第140話 移動砦vs高速輸送艇 8月下旬
<<古城 湖面上空>>
「突撃!」
逃げようとする敵移動砦を、高速輸送艇が追いかける。
彼我の距離は1キロ以上あっただろうか。
移動砦はトップスピードに乗るまで時間がかかる。まだ湖の上にいる。
対して、こちらは最大時速400キロくらい出るし、加速性能が段違いだ。
猛スピードで相手移動砦に近づく。
途中砲弾が飛んで来るが、フェイさんが高度を上げ下げしてくれて、全く当たらない。
「ライトぉ~」
照明弾追加!
照らされた漆黒の正体不明艦の全体が露わになる。
敵移動砦を斜め上空から見下ろすと、外装が結構ぼこぼこになっている。屋上には倒れている人も見える。結構人的被害が出ているようだ。だからなのか、航空弾幕が少ない。
「よし、弾幕が薄い。1撃入れて魔力を抜きにかかる。フェイさん、輸送艇は任せた!」
「はい!」
この輸送艇には反重力魔力満載の500年物ゴブリンの魔石が仕込んである。もちろんこれも『魔王の魔道具』。
なので、フェイさんクラスの反重力魔術士であれば問題なく戦闘飛行ができる。
「システィーナ。榴弾1発撃て。フェイさん、榴弾撃ったら最大加速で敵の真上を通過」
「これだっけ?」「それ」「了解」
綾子さんが砲弾を探し、火魔力を入れてロングバレルにセット。
「了解!」 ドン!
直後、高速輸送艇が加速開始。
ドゴン! 榴弾着弾。
「おりゃ~~~~」
タイミングを合わせ、高速輸送艇からダイブ!
触手展開! 両手の中指に付けた謎物質の輪っかから、赤い触手を出現させる。長さは10mくらいだろうか。この触手の使用感、普通のロープのようではなく、ある程度自由に動かせる。
「「おお~~~!」」「素晴らしい」「あれが伝説の兵器」「なんと美しい」
敵移動砦から蛍光紫の幕が出現する。
出たな、広域魔術障壁。
「う、らぁああああ!」 右を思いっきり振りかぶる。 バチン!
「も、いっちょう!」 左の触手でも殴る。 バァン!
「うりゃあああ!」 触手を伸ばし、移動砦を障壁ごと掴み上げる。
バリバリバリバリ! 障壁が破れていく。そのまま移動砦本体に触手を回す。
この状態なら魔術を吸い取れる。要領は人にやるそれとあまり変わらない。
移動砦の屋上から魔術が飛んで来るが、片手の触手でなぎ払う。
直後、敵移動砦の屋上に大量の魔術の槍が撃ち込まれる。
百鬼隊が到着したか。
敵移動砦は沈黙。
反重力魔力も枯渇したようで、敵移動砦がゆっくりと降下を開始する。
下は湖だ。この速度で落としても大丈夫だろう。
上空から湖面に突き出た流木なんかが見える。あまり深い湖ではなさそうだ。
中に日本人がいないことを願う。
ザ、ザザン・・・バシャァアア・・・
「よし、百鬼隊突撃、内部制圧だ!」
ジマー家が誇る航空部隊達が次々に敵移動砦に突入していく。
近くにラムさんがいる。
「ラムさん、俺たちはもう1隻を探す」
「了解です。百鬼隊40はタビラ少佐に続け!」
ここの指揮はラムさんに任せ、敵僚艦探しに転進。
とりあえず、上昇して上空にいる高速輸送艇と合流する。
「お疲れ様です。タビラさん。運転代わります?」
「いや、フェイさん、このまま行こう」
この辺りは平地だ。移動砦が隠れるような場所はない。
古城北側に岩や小高い山が見える。
「フェイさん、あっちに行ってみよう!」 「了解!」
高速輸送艇を山の方に向け、加速させる。
・・・
後ろに百鬼隊を引き連れ、古城北、起伏のある地帯に到達。
「ここから死角になりそうな場所はっと・・・よし、糸目、あそことあそこに照明弾をぶち込め!」
