第206話 メイクイーンのおもてなし再び? 10月上旬

<<メイクイーン>>


転移門の前で3基の移動砦は解散。バルバロ辺境伯達は自分達の移動砦で自領に戻って行った。


我々はメイクイーンに向けて転進。時間はまだお昼頃だったりする。


上空から見下ろすメイクイーンはやはり美しい。

棚田には、頭を垂れる稲穂。所々収穫が済んだ田んぼもあるようだ。刈り取った稲穂を干している光景も見えた。


田んぼと稲穂が日本人の心をくすぐるからなのか、それは分らない。だけど、とても懐かしく、そして恋しい風景に感じた。


息子の志郎や他の子供達も、わいわいとシスティーナと一緒に街の風景を見下ろしている。


何となくカメラを取り出し、その光景を撮りまくる。


軽空母は、そのまま城壁の警備兵に挨拶し、前回泊めた場所に再び着陸した。


・・・


夕方、メイクイーン男爵邸に行く時間になった。


途中で連れて来たディーと前田さんも、今日は軽空母に泊まるということで、『シリーズ・ゲート』での送迎はなし。


俺とツツとシスティーナ以外は居酒屋兼パン屋の『ノーラのパン屋』に行くらしい。


俺も久々にあそこの美人さんに会いたかったんだけど。まあ、しょうが無い。


「じゃ、オレもそのパン屋に行ってくるから。帰って来てまだ元気だったら、軽空母のショットバーで1杯やろう」とディーが言った。少し残念そうな顔をしている。


「分かった。何とか生きて帰ってくる」


ディーに別れを告げ、邪悪な笑みを浮べる峠さんを無視し、パソコンを抱えてシスティーナとツツを連れて徒歩でメイクイーン邸へ。


もう日が沈みかけている。システィーナは、相変らず大量の荷物を持っている。多分、弟達へのお土産だろう。


道すがら、「今日は、お舟のお料理はないみたい。ごめんね」と、システィーナが言った。


「いや、いい。そんなに気を使わなくても」


「ふうん。私がお舟に上がっても良かったのに。お父様みたいに上手にはできないかもしれないけど」


何を言ってるんだ。このお子様は・・・


・・・


メイクイーン邸に着くと、システィーナはさっさと家に上がってどこかに行ってしまった。


その後は、家長自ら出迎えてくれた。


「おお、タビラ殿。早速上がられよ。今日は大した料理はご用意出来ませんでしたが、精一杯の魚料理がございますぞ」と、筋肉男爵が言った。


魚か・・・盛り付けはどうなんだろう。


メイクイーン男爵の後ろを歩く。

だが、男の後ろを付いて行っても何の楽しみも無い。


この筋肉見せたがりのメイクイーン男爵も、今は流石に薄手のシャツを着ている。夜は寒いのだろう。そろそろ冷え込む時期だとか。

ここ、ラメヒー王国の気候と日本の気候はよく似ている。


「こちらですぞ。靴を脱いでお上がりください」


ここの土足ルールは、バルバロ辺境伯家方式だった。日本の旅館みたいな感じかな? 廊下までは土足OKで部屋の中は土足厳禁な感じ。


部屋に上がると、そこには沢山の子供達がいた。それに混じってシスティーナも。


子供達の目はみんなキラキラしている気がした。


俺が部屋に上がると「ほら、皆ご挨拶とお礼を言いなさい」と、システィーナが言った。


「「「「おじさん、お礼を、申し上げます」」」」


総勢10人くらいの子供達から一斉にお礼を言われる。一体何の事やら。


「おじさんがモンスターをやっつけてくれるんだよね」


「またここにモンスターが来るって聞いた。でも、お姉ちゃんとお父さんと、それからおじさん達がみんな倒してくれるって」


「こわいモンスターをやっつけて!」


みんな、まるでファンのプロスポーツ選手を見るかのような目つきだ。何ともいたたまれない。俺は、当事者意識はあまり無かったというのに。

それに、正直あの高さ300mを越える巨大な3つの門から湧き出てくる、万単位のモンスターに対峙するのははっきり言って怖い。


後ろに、無辜の民を抱えながらなら、なおさら・・・それでも・・・


「ああ、おじさんに任せなさい。モンスターなど、ひとひねりだ」


あ~あ、言ってしまった。


俺は人の子の親でもあるのだ。俺は、他人とはいえ、目の前の子供達を見捨てられるほど、非情な人間ではかったのだと、初めて知った。


その後、子供達にもみくちゃにされた。


