第181話 重要参考人発見 9月中旬

<<日本 多比良城自宅>>


ギ ル マ ス『連絡員が自宅に帰った。しばし待つべし』


連絡員とは、徳済さんのことだ。

その連絡を受けてから、日本の自宅でずっと待っていた。もう夜も21時を過ぎたあたり。

そわそわしながら『萌え萌えネットワーク対戦、艦隊娘プロジェクト』のチャット画面を除き、ひたすら更新を待つ。


そして・・・


ギ ル マ ス『連絡員が戻った。しくじったみたい』

怪人キャッスル『しくじった?』

ギ ル マ ス『旦那が浮気してて蹴った。旦那気絶。浮気相手に警察呼ばれた』

ギ ル マ ス『で、連絡員逃げてきた』

怪人キャッスル『突っ込みどころが沢山だぁ。どうする? 一旦戻る?』

ギ ル マ ス『連絡員、靴を家に置いてきたって』

怪人キャッスル『靴って、あの革靴?』

ギ ル マ ス『そそ。表面が極楽蛇。内面がリバーサーペントの高級品』

怪人キャッスル『なんてこったい』

ギ ル マ ス『連絡員は怪人と話したいと言っている』

怪人キャッスル『りょ。連絡員は第1に帰る?』

ギ ル マ ス『連絡員は、一旦第1に帰るようだ』

怪人キャッスル『俺も戻る。ギルドに行く。後でまたINする』

ギ ル マ ス『了解』


何やってんだよ・・・徳済さん。



・・・・

<<サイレン 冒険者ギルド ギルドマスター室>>


「ごめん!」


第1世界の冒険者ギルドに戻ると、徳済さんがいの一番に謝ってきた。


今、ここには高遠さんと徳済さんと俺とツツ、それから糸目がいる。


「色々と突っ込みどころはあるけど、まあ、一番はKTが悪い」


「話を整理すると、教頭は東京までは行けたが、そこで買春と思われる行為をして、運悪く警察のガサ入れで連行。打開しようと徳済さんが自宅に戻ったけど、そこで旦那さんが浮気相手とセ○クス中。で、真空飛び膝蹴りでノックアウト。お父さんに電話するけど、声が若返っててオレオレ詐欺を疑われる。浮気相手には警察を呼ばれて逃走。しかも、この世界にしかいない動物の皮を使った靴を忘れてきたということだな」


「そ、そうとも言うわね」


「教頭にはまこくさんが付いているけど、彼らは今回、『目』でしかない。そもそも、『見るだけ』というお願いしかしていません。自分の判断で動くことはしない」


「それはそうでしょうね。彼らが自主的に判断して、何かあったら誰の責任なの? という話になる。だから、彼らは傍観者で正解」とは徳済さん。


「さて、一般的に単純売買春は重罪ではない。まあ、教頭の将来は知らないけど、1晩くらいはお仕置きで拘置所に宿泊になるかもしれない。だけど、問題は身元を調べられて、異世界帰りがばれて我々のことを中途半端にしゃべられることだ」


「教頭はあの書類を持っているのよ。あれさえあれば何とかなるはずよ。教頭は警察に絞られるかもしれないけど」


「多比良さん。拘置所の中とかの様子って分からないの? 教頭に持たせたあの書類がどうなっているかとか」


「うう~ん。まこくさんの事を言っているんでしょうけど、東京班は1人って聞いています。限界があるんですよ。それに、彼らのスペックは詳しくは教えて貰ってないんですよね。どの程度見えるのか、声が聞こえるのか、日本語も何処まで理解しているのか、とか。まあ、彼らの諜報もそこまで万能ではないと考えておいてください」


「分かった。東京にいる諜報部員にはあれこれ期待せず、教頭の状態がある程度分かる、くらいと思っていた方が良さそうだ」


「そ。これからどうしようか。サイレンで寝て待つワケにも行かないだろうし、俺は自宅に戻って仮眠を取りながら時々チャットを見ようと思う」


「ねえ、多比良さん。あなたの使っている『パラレル・ゲート』、その正体は詳しく聞かないけど、私も連れて行ってもらっていい? 緊急事態だもの」


徳済さんは、俺の『パラレル・ゲート』は温泉アナザルームの魔力を使用できることは知っている。だけど、普段は『マ国の魔力を使用しているらしいけど詳しく聞いていない』という設定で話を合わせてくれている。


「分かった。大丈夫」


「じゃあ、多比良さんと私は日本へ。前田さんにはあっちで連絡を取るわ。高遠さんはこっちで休んで」


「分かった。じゃあ、それで」


教頭のせいで、長い夜になりそうだ。


糸目は、今日は移動砦で休んでもらった。



◇◇◇

<<日本 我が家>>


『マイ・パラレル・ゲート』を通って我が家へ。部屋は真っ暗だ。直ぐに電気を付ける。


「いらっしゃい」


「2回目ね」


「そういえば、ネタばらしの時に連れてきたかな。狭いけどごめん」


夜はもう23時近い。

徳済さんと日本の我が家に来た。まあ、ツツも居るけど。

今日はここで一夜を明かす予定だ。


「いえ、いいのよ。それで、どうするの?」


「とりあえず、前田さんに近況報告。それ以降は待機かな。仮眠でも取ろうか」


チャットのために、リビングにあるマイノートPCの電源を入れる。


「ここって、シャワーあるのよね。お湯は出る?」


「出るよ。桜子が出入りしているし、多少使っても別に怪しまれないと思う」


「入るわね」


「はいはい」


さて、夜は長そうだ。



◇◇◇

<<東京都のとある警察署>>


「吐きました! あいつ、買春の件は不問にするって言ったらすぐに吐きました。あいつは教頭。あの棚中学600人失踪事件で、行方不明者のうちの1人と言っています。今裏取りしています!」