「了解! はぁ~~~~~ライトぉ!!」
パガン!パガン! 空気が震える音がして、上空に2個の巨大な光球が出現する。
眼下に広がる険しい森が照らされる。
「いました! あそこの大きな岩の影です。まだ浮いていません」
確かにいる。漆黒の移動砦。タイプはさっきのと同じ。高さ20m級。
まだ結構距離がある。
「よし、システィーナ、綾子さん、砲撃準備。弾種は徹甲弾」「前田さん障壁準備」
「徹甲弾!? どれ?」「砲弾の先が金属のヤツ」「障壁了解」
「これね。貫通弾とは違うの?」「用途は似たようなもん。フェイさん。高度を落として前方をあそこに向けて。シス、照準が合い次第撃て。狙いは屋上の砲台」
「りょう~~かい!」
敵移動砦に近づきながら、輸送艇の位置を調整する。この機体、最早”輸送”艇じゃなくて艦載機かガンシップみたいだな。
敵移動砦から蛍光紫の光の膜が発生する。む、相手も気付いたな。
距離1キロ切った当たりで砲撃開始。
「かまわず撃て」 ドン! パン! 直撃。いい腕だ。
「すごいぜ! 相手の障壁を貫いたぞ」
「でも、爆発しないから制圧力がない」
本当は操舵室に向けて撃ったらいいんだろうけど、日本人がいる可能性があるし。
敵移動砦屋上からチカチカと光が見える。
「撃って来たな。フェイさん、ランダム軌道で近づいて! システィーナ。照準が合い次第撃ちまくれ。弾種は榴弾」
「了解。アヤコ、火魔術お願い」「分かった」
敵移動砦は未だ浮上しない。地上の人でも回収しているのだろうか。動かない移動砦なんて良い
ドンドン! ボン! ボン!
砲撃は2発命中。今度は完全に防がれる。榴弾では駄目か。今は輸送艇1機。火力が少し弱い。
「相手の魔術障壁、安定してるな」
「タビラ殿。地上から魔術攻撃です!」
「ん!」
地上からゆっくりと火の玉が上がってくる。
「あんな攻撃当たるか。フェイさん!」
「大丈夫です」
普通に当たらない。
ドゴォオオオオン!
攻撃魔術が上がって来た地上付近で大爆発が起こる。俺たちの攻撃ではない。
この爆発には見覚えがある。
「フェイさん、接近中止。上昇して」
後ろを見ると、俺たちの高速輸送艇より上空に、高速接近する飛翔体が確認できる。
「これはイセだろ。ん? 2人? なんだあの巨体は。まさか魔王? いや、何か背負っているのか」
「え、魔王様!?」
糸目の声が1オクターブ上がる。
そして、遠くから声が聞こえる。
「多比良ぁ~~~~~~無事かの~~~~~う。わしの獲物はどこじゃ~~~」
1つめの小さな飛翔体は、真っ赤なマントの鬼、イセだ。
2つめの巨大な飛翔体は、空飛ぶデブ、魔王だ。
魔王は、巨大なランドセルのような箱を背負っている。
その巨大ランドセルの左右には、ジニィとアルセロールがしがみついている。
一体、あのランドセルには何が入っているのだろう。
こちらに近づいてきて、合流する。
付近の百鬼隊の皆様がビシィと敬礼。イセも軽く返礼する。
古城
「こらぁ、イセ! 下に日本人がいたらどうするんだ。巻き込むなよ」
「すまん。すまん。手加減したから大丈夫じゃろ」
絶対に嘘だ。凄い爆発だったぞ?
「ぐふふふふ。あそこにいたのはグ国の奴らだけだ。僕の魔道具によればな」
そうなのか。理屈は分からないけど凄いな魔王。
というか、魔王が空を飛んでいる。きっとランドセルが空飛ぶ魔道具なんだろう。
「魔王、あの移動砦の中に日本人はいるか?」
「グ国のやつらしか居ないのである」
きっと、そういう魔術があるんだろう。信頼しよう。
ドン! ドン!