・・・


子供達が去り、ささやかな宴会が始まった後、「うふふ。カッコよかったじゃない。弟達も喜んでいたわ」と、隣に座るシスティーナが言った。


「無責任な約束だったと、少し後悔している」


俺は中学生となんという会話をしているのだろうか。中学生と言ってもシスティーナだが。


今は、システィーナと刺身とか焼き魚を食べながら、バルバロ酒をいただいている。ほくほくの炊きたて御飯もある。棚田で取れた新米らしく、とてもおいしい。


料理は奥からちょくちょく運ばれてくる感じだ。というか、システィーナもお酒を飲んでいる。いいのだろうか。まあ、一緒にいる父親が何も言わないからいいのだろう。


メイクイーン男爵(父)は、ツツの説明を聞きながら、持ってきたパソコンで自分の写真を見て喜んでいる。


なんとまったりした空間だろうか。


「ねえ、少し聞いてみていい?」と、システィーナがこちらに僅かに寄ってきて言った。


「何だ?」


「カクヘイキって何?」


「・・・何だって?」


「だからカクヘイキ」


カクヘイキって、核兵器だよなぁ。


「誰がそんなことを・・・」


「日本人って、不思議。皆カクヘイキのことをほのめかすけど、それは何って聞いたら教えてくれないの」


「そうか。知らない方がいい」


「そう! みんなそう言うの。どうして? 何で?」


俺は何となくツツの方をチラ見する。

何となく悲しそうな、優しい顔をされる。どういう意味なのだろうか。ツツは知っているのだろうか。


「ツツは、知っているのか? 核兵器を」


ごくり・・と唾を飲む音が聞こえる。


「知識として、なら」と、ツツが言った。


「そうか・・・いいか、システィーナ。核兵器とは、もの凄く強い爆発が起きる爆弾だ。だけど、地上で使ったらだめだ。数万年の間、その土地では人が住めなくなる」


あくまで核反応で生じる火球が地面に到達する高度で炸裂させた場合、だったと思うけど。いずれにせよ、核兵器は人類が負えることが出来る責任の範囲を越えている。


「え? どういうこと?」


「その爆弾が1発あれば、サイレン程度の大きさの都市なら一瞬で吹き飛ぶくらいの威力がある。地球には数万発くらいその爆弾があるが、それを持ってくれば、今回のスタンピードも凌げる可能性がある。だけど、それを使ったら、その土地には人が住めなくなる。稲作も出来ないだろう」


「え? なにそれ。そんなの、なんでそんなものが存在しているの? バカなんじゃない? 第2世界は!」


システィーナが本気で怒っているように感じた。


「そう。バカなんだ。そんな兵器を造ってしまうなんてな。いつ世界が終わってもおかしくない。まるでこっちの大破壊のように・・・」


ツツがびっくりした顔をして、すぐに表情を消す。こいつは何か知っているな? まあ、今はいっか。


「おほん! まあ、なんだ。こっちの世界にも姑息な手段を用いようとする輩はいる」と、メイクイーン男爵がパソコンをパタンと閉じて、こちらの話に加わってきた。


「お父様・・・」


「正直に言うと、今回のスタンピード討伐戦ではな、焦土作戦が選択肢として上がっている」


「え? 焦土作戦?」とシスティーナが疑問の声を上げる。


俺も疑問に思う。だって、モンスター戦の話だろ? 人同士の戦いなら、理屈の上では分かるけど。


「焦土作戦とは、水魔術により、モンスターに効く毒を当たり一面にまき散らすという戦法だ」


「え? 何それ。その毒ってどういう影響があるの?」


「地上を這うモンスターにはかなりの効果がある。だが、土地が汚れる。それこそ10年単位でコメが取れなくなる。カクヘイキとやらの数万年とは比較にもならぬが・・・」


モンスターって、毒が効くのか。いや、モンスターに効く何かを『毒』と呼んでいるのだろう。


「い、嫌よ! この土地ってご先祖様達が必死に開墾した土地じゃない! 本当は稲作に向いていないけど、必死に田んぼを造って。棚田だって、本当は効率悪いって。だけど!」と、システィーナが声を上げる。


「分かっているよシスティーナ。そんな作戦は私が採用させない。そんなことをするくらいなら、全員で逃げて、また戻って来た方がマシだ。モンスターに蹂躙されても、せいぜい、家と石垣が壊されるだけだ。土地が死ぬことは無い」