「何!? 内閣官房室にも連絡を入れておけ。あの事件が一気に解決に向かうかもしれんぞ!」


「分かりました」


「対策室も増強されることになるだろう。絶対に犯人を逮捕してみせる」


「はい。その件ですが、彼は魔王と多比良というものの力を借りて異世界からやってきたと言っています」


「魔王だと? やっぱりカルトだったか! ヤツの言葉に惑わされるな。とりあえず、その多比良というヤツを調べ上げろ! 徹底的にだ」


・・・・


「だから言ったでしょ? 多比良さんと魔王の力で戻って来たって。何回同じこと言わせるんですか!」教頭はイライラを爆発させる。


教頭の取り調べはまだ続いていた。

すでに、実質的な容疑は児童買春ではない。棚中学校600人大量失踪事件の重要参考人としての取り調べが行われる。


「多比良は分かった。住所と電話番号はこちらで調べる。だが、魔王とは何だ? どういう人物を指す!」


「だから、マ国の王様です。どういうって・・・女性です。おっぱいの大きな物静かな女性です。私はここに戻ってくるときに1回しかお会いしていないんです。よく知らないのですよ」


「じゃあ、魔王を知る人物は誰だ?」


「そりゃ多比良さんです。それから日本人会の幹部達」


「幹部だと!? 教えてくれないか?」


「多比良さんと、前田さんと徳済さんです。彼らとは一緒にこっちに来ているんです」


「何? 幹部がこの日本にいるのか?」


「はい。前田さんの家で待ってくれています。そして前田さんの家には生首があって・・・」


「おい」 「はい」


刑事の2人が目で会話する。



◇◇◇

<<内閣官房室>>


「大変です。あの600人失踪事件の行方不明者の一人が現われました。失踪の真相や行方不明者のことも事情を知っていると思われます。これが今までの調書になります」


KT事件の速報を持った警察官が、内閣官房室に駆け込む。

もちろん、第一報は電話で入れてある。


内閣官房室の担当官は、速報が届くのを今か今かと待っていた。


「・・・よし。やっと手がかりが掴めたか。総理へは私から報告する。引き続き捜査に当たってくれ」


書類を受け取った担当官は、急いでその書類に目を通す。



・・・・

<<総理官邸>>


もう夜も遅いが、重要事項ということで、内閣情報官が総理に事件の速報を入れる。


「以上、600人失踪事件を知る人物の拘束に成功しております。今は取り調べの最中ですが、彼は組織の末端である可能性が高いです。また、犯人組織は想定の通りカルト関係とみられ、例えば『魔王』や『生首』、『異世界』などカルト的な隠語と思われるワードが散見されます。ですが幹部の名前は割れています。すぐに調べは付くでしょう」