「撃って来た! 下からも撃たれてるな」
「あんな物、早々当たらぬ」
回避運動しながら何とか会話。
「イセ! 2手に別れよう。移動砦は俺が何とかする」
「ほう。では、わしらは下の魔道兵だ」
「了解、フェイさん、アレを使おう。急降下爆撃だ。回避行動を取りつつ上昇」
「了解」
イセ達と2手に別れる。
あの移動砦には日本人がいない。少し強力な技をお見舞いする。
・・・
敵移動砦に再接近しつつ攻撃準備。
「皆、弾幕を撃ちまくった隙に強力な一撃を入れる。システィーナ、降下中はロングバレルじゃなくて、お前のランチャーを撃ちまくれ。それから糸目、お前もサンダー」
「サンダーいいけど、私の魔力、ライトに取っておいた方がよくない? 広域ライトは燃費悪いのよ」
「魔力切れが心配か? それなら、この輸送艇の魔力を使え」
「え? でも、これって『子機』でしょ? 設定は反重力じゃ・・・」
「こいつは試作品、原始の炎入りだ。効率は悪い。あまり取り過ぎるなよ」
「原始の炎!? 本当だ・・・雷に変換・・・凄い! これならっ」
流石糸目。器用に『魔王の魔道具』から魔力を吸い取っている。
「綾子さん、そこの赤いライン入りの砲弾に火魔力注入」
「これね。分かった」
相手からドンドコ砲弾が撃ち込まれる。が、全く当たらない。
上空で高速移動する小さな飛翔体に、アナログな砲弾なんて当たるものではないのだ。
第2世界の対空兵器じゃあるまいし。
というか、移動砦の大砲は、通常、真上には向いていない。
当たったところで、俺のバリアと障壁要員の2重防御だ。何とか耐えると思いたい。
敵移動砦、上空に到達。ここからなら狙えるだろう。
「システィーナ! 急降下と共に攻撃開始! ランチャー撃ちまくれ! 綾子さん、砲弾をセットして。糸目、適当なタイミングでサンダー」
「「了解」」
「フェイさん! 急降下!」
「「「「うおおおおお~~~~~~」」」」
垂直急降下は結構怖い。バリアがごうごうと風を切る。
「3連ランチャー!」 空中に3本の細長い大砲が現われ、同時に火を噴く。
「サンダー!」 まぶしい閃光が敵を貫く。
ドンドン!ドン!パガン! ピシャン! ゴロゴロ・・・ ドンドンドン!
派手な火力で敵移動砦を釘付けにする。相手は着陸しているため、ほぼ命中だ。
だけど、蛍光紫の膜に包まれて耐えている。だが、広域魔術障壁はずっと張り続けることができない。
さて、相手の障壁要員と指揮官の腕はどれほどかな?
急降下しながらドンドコ撃ちまくる。
「よし、砲撃停止」
すると、すっと相手の障壁が薄れるのが見える。
「綾子さん、ロングバレル! ナパームだ!」
「うし!」
ドゴン! ボン! ゴァアアアアアアアア~~~~~~~~~
着弾後巨大な炎が立ち上る。
「よし、入った! フェイさん、水平飛行に戻して」
かなりのGを感じ、水平飛行に戻る。後ろを確認すると、敵移動砦の屋上からもうもうと炎が上がっている。まだ障壁でぎりぎり耐えているが、その障壁が無くなった時が最後だ。
これはナパーム。魔術障壁が切れた瞬間、炎と、貧酸素の空気がなだれ込み、中の人はやばいことになる。
この砲弾は、イネコさんのねっとりランスを参考にしたもの。
あの砲弾は、当たるとねっとりした溶岩になり、粘り強く相手を攻撃し続けるのだ。
こんなこともあろうかと、マ国で暇しているときに、ディーと一緒に開発したのだ。
「百鬼隊! 炎が弱まると同時に巨大水球を打ち込め! 一気に制圧する」
百鬼隊の分隊長さんが、指揮を執る。
「「おう!」」
敵移動砦上空に巨大な水球が形成されていく。準備に少し時間がかかる技のようだ。
「よし、俺らはしばらく上空で警戒するぞ」
「了解。照明弾追加~~~~」
パガン! 上空に輝きが戻る。
離れたところのイセ達に向け、高速輸送艇を進ませる。
・・・
「多比良。鮮やかな手並みじゃ」
「イセ! そっちは」
「沈黙させた。それにしても、移動砦を航空戦力で簡単に無力化するとはな・・・」
「ぐふふふふ。航空戦力が移動砦に勝利か。軍師が悩むだろう」
「アレは着陸していたからな。弾幕も薄かった」
「おじさん。あそこのモンスター!」
「システィーナ。今はモンスターなんて無視だろ」
「違うわよ。あそこのモンスター、目が赤い!」
「何? じゃあ、あの辺に人がいるってことか!? 森の中か・・・」
「むう・・・人はいるが、グ国のやつら以外も可能性があるのである」
魔王の索敵魔術、どうやら”人の存在”と、それが”確実にグ国人”かそれ以外しか分からないみたいだな。対グ国戦用の特殊な魔術なんだろう。
「確認するには白兵戦しかあるまい。どうする?」
「よし、俺達が行こう」
「気を付けよ。わしらは上空から警戒しておく。百鬼隊は多比良に続け!」
「「おう!」」
「綾子さん、システィーナ! とりあえず、あの一つ目巨人は榴弾で吹き飛ばせ!」
「了解」 ドン!