しんみりしてしまった。


これから5ヶ月後のことを思うと、かける言葉が見つからなかった。


・・・・


残りの御飯を食べて帰宅の途につく。システィーナは実家に泊り、朝から合流することに。


真っ暗な夜道を軽空母に向けて、ツツと一緒に歩き出す。


「まあ、やれることをやるしかないか」


「そうですね・・・」


言葉少なめに・・・


軽空母に帰るとディー達もいた。子供達は先にお風呂に入っているとのことだった。


前田さんやディー達と、軽空母のショットバーで軽く飲んだ。

明日は魔石ハントということで、早めに切り上げた。


前田さんとノルンの邂逅などもあり、それなりに楽しくはあったのだが、あの悪意ある巨大な転移門、核兵器とメイクイーン男爵父娘の決意、そして無邪気な子供達・・・色々と考えさせられることが多く、素直に楽しめなかった。



◇◇◇

<<とある掲示板 【異世界が本当にあるか検証するスレ】>>


すれぬし『今日は来ないのかな・・・ギルマスも怪人キャッスルさんも』


名無し1『早く燃料投下してくれ。パンツ脱いで待ってるのに』


名無し5『前回はケイヒン5人衆というかなりニッチな写真だったよな。まあ、俺は行けたけど』


名無し7『おいおい、お前らよ。ここって、異世界が存在するか検証するスレじゃなかったのか? いつの間にかギルマスの話と怪人キャスルの写真を待つサイトになってる』


怪人キャッスル『待たせた』


名無し3『!!出た! 写真はよ』


名無し1『今回はどんなのだ? 前回はセーラー服を着た謎の5人衆、その前はヒューイ君。その前は変なトカゲ。その前は淡水のイカ。その前はクルーの女性だったけど』


名無し3『謎が多い写真だったよな。異世界かと言われると何とも微妙だけど』


名無し7『そうそう。ヒューイ君も特殊メイクでどうにかなりそうな感じだし』


名無し1『ケイヒン5人衆も、捜せば何とか揃うのでは? いや、あれは無理か』


怪人キャッスル『泣いて喜べ「ZD165465.jpeg」ガイアナーテ・タマクロー25歳。これでも姫だ。文句あるか? 彼女はモンスター討伐隊。応援してやってくれ。じゃ』


その写真には、大量の銃口が生えた巨大な塔が映っており・・・その前には可憐にはにかんだ、軍服に身を包んだガイアが立っていた。


悩んでも仕方が無い。俺は、今自分に出来ることをしよう。

そう思いながら、俺は寝た・・・が、その日のスレは大変荒れたそうな。



◇◇◇

<<軽空母 自室>>


かつて、俺は不眠症に悩まされたことがある。

異世界転移なんて不思議なことが起きる前のことだ。


仕事が忙しいとき、仕事が揉めたとき、経験の無い仕事を押しつけられたとき・・・


そんな時は、夜眠れない日々を過ごし、それでも踏ん張って仕事に打ち込み、何とか乗り越えてきた。

腸過敏は煩ってしまったけど。


だけど、この異世界転移のお陰で、不眠は完治し、腸過敏もほぼ治りつつある。


「う、ううん・・・」


だけど、今日はなんだか、熟睡が出来ない。


いや、メイクイーンの美しい棚田に迫る、地面を覆い尽くすようなモンスター。その上空で炸裂する核兵器、そして発生する衝撃波とキノコ雲が夢に出てきた。もう少しお酒を飲んでおけばよかった。


布団が重い気がするし、暑い気もする。

寝返りを打つ・・・いや、打てない。布団が張り付いている?


まさか、金縛り?


俺の寝具は、一応、良い羽毛布団を使っている・・・羽毛布団は軽いけど、ベッドに張り付くことがある。まあ、こういうこともあるか・・・


それに、悪夢を見たはずなのに、やけに気持ちがいい。下腹部が。


ああ、コレはアレだ。


朝立ちだ。朝立ちは別にエロいから起っきするわけでは無く、体が勝手にあそこに血を流し、男性としての能力を維持するための生理現象だということをどこかで読んだ。


でも、朝立ちは気持ちいいんだよな・・・


ここのまま行きたい誘惑に駆られる・・・でも、シーツを洗ってくれる人にばれたら、白い目で見られることだろう・・・


あ、でも、本当に、わさわさして・・・

締まりは全く無いけど、摩擦が・・・とてもリアルな夢だ。


もういっか。俺には水魔術がある。こっそり洗ってしまおう。


俺は、我慢することを放棄・・・


「もう少し・・・だから・・・」


何か聞こえる。


え? は?


「あ?」「え? あ!」「ちょ、おま」「うふん」「ちがっ」「違わない」


糸目がいた。俺の布団の中に。俺の悪夢はこいつのせいか。


糸目が何をやっていて、俺がどうなったのかは秘密だ。

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