第135話 魔王の魔道具と百鬼隊 8月下旬

<<移動砦 動力室>>


魔道具が放つ光で照らされる中、少し真面目な話をする。


「今から話す内容は機密事項だ。他言無用。いいな」


「「「「はい!」」」」


今から、一緒にこの移動砦を運営していくにあたって、この移動砦の機密を共有することにする。

その機密とは、である。


その魔道具は、温泉アナザルームと比べるとそこまで高レベルの機密じゃない。

だが、今、ここにこれがあること自体は結構な機密だと思うのだ。とはいえクルーは知っておかないといけないことだ。


今、オルティナ、マシュリー、フラン、アルセロール、そして糸目も同席させ、機密のネタばらしを行う。ちなみに、護衛の3人組は部屋の外で警備。まあ、彼らはすでに知っていること。


ここに糸目を入れるかどうかは迷ったか、この艦に入れる限りは知らせておいた方がいいと判断した。

というか、こいつは魔術研究バカなだけで、それ以外は至って常識人だと思う。

例の事件の尋問後には、普通に釈放されているし、ここで雇うことにした時にもマ国側に何も言われなかった。まずい背後関係は、無いとみていいだろう。


「この移動砦は、いわゆる『魔王の魔道具』を搭載している」


「魔王様! いえ、ごめんなさい」


糸目の声が1オクターブ上がる。魔王に特別な思いでもあるのだろうか。

糸目は王宮魔導師の次席まで上り詰めた実力者。天才魔術士である魔王に思うところもあるのだろう。


「ここで言う『魔王の魔道具』とは、この度、魔王が新しく発明した、高効率で魔力が備蓄でき、かつ高効率で魔力変換ができる装置のこと」


「あのぉ~聞いたこともないんですけど?」


「新発明品だ。だから機密事項。いいな」


「はぁい」


今の間の抜けた質問は糸目。さすがの糸目も聞いた事がない魔道具らしい。


「まず、ここ、移動砦の動力部に設置しているこの巨大魔石は、あらゆる魔力を指向性のない魔力に変換して備蓄することができる。高効率で」


「はい? 指向性が無いって・・・いや、まさか・・・でも魔王様なら」


「魔王は、『原始の炎』と呼んでいた」


バッと糸目が目を見開き、巨大魔石をのぞき込む


「これが、これが原始の炎・・・美しい・・・ついに、ついに解き明かされたのですね・・・魔王様」


糸目が泣き出した。どうしたんだよ一体。


「あの、我々にももう少し詳しく説明願えませんでしょうか」


オルティナが恐る恐る質問を。

まあ、気持ちはわかる。糸目が邪魔したので説明が中途半端になってしまった。


「指向性とは、火、水、風、土あるいは反重力といった魔術の特性のことで、それが無いということは何ものでもないということになるし、何にでもなれるということらしい。要は、この魔道具に入力する魔力の指向性は何でもよくて、出力する際には任意の指向性で取り出すことができる」


「え? それって?」


「ぐずっ。馬鹿ね。あなたたちが得意な水属性の魔力が、高効率で反重力に化けるということでしょ」


「そういうこと」


「これは、レア属性魔力の増殖装置。しかも、これだけ大きな魔石だとどれだけ備蓄できることやら・・・美しい、なんて美しい魔道具なの?」


「そんな・・・それって・・・」


「ま、いずれこの発明はマ国の友好国のトップには知らされることになる。今後の使い道なんかは、偉い人が考える。今はあまり気にせず、ここに魔力を入れたら移動砦が動く、くらいに思っていて欲しい」


「私は待ちきれないんですけど? ねえ、少しいじってみてもいいかしら。研究とか」


「ダメだ。糸目。いい子にしていたら魔王に会わせてやる。研究の手伝いもできるだろう」


「う、うぐぐ・・わかった・・・」


「話を進めると、これが『魔王の魔道具』。移動砦用なので、要は移動砦の動力のバックアップと考えてもらえれば。で、みんなの余った魔力は、無理のない範囲でここに備蓄して欲しい。俺も入れるけど」


「は、はい。それは判りました」


「ここのキーは魔力認証キーだ。後で全員登録しておく。部外者は立ち入り禁止」


魔力認証キーは、指紋認証や顔認証の魔力版らしい。

便利なものがあるものだ。


「もう少し、この魔道具のことを教えて欲しいです。はい」


「そうだなぁ。この魔石は1300年以上生きた空母級モンスターのもの。これも今は機密だけど、長寿であればあるほど、また、魔石の格が上がれば上がるほど、魔力の交換効率や備蓄量が上がる」


魔石の格というのは、巨大モンスターの方が格上になる。例えば、ゴブリンが格下で空母の方が格上となる。


「1300年物の空母級って・・・なるほど。それなら、早く魔石ハントに出かけるべきです。キャンプなんか行っている暇は・・・」


「うん。魔石ハントは考えている。今回の旅行はこの移動砦の試運転みたいなものだ。キャンプの次は、人類未踏の地に挑む。そこで、長寿モンスターの魔石ハントを行いたい。なので、今回の試運転1回で移動砦の運用をものにしてくれ」