指示から発射までが早い。システィーナはともかく綾子さんの適応力も凄い。
ドゴン! 巨人が一撃で爆散する。凄い威力だ。俺が作った砲弾、こんな威力だったっけ?
入れる火魔力の質がいいんだろうか。
「高度を落とす。人がいないか散策する」
・・・
警戒しながら、巨人がいた付近まで近づく。地上から魔術攻撃は無い。
遅かったか? いや、僅かに声が聞こえる。
「フェイさん。輸送艇は任せます。百鬼隊は俺に続け! 森に入るぞ! 糸目、小さな照明弾を森の中に打ち込め。沢山だ」
「了解」
ぱぱぱぱぱ・・・・・・・・
無数の光球が森の中に出現する。それを見届け、俺は高速輸送艇から、森にダイブする。
バリア全開!
バリバリ、ガサガサ・・・木々の枝の間を強引に降りていく。
ぎゃぁ~~~うわぁ~~ 助けてくれぇ~~~
声が聞こえる。この感じは日本語ではない。
少しほっとしてしまう。
「タビラ少佐。あちらです。誰かが肉食竜に襲われています」
「なに? トカゲか・・・・は? デカいな。何だあれ。いや、恐竜なのか」
高さ3mくらいの恐竜がのっしのっしと歩いている。ちょっと怖い。
「少佐、あれはグ国の僧兵です。何だってこんなところに」
「僧兵? 諜報や斥候ではなく? 助ける対象ではないんだな?」
「はい。捕虜に欲しいですね。情報源にします」
「了解。相手はすでに総崩れだ。誰か捕まえるぞ」
シィイイ!! 「うわ!?」 バシン! シィィ・・
倒木かと思ってたモノがいきなり噛みついてきた。気配を全く感じなかった。
咄嗟に触手で切り刻んでしまったが。
「大丈夫ですか、少佐」
「大丈夫だ。びっくりしたぁ」
「油断なさらぬように。ここは、恐竜のテリトリーです」
「恐竜怖いな! ん? 誰かこっちに来ている・・・」
ぱぱぱぱぱ・・・・・・・・ 森の中に、追加で小型の照明弾が打ち込まれる。
ちゃんと俺の位置を予測して明るくしているんだろう。糸目、あいつは優秀だな。
「む? 女・・・だと。こいつらは・・・」
「は!? はあはあはあ・・・くっ、こいつらは、角持ちのゴミくずども。それに、日本人だと? まさか、情報が漏れていたのか? くそ。貧乏くじだ。爆弾を咥えたツバメの次はおっさんか」
走って逃げて来た男女。その中の一人に、
こいつらがグ国の僧兵?
「・・・聖女」
誰かが呟く。こいつが、聖女?
後ろの百鬼隊数名、彼らの周囲の空気が変わる。
これは、怒り、恐れ、それから
人が放つ強烈な憎悪。
それはどんな相手でも、あまり良い気分はしないものだと思った。
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