第5章 日本国帰還編
第148話 5章のプロローグ
<<サイレン ラボ>>
「おはよう。なのじゃ」
早朝の『ラボ』、そこに
ガイアナーテ・タマクローは、サイレンの軍施設に勤務しているが、たまに実家に帰ってくることがある。
彼女は日本人『ラボ』の仕事に興味津々で、実家に泊る際にはこうして『ラボ』にお邪魔するのである。
見た目に愛らしいガイアは、日本人達に人気で、まさにアイドル扱いであった。
その両耳には赤い小さなイヤリング。『ラボ』の女性より送られた、サンゴを加工して作られた作品である。グレーの髪で少し地味な感じを受ける彼女にマッチしており、最近のガイアのお気に入りであった。
「おはようございます。ガイアさん。昨日はこちらに泊られてたんですね」
「うむ。たまには実家に顔を出さぬとな。ところでカトウ、これは何じゃ?」
今日は、『ラボ』の代表加藤氏がいじっているものに興味を引かれたらしい。
「これは高速輸送艇の改良版ですね。まだ研究段階ですが」
「ふ~ん。空をもの凄い勢いで飛ぶんじゃろ?」
「そうですね。今はまだ多比良さんや反重力術者にしか扱えませんが、機械部分の工夫で制御が良くなる可能性があるんです」
「ほうほう。そうなると便利になる気がするな。だが、結局のところ反重力魔力がネックにならぬか?」
「そうなんですけどね。魔力の節約にもなると思うんですよ。操縦が楽になれば」
ガイアは技術話も好きなようで、この後勤務時間ギリギリまで加藤氏と話続けた。
◇◇◇
<<ラメヒー王国 会議室>>
「ふぅ~何とか日常に戻りつつあるか」
「はい、ラインは包囲と占領を解きました。ヘレナは事が事だけにまだ占領していますが、グ国関連以外でも不正の証拠がでるわでるわで捜査に時間が掛かっております。なお、派遣していたD部隊は解散させ、今は普通の生活に戻しています。今のヘレナは応援に来た通常軍のみで処理にあたっています」
「D部隊・・久々の出動だったな。我が国最強の裏部隊よ・・・」
「それから日本人から借りていた移動砦は返却して、彼らもようやく古城からの撤退を開始しております」
「そうか。ご苦労だった。ヘレナ伯爵は今どうしておる? ショックで倒れたと聞いたが」
「まだ病院に入院されています。元々高齢でしたから。さて、国王、これからあの地の統治をどうなさるおつもりか?」
「私は、あそこを国の直轄地にしたいと思う。次の閣議に上げよう。あそこは海洋都市国家ホゲェと隣接しており、外国との玄関口の一つだ。さらに、外国との緩衝地帯に接しており、今回、神聖グィネヴィア帝国の移動砦の侵入を許した。伯爵家に任せてはおけぬだろう。輸送に関しては良いモノが手に入ったしな」
「グ国産の最新鋭移動砦2基ですな。では国王よ、我が国はこれから中央集権を目指すのですかな?」
「早急な中央集権化は血が流れるだろう。それは避けたいところだが、輸送革命が起きたらそうも言っていられないだろうな」
「輸送革命、起きますかな?」
「起きる。日本人が開発した反重力ベアリングとモーター。それから、これはまだ極秘事項だが、魔王が高効率魔力変換器を開発したとの連絡が入った」
「それは、まさか・・・」
「高効率魔力変換器とは、例えば火魔力を反重力魔力に高効率で変換できるというものだ。これを反重力ベアリングとモーター、いや移動砦と組み合わせたら、理論上、かなりローコストで高速・大量輸送が可能になってしまう。だが、それには少々特殊な魔石が必要なのだ。その魔石を入手するには、人類未踏の地に踏み入る必要がある。だから、あの高高度で飛べる移動砦は絶対に欲しかったのだ」
「大量輸送ですと? なんと。それは人類の生存圏が一気に広がる可能性も出てきますぞ」
「そうだ。我が国は、それらの反重力装置の研究と製造に関しては進んでいるとみて良いだろう。この強みを生かしたい」
「・・・それら研究員の中には、日本人も居ます。彼らには、帰って欲しくないものですな」
「彼らは戦わせると異常な戦闘力を示すが、普段は非常に秩序を重んじる人達です。それに仕事は真面目で高い技術力を持っています。我が国にもすぐに馴染みましたし。よい関係を築ければお互い利益になると思われます。仮に彼らが日本国に帰ったとしても、よい関係を築くべきです」
「その通りだ。だが、我々は彼ら600人を一方的に呼び出した格好になっている。彼らが本国と連絡が可能になるのも時間の問題だ。そうなると、必ず我が国と日本国とで外交交渉が発生するだろう。我々に日本国と敵対する意思はない。何としても日本国と友好関係を結ぶのだ」
「次の外務卿はタマクロー大公が出馬されてますな」
「そうだな。これからの外交は、より一層、国家の運命が左右されるものになるだろう」
「まあ、この話はここまでにして、スタンピード位置は良かったですなぁ。マ国と共闘が出来ますぞ。これで去年に傷ついた戦力の回復が計れます」
「防衛作戦も決まったし城壁工事の予算も組んだ。これから一気に公共事業も発注されるだろう。それから、スタンピート討伐戦の参加者選定だな。事前募集ではなかなか立候補者が集まらなかったのに、スタンピートの場所が良いと分かると手のひらを返したように集まってきよる」