「よし! 神風が吹いたな。これは次の総裁戦と衆議院総選挙の追い風になる。思えばこの事件のせいで私の支持率はがた落ちだ。しっかりと役に立ってもらおう」


「はい。世界的に注目されている事件です」


「そうだ。分かっているね」


「は、はい。必ずや事件の解明と犯人の検挙を・・・」


「もうすぐ選挙なんだ。時間との勝負なのだよ。君ぃ。分かっているね」


「は、はい。しかし、まだ行方不明者1名発見と幹部の名前しか分かっておらず、罪名なども・・・」


「そんなもの、どうとでもなるだろう。そして、ちゃんと、リークをね。うん」


「あの、名前が分かった幹部も、まだ犯罪者と決まったワケでは・・・それに、失踪者が人質となっているケースも考えられ・・・」


「分かってないなぁ君ぃ。我が内閣は、正義の味方でないといけないんだ。それには敵が必要だ。分かったね」日本国総理大臣、餅付氏が凄む。


政治が人事院を掌握してからというもの、政治家の発言権はとても強くなっている。


「は、はい。忖度いたします・・・」


「ふむ。任せたぞ。水政みずまさ内閣情報官」


・・・


「くそ!」


総理官邸から出た水政内閣情報官は荒れていた。


警察官僚まで上り詰めた自分の能力を、死に体内閣の点数稼ぎのために使わなければならない。

彼は、本来、この事件はじっくり慎重に進めるべきものだと考えていた。


600人も失踪しておいて、半年間何一つ捜査が進んでいない。

この不思議な事件は、今のところ集団催眠説が有力であるが、本当にそうなのか疑問も残るのだ。

なぜならば、この600人は、


忽然と消えたのだ。今はその事実を無視している。

その謎が解明出来そうな人物が現われたのだ。慎重に証言の裏をとり、全員の無事を確認する必要があるが・・・


水政内閣情報官は、スマホを取り出すと、知り合いの公安関係者の番号をタップする。


「仕方がないか・・・おう。もしもし、久しぶりだな。ああ、お前の『協力者』に弁護士がいただろう。ああ、そうだ。知っているんだろ? 600人失踪事件だ。ああそうだ。失踪者そのものが現われた。犯人の幹部と思われるヤツラの名前も分かった。そうだ。マスコミにリークする。幹部を、その『協力者』に刑事告訴させろ。そうだ、緊急逮捕を狙うより、容疑者になって貰った方が動きやすい。頼んだぞ」


スマホを切ると、次の人物の番号をタップする。


「・・・もしもし。警視か。水政だ。例の600人失踪事件、対策本部を再始動させるんだろう? ああ、総理案件だ。急がせろということだ。明日、主犯格と思われる『多比良城』と幹部の『前田信長』は刑事告訴される。『徳済多恵』も重要参考人として探し出し、緊急逮捕してもかまわん。家宅捜索の手続きも進めろ。一気に行くぞ」


水政内閣情報官は、苦虫を潰したような顔をする。


「次はメディアか。悪く思うなよ。事件は俺が解明してみせる」


そして、独り言ちる。



◇◇◇

<<多比良家自宅>>


ドン!


徳済さんの後にシャワーを浴びて風呂場から出ると、無言で壁ドンされ、女体と壁に挟まれる。


「ねえ、分かってるんでしょ?」


「あの、チャットの監視は?」


「夜に買春の取り調べなんてしないでしょ」


「あの、一体・・・」


周りをキョロキョロしてみるが、ツツはどこかに姿をくらませている。

徳済さんは、さらに体を密着させる。


「・・・大きくなっているわよ?」


「いい臭いがするから」


「・・・しよっか」


「だけど・・・」


「散々、あなたの体で私に入れたでしょ。今日は、私があなたを入れる番」


意味が分からない。


「部屋、どこ?」


「2階」


徳済さんから腰を”がしっ”と抱きかかえられ、2階に連行されていく。身体強化の影響だとは思うけど、すごいパワーだ。


「旦那も浮気していたし、気兼ねもなくなったわ」


徳済さんはそう言って、床をミシミシとさせながら階段を上がる。


我が家は夫婦別部屋。俺の部屋に連れ込まれ、ベッドに押し倒される。

そこから上に乗られ、密着される。

俺は最初からパンツ1枚。徳済さんは薄手のシャツとショートパンツだった。


「八重さんから許可は貰っているし、いいでしょ。でも、情けで今日は私が上で・・・んしょ」


許可って・・・ど、どうしよう。もう、いっか。嫁もいいって言っているようだし・・・あったかいし・・・


「○戯は、要らないから」


電気は常夜灯が付いている。

久々の我が部屋の天井。

そういえば、何か忘れているような・・・まあ、いっか。今は・・・いや、もうすでに・・・


あふ。なんとなく天井の柄を見つめる。

多恵さんは、俺の鎖骨あたりに顔を《うず》埋めている。

腕を、背中に回してしまった。体の動きを全身で感じる。


次の瞬間、天井の壁紙の柄がぬっと変わる。それは、ヒトの顔のように見えた。

ふと壁を見る。そこには、いつの間にかヒトが立っていた。うなだれて、両手もだらりと下げている。

さらにもう一体。俺の右手側のベッドの際に、前髪を下ろしたナニカがゆっくりと這い上がってくる。


「多恵さん・・」


「いいのよ。いつでもって」


いや・・・そうじゃなくって・・・この部屋・・・幽霊に貸しているんだった。忘れとった。くっ。少なく見積もっても3体いる。

でも、まずい。動くのを止めてくれないと・・・


「多恵さん・・・」


「なあに?」


止めてと言おうとしたけど、逆に激しくなった。


まずい。というか、右手側のヤツがゆっくりと這い上がってきた。くそ、せめてその前髪は止めてくれ。

髪を掻き上げてやろうと、右手を伸ばす。


伸ばした右手が、ばっと捕まれる。そのまま相手の顔の前まで引っ張られ、指を口の中に入れられ、ベロベロと舐められる。

ヒィイイ・・・声にならない。


天井の人がゆっくり逆さになって降りてくる。

本棚の人は、少しずつ近寄りながら、いつの間にか幽霊の手招きポーズになっている。不覚にも少しクスリとしてしまった。


「ちょっ、多恵さん・・・」


「大丈夫よ」


何が大丈夫なんだろうか・・・くっ・・・


俺の指を咥えていたナニカが一気に俺の上に這い上がる。


そして、「早いですね。2発目は私でお願いします」と言った。


顔を髪の毛で隠した細身の・・・いや、ユーレイさん!?


髪の間から大きな目玉が見えた。少し可愛い。


「ギッヒヤアアアアアアア!」 多恵さん、絶叫。


「あ、気付かれた」


その後どうしたのかは秘密だ。

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