて、父に無理言って通っているんです。そして、毎回痩せてお願いって願って浸かるんです。そうしたら痩せたんです。でも、お胸が全然痩せなくて。それからお尻も、この大きさから細くならなくって」と、ナナセが自分の胸やら腰やらお尻やらをもにもにしながら言った。


なんと!『アナザルームは、術者の願望が反映される』かつて、誰かに教えて貰ったこと。


ここの温泉は、何にでも変化可能な万能魔力ではなかったのか。まさか、『痩せたい』という願いは叶えたが、おっぱいを小さくするのは拒否したということか。それからお尻も。


さすが、俺が創ったアナザルームだ。


だけど、俺は別に小さいのも良いと思うんだ。


いや、そろそろ俺も辛くなってきた。脱水症状になりそうだ。サウナ出たいんだが。


「それでですね。最近、侍女にも言われるんです。『やせましたか』って。それが嬉しくって。いや、でも、ここの温泉だけを頼ってるんじゃありませんよ? ちゃんとお食事も制限して、運動もしてて」


それは良かった。

彼女もかなり汗だくのはずなんだが、何で出ようとしないんだ?


「サウナで汗をかくのも痩せるのにいいかなって思ってて。最近は毎朝入りに来てるんです。それであの。今日はお礼を申し上げたくって」


ああ、そうか。お礼を言いたかったのか。だからなかなか出ようとせずに・・・


「桜子ちゃんから習いました。日本語ではこう言うんですよね。『ありがとうございました』」


この狭い空間でこちらを向いてお辞儀する魔王娘。押し出されたお胸が俺を圧迫する。


わざとやってるんじゃないだろうな。この子。


いや、天然か? 魔王曰く、全くモテない子らしいのだが・・・


「あ、サイレンの街にお出かけしたのもいい思い出です。日本の皆さんもお元気ですか?」


「ああ、元気だ。今日は皆でお祭りやるんだ」


「へぇ~お祭りですか。どんなことをやるんですか?」


この子は・・・こんな時、双角族だったら気持ちを察してくれるから楽なのに。


「いや、まずはスポーツ大会。それから、夜は屋台にコンサート。さらに神社でお祭りかな」


「へぇ~~スポーツ! 桜子ちゃんから色々聞いています。行ってみたいなぁ」


「あ、あの、来ます? 連れて行きますよ」


「え? いいんですか?」


いいから早くそこをどいてくれ。そして俺を圧迫するのは止めてくれ。


「でも、父に聞いてみないと・・・」


「お忍びで魔王が付いてきてもいいから。あの、早くですね・・」


「はい! 行きます! あ、『ありがとうございます』」


そ、それは止めてくれ・・・サウナの熱いとこと、お肉に挟まれて押しつぶされそうになる。


巨乳。それは男の憧れ・・・だが、モノには限度というものがあると思った。


・・・・


サウナから出ると、ディーがすでにTシャツ姿で畳部屋に座って涼んでいた。


「お!? どうしたんだタビラ。なかなか出てこないから心配したんだぞ」


「心配したんなら助けてくれ・・・あ、それから、魔王の娘も来るって。サイレン祭り」


「そ、そうかぁ」


ディーは、俺の後ろからトタトタと歩いてくる全裸のナナセを眺め、遠い目をした。



・・・・

<<大使館>>


「と、いう訳で、娘は連れて行く。何か問題はある?」


ここは、ラメヒー王国のマ国大使館。

一応、イセに許可を取っておくためにやってきた。


「別によい。彼女はここの大使館職員だ。『シリーズ・ゲート』で連れて行ってかまわん」と、イセが言った。


「そっか。そりゃよかった」


「・・・どうした多比良。お前顔が真っ赤だぞ」


「いや、サウナに入り過ぎて」


「・・・そうか。ところで、わしらは今日は何時に用意しておけばよいのじゃ?」


「ああ、野球場の屋上を抑えた。コンサートの特等席兼夕食会場だな。スポーツ大会の予選を見るつもりがなければ、夕方迎えに来るけど」


「スポーツ大会はよい。では、夕方だな。分った」


会場設営は、祥子さん達に任せている。もちろん、ショットバーも出す。

料理は軽空母から『出張料理人』作のものを運び込む予定だ。



・・・・

<<サイレン>>


サイレンに戻り、魔王の娘ナナセと一緒に競技場を歩く。

一応、公務外でのお忍び参加だけど、体格が全く忍んでいないのが問題だ。絶対に目立つ。


とはいえ仕方が無い。まずは我が息子達が出ているパシュート大会を応援に。

システィーナと晶と加奈子ちゃんチームも、野球と掛け持ちで出場するはずだ。


・・・・


結果は、息子は決勝進出ならず。エリオットくんとリン・ツポネス国の留学生とチームを組んで滑っていた。競技は男女別だが、学年で別れていない。元陸上部3年生が無双していた。まあ、参加人数的な問題もあって、大会運営員がそういうルールを決めたので、仕方がないか。でも一生懸命滑っていた。体付きも大きくなっていた。いいことだ。で、女子の部システィーナと晶と加奈子ちゃんチームは準決勝進出。明日の決勝戦も見に来よう。