「仕方がないであろう。皆ぎりぎりなのだ。よし。では今日の会議は仕舞いにしよう」
◇◇◇
<<マンガ研究会>>
「事件に巻き込まれたツバメたちが戻って来ました。今回はヒヤッとしましたね」
「そうだそうだ。大金出すからって、出張コンサートにGO出したのに、そこで日本人拉致未遂事件が起きるなんて。というか、お客さんが犯人だったなんて。面倒な取り調べはあるし、ツバメの何人かは辞めるし、ほんと付いてないよ」
「そうなんですがねぇ。今後の話しなんですがぁ。日本に帰れるって発表があったでしょう? その件はどうするんです?」
「うむ。パクりがばれたらヤバイ。今後は自重する」
「会長、パクりという自覚はあったんですね。これからはどうするんですか?」
「演劇や歌のリリースの時には気を付けようってくらいで、他は変わらず。私は、日本に実際に帰れるのはもっと先とみているよ」
「ふむふむ。じゃあ、マンガの方もあと1作品くらい書けそうですね」
「そうだなぁ。前回は怪人キャッスルの娘もどきを出したけど、今度のネタとかあんの?」
「そうですねぇ。最近、巨女や性別が入れ替わるエロ鬼などお色気系が続きましたから、私としては禁断の恋当たりに戻したいですわね」
「あん? と、言うと?」
「ロリ・・・ここにヤツはいない。あの日本語がいつまでたっても上手にならない大金持ちは」
「そうか。最初の方にロリもどきは出したけど。具体的にはどんな?」
「やっぱり、人気の角付きの女性がいいですわね」
「ふむ。角とロリ属性を融合させる訳か」
「はい。ただし、ここではあえて、のじゃ系にはしません。それでは少しあざとすぎるので」
「どうすんの?」
「僕っ子はどうでしょう」
「なるほどね。まあ、いっか。角も短くして、ロリっ子を強調しよう。次回はそれで行こうか・・・」
◇◇◇
<<オキの大冒険>>
僕の名前は、オキ・ジマー。こう見えてもジマー家の姫だ。今年で16歳になる。角だってちゃんと生えている。まだ小さく短いけれど。
突然だが、最近何だか母が変だ。
いや、元々変な所はあった。
女性なのに女性っぽい格好は絶対にしないし、いい歳してるのに、いつまでたっても『のじゃ系』だし、態度と尻の太さは国内随一と揶揄されているし。
それに、僕は知っている。母の一人称だ。普段は『わし』と言うくせに、たまに『わたし』と発言しているのを聞いたことがある。どうも心を許した時だけ『わたし』になるようなのだ。
男を落とす時の必殺技のつもりなのだろう。
そんな母だからなのか、お父さんは僕が小さい時に逃げた。
実際はよく知らないけど、母が魔王だった時代に逃げるようにして国に帰って行ったらしいのだ。
僕が物心付いてからも、全く男の気配が無かった母だったのだが、最近何だが艶が出てきた。
母は、在ラメヒー王国全権大使として外国の王城に勤めているのだが、自分で空を飛べることもあり、ちょくちょく家に帰ってくる。
帰ってくる度に髪艶やお肌の質が良くなり、服装が少しおしゃれになり、宝石と呼ばれる綺麗な石を身に着けるようになったり、というか、若返っているんじゃないかってくらい美人度が増している。
さらには、いつも”つんつん”していた雰囲気がまろやかになった。
こんなことは初めてだ。
僕はピンときた。これは男だ。男が出来たのだ、と。
それから、学校で友人達から変な事を言われた。
魔王はブラック職業なのだと。
実は、僕は魔王に内定していた。これは母の強い薦めがあり、僕は別に国家公務員として働くのは嫌ではなかったので、OKを出したのだ。
というか、母も若いときに魔王に就任し、今ではご褒美職といわれる友好国の外交官になっている。母の悠々自適な生活をみると、まあ、やってもいっかな? くらいに捉えていた。
ところがどうだろうか。魔王はとにかく忙しいらしい。そのくせ名誉職だからお給料は安い。残業が多く、グ国から暗殺者は送り込まれてくるし、戦争にも参加しなければならない。さらに、魔道の研究や継承、極めつけは冠婚葬祭と外交交渉、国内のもめ事の解決、地方議員の愚痴聞きなど、一時の休みも無いくらいこき使われるらしいのだ。
そんなの冗談では無い。
でも、一度は魔王就任を承諾してしまったから、今更後には引けない。
僕は悩んだ。とても悩んだ。悩んだ末、円形脱毛症が出た。
そんな僕の心の事など何も気付かない母。どんどん綺麗になっていく母。対してドンドン円形脱毛症が大きくなっていく僕。
とどめはある日の母の一言。
『今度、家に多比良という者を連れてくるからのう』
何故だか頭が真っ白になった。
多分、男だ。新しいお義父さんを連れてくる気だ。
母は今は独身なんだから、別に再婚してもいいんだけど・・・
だけど、娘が就職で悩んでいる時に、幸せ一杯でカレシを家に連れてくるなんて。
何だが、1人になったみたいで寂しい。
黒い毛長ウサギをぎゅっと抱きしめる。
このウサギは僕のペットだ。
ガブ! 「痛ったぁ~~」
噛まれた。こいつ、飼い主である僕を噛みやがったぁ!