次に野球場に急いで移動。

ここには徳済さんと斉藤さんに、お忍び日本人2人もいた。


「徳済さん」


「あ、来たわね。何処行ってたの?」


「色々。さっきはパシュート見てきた」


「どうだったの?」


「息子は予選落ち。晶は準決勝進出」


「へぇ。こっちは、高遠君チームとケイヒンが勝ちそうね。バルバロは分が悪いわ」


高遠君チームは、タマクロー家がスポンサーの親父草野球チームだ。


「モルディがいないんだろ? しょうがない。今、バルバロはちょっとなぁ・・・」


モルディは、一旦実家に帰っている。


「まさか、この国の貴族が出資して野球チームを創って大会をしているとはな」と、水政くんが言った。感心しているようだ。


「スポンサー製なら、バイクレースもある」


「逆に、ゴルフは流行らなかったわね」


「そうみたい。代わりにテニスがブームになりつつあるという」


「テニス? そうなの?」


今度はアマビエさんが食いついた。


「日本にいる家族達が送ってくれたらしい。大量のボールを。ラケットはこっちの植物の茎で作ってるらしい」


「そうなの。サッカーとかはないのね」


「サッカーは無いね。弓道はある。この国の人にも人気って聞いた」


カキン! ヒットの音が響く。


「あ、打たれたわね。やっぱケイヒン強いか」と、徳済さんが言った。


「この間抗争でバルバロに負けたから、スポーツでスカッとしたいのよ。ある意味平和」と、斉藤さんが合の手を入れる。


「ところで、多比良さん晩ご飯はどうするの?」と、徳済さん。


「今日はイセと。コンサートに呼んでるから」


「今日来るのね。そうそう、今日のコンサート、あの歌姫が歌ってくれるって。とても気をよくしてくれているわ」


「歌うって、ここで?」


「そうよ? 声の調子も良さそうなんですって」


「へぇ~いいんじゃない? 今日はクラシックにアイドルに色々聞けるなぁ」


世界的歌姫がノリで歌ってくれるなんて、かなりラッキーじゃないかな。


「一貫性がないとも言う」


「コンサートも開催か・・・ここの野球場もしっかりした造りだし、一体どうなってるんだ? この半年で何があった?」と、水政くんが言った。


「だから、ここの女家主、今は用事でいないけど、彼女が気前よく何でもさせてくれたんだよ。だからこうなった」


「いや、それでもだな、多比良くん・・・」


「まあ、魔術のせいと思っててくれ。結構万能なんだぜ? 俺もここに来た時には労働者として城壁工事に明け暮れたもんだ」


「そうか。お前も苦労したんだな・・・ところで、少し聞いてもいいか?」


「なんだ? 水政くん」


「その、お前の隣にいらっしゃる女性はどなただろうか」


俺の隣には、さも同然のごとく魔王の娘が座っている。


魔王の娘の手にはタッチパネルが握られているから、多分、魔王も来ている。あいつは恥ずかしがり屋だからな。まあ、今日はお忍びだ、わざわざ魔王の名前を出す必要もないだろう。


「いや、知り合いの娘なんだ。今日はお祭りなんで、サイレンの街を案内してやっている」


「そ、そうか」


水政くんは何か言いたそうだった。まあ、いきなり超絶爆乳の子を連れてきたら、そりゃ何か言いたくもなるだろう。


「そろそろバイクレースの時間だな。そっち見てくる。今日こそは日本居酒屋に顔を出そうと思うけど」


「ま、期待せずに待ってるわ」


徳済さんが少しすねてる。


・・・・


続いてサーキット場に移動。


これ、2日でやる必要はあったのか。もう少しのんびりしてもよかったんじゃないか? かなり忙しい。

会場に着くとブォンブォンとバイクがうなりを上げている。

厳密に言うと、アクセルを回した時に音の出る魔道具が連動して発動しているだけなのだ。


ここのバイクは反重力モーターで動く。なので、基本的に反重力バイクはモーターの駆動音しか発生しない。しかし、それでは物足りないと感じた日本人有志が、爆音が出る魔道具を開発した。


「ああ、もう終わりかけだ。今回はモルディが棄権してるけど、ドネリーも出てるからな」


「結構忙しいですね」と、ナナセが言った。


「だよなぁ。次回はもう少し工夫するべきだ。弓道もやってるはずだけど、全く見る暇が無い」


嫁が弓道大会の面倒をみているらしいのだが、見れず終いだ。


・・・


会場に着くと、すでに予算最終組だった。


「あれがバイクなんですか?」


「そうだ。2つの車輪で進む。止ってると不安定だけど、走ると安定する。桜子も乗ったことがあったな」


「どことなく艦載機の操縦桿に似てますね」


「そうそう。艦載機の作者はバイク技師でもあるから。当然影響は受けてる」


ブォン! ブブォン! ブォオオオオオ・・・・・


「いい音ですね」


「そ、そう? あれ、わざわざ付けてるんだよ。喜ぶと思うよ。それ聞いた制作者達も」


「はい」とナナセが言って、にこりと笑った。


妙な感性をお持ちの子だ。


「結構、中学生のライダーがいるな。スポーツ扱いっていうのは聞いたけど」


「今はあらゆる魔力が高効率で反重力に転換できますからね。気軽に楽しめるのでしょう。『魔王の魔道具』は、まだ普及はしていませんけど、ここは特別です」と、ツツが言った。


「なるほど。これまでは反重力が貴重で研究もままならなかったみたいだからな。ガソリンが極端に安くなったようなもんか」


駄弁っているうちに、最後の直線コースに突入。小さい子が乗っているバイクが半身先に出ている。


「中学生が勝ちましたね」


「おお、凄いな。大人達を倒すとは」


「楽しそうです」


「お? 今度乗ってみるか?」


「そうですね。でも、お胸が邪魔にならないかなぁ」


「ああ、ぎりぎり行けるんじゃ?」


確かに、操縦しにくそうだなと思った。


ばたばたしたけど、結構楽しめた。

さて、次は食事をしながらコンサートだ。

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