く、くそ。出て行ってやる。こんな家、出て行ってやる!
そうだ。お父さんに会いに行こう。
母とお父さんはもう他人だけど、僕とお父さんは血が繋がっているんだ。
お父さんに会って、甘えよう。
・・・・
脱出作戦は成功。嫌がらせのように、母がカレシを家に連れてくるその日に逃げ出してやった。
ふん。僕の魔術にかかればジマー領を抜け出すのなんて訳はない。
お父さんは、マガライヒ出身。僕の国、いわゆる『マ国』とは、マガツヒ国とマガライヒ国の2カ国を合わせて呼ぶときの俗称で、本当はその2国は別々の国。
僕はこれから自力でお父さんに会いに行く。お金はないけど、僕は魔術が人よりとても強い。何とかなるだろう。
決断してからは早かった。野生の走竜を捕まえて草原を走り抜け、途中で恐竜を倒してそれを食べながら、南へ南へと下っていった。
ジマー領から南へ500キロの位置からは、巨大な湿地帯が広がっている。そこは大自然が人を寄せ付けない土地。いわゆる人外魔境と呼ばれるエリアがある。
マガライヒの首都は、なんとその湿地帯の中に存在している。
なぜそんなところを首都にしたのかあまりにも謎だが、とにかく、お父さんはそこにいる。
半魚人のお父さんが。
そして今、僕の目の前には、その湿地帯が広がっている。
湿地帯といっても、大部分が川と湖が複雑に入り組んでおり、その周りに底なし沼が広がっている感じだ。
マガライヒに行くにはここを通過せねばならない。僕の適性魔力は水と雷と生物。反重力も使えるが、あまり長距離は飛べない。
立場的に移動砦便には乗れないので、必然的に途中の島嶼部まで自力の反重力魔術で飛び、休憩を挟みながら進む必要がある。
「・・・行くか」
やると決めたら実行あるのみ!
「とう!」
バシャァア!
「うわぁ! なんだ!?」
ザバァ、ザバァ! 水面からぬるりとした質感の何かが飛び出してくる。
「な、なんだこいつらは。まさか、まさか、リバーサーペント!?」
キシィイイイ! 「おわあ! こいつら、ぎざぎざの縞模様で距離感が掴めない」
ザバァ! バシャ! 真下から別の巨大な何かが口を開けて突っ込んでくる。
「しまった!」 クパン!
これは、丸呑みか? 何の反撃もできないまま・・・まずいまずいまずいまずい。
真っ暗闇の中、ぐいぐいと締め付けられる。息が出来ない。
さらに、水が入ってくる。僕を飲み込んだヤツが潜水したのか? くそ。
だが、負けるか!
まずは、空間バリア展開。水魔術、毒素生成。水魔術秘技、空気生成。そして、生物魔術秘技、仮死!
魔力が尽きて僕が死ぬか、お前が毒素に負けて死ぬのが先か、勝負だ!
僕はリバーサーペントの腹の中で毒素を生成する異物となって、眠りについた。
◇◇◇
<<徳済多恵と教頭>>
「教頭、いいわね」
「メッセンジャーですか。そうですね・・・」
「お願い! 日本に行って、メッセージを渡すだけでいいの。後はこちらでうまくやるから。皆もサポートするし、数日間の話よ」
「分かりました。お受けしましょう。これも子供達やそのご家族のためです」
「ありがとう。頑張って。きっと国民栄誉賞間違い無しよ! じゃあ、その時が来たら、細部を調整しましょう」
◇◇◇
<<多比良八重>>
さてと、これからは・・・
しばらくは冒険者の加勢と、それからケイヒンが刺客を送り込んでくることがあるから気を付けておかないといけないくらいかな。
できればマ国の軍師と連絡を取っておきたいけど。どうしようかな。旅行でラムさんと知り合ったから、紹介してもらおうか・・・でも旦那にばれてもいけないし、ううん。どうしよう。軍師の件は保留かな。
あと、ツバメのコンサートが少し少なくなってしまった。秋に大きいのヤルって言ってたけど、まだ先だし。
マンガ研究会のヤツラも日本に帰れる事が分かって、少し手を抜いているとみた。
苦情を入れておこう。
後は、日本と連絡が取れるようになってからか。さて、今日も
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