「「「「はい!」」」」


ちなみに、高効率と呼べるくらいの魔石は、最低でも1000年以上の長寿モンスターでないとダメなようだ。

1000年を下回ると徐々に効率が落ちていき、500年を下回ると極端に効率が落ちていくため、魔力装置としてはあまり役に立たない。

だが、変換機能を省き、備蓄限定ならば、『魔王の魔道具』とカップリングさせるととても優秀な魔力装置になる。なお、備蓄するの時には属性を指定することになる。反重力などに。


要は、1000年物以上の魔石が高効率魔力兼魔力装置、いわゆる『魔王の魔道具(親機)』。で、それに紐づけされた500年から1000年物未満の魔石が高効率魔力装置、いわゆる『魔王の魔道具(子機)』になる。


“紐付け”とは、その親機からしか供給できない子機ということだ。


今後の使い方として、『魔王の魔道具(親機)』を移動砦に設置し、『魔王の魔道具(子機)』を他の魔道具、たとえば高速輸送艇などに付けるなどした運用が考えられる。


ちなみに、魔力備蓄装置は、これまでも存在していたが、『魔王の魔道具(子機)』は、魔力譲渡の際のロスなどが桁違いに低く、効率が良いらしいのだ。


この魔道具の存在が明るみに出ると、長寿モンスターを狙った魔石ハントが一斉に始まると考えられる。


これまでの魔石ハントは、国民の安全のための間引きや、お金儲けのため、有力貴族が魔術戦闘装備のために大物を狙ったりすることはあったが、長寿モンスターを専門としたハントはお金が掛かりすぎてあまり実施されていないらしい。


だが、これからはこの特殊な魔道具生産のため、国策で長寿モンスターハントが行われる可能性が高い。さらに、1つ『魔王の魔道具(親機)』を入手してしまうと、反重力魔力が増殖できてしまう。そのため移動砦の運用効率が高くなり、加速度的に長寿モンスターが狩られてしまうと予測される。


なので、一刻も早く移動砦の運用を開始して俺も長寿モンスターハントを行いたい。


「ねぇ、ダーリン。私の部屋、ここでいい?」


「誰がダーリンだ、この糸目。まあ、部屋にする分にはいいぞ。綺麗に使えよ」


小部屋が1つ空くし、別にいっか。警備員代わりにもなるしな。


◇◇◇

<<大使館>>


「ラムです」


『だっちゃ』とか言いそうにありません。おっさんだし。


大使館に呼び出されて行ってみると、ラムさんというおっさんの鬼がいた。ナイスガイだけど。少しがっかりだ。


「多比良。おぬしがバッファ方面に行くと聞いてな。間に合わせた」


「そうだけど、何事?」


緊急でイセに呼び出しを受けてしまった。


「護衛じゃ。連絡要員でもある。ほら、先日、お主と創っただろ。10連の『シリーズ・ゲート』じゃ」


「ああ」


実験用とは別に創った実用版の『シリーズ・ゲート』。

俺用のも創るというので一緒に創った。ただ、俺用は10連も管理できないので5連にしたけど。増やそうと思えば後からでも増やせるらしいし。


この『10連シリーズ・ゲート』とは、なんとアナザルームを10部屋重ね掛けして創ったもの。

機能は、見た目1つのアナザルームをハブとして、なんと別々の場所10箇所に行き来できるという代物だ。

権限は、今回ジマー家が所有することに。すでに実用開始されているようだ。


対して俺は、5連『シリーズ・ゲート』を全く活用できていない。信頼のおける『ゲート・キーパー』が居ないのだ。1箇所を大使館に設置し、残りはフリーにしている。


なお、『パラレル・ゲート』と『シリーズ・ゲート』の所有権は俺とマ国で1:1で分け合う約束だ。今回は2個創ってそれぞれ1つずつ分け合った形にした。


機能が倍半異なるが、ジマー家のシリーズ・ゲートは俺との連絡用兼護衛も兼ねるということで、同じ価値として了承した。


ずいぶん、どんぶり勘定だけど。ジマー家としてはずっと俺の護衛を負担し続けるわけで、自分で護衛を雇う出費を考えると別にいいかな、と思ってしまった。

まあ、半分監視、いや、俺に対するビンの蓋なんだろうけど。利用できるものは利用させてもらう。


ちなみに、だが、これらのアナザルームは温泉アナザルームと違ってそらがない。真四角の壁で囲まれた部屋だ。

自由に壁紙を貼ったり家具を入れてカスタマイズできる。


それから、一体いくつアナザルームを作成できるのか、という疑問だが、当然上限はある。実験では100までは問題なく出来たらしい。

ただ、このアナザルームは、俺の魔術特性である並行属性を利用しているため、あまり作り過ぎると俺が普段行使する魔術に悪影響が出る可能性がある。

なので、当面は100個を上限にしている。


「こいつには、10ある扉の1つを任せておる。もし、何かあればすぐにわしやマ国に情報が伝わる。ついでに言うと、こいつは百鬼隊の分隊長。我がジマー領の兵士の一部を動かせる立場でもある」


百鬼隊。どこかで聞いたような・・・


「ん? ということは、俺に何かがあると、軍隊出動が出来ると言うわけ?」


「そうだな」


「何かめちゃくちゃ物騒なんだけど。これがばれたら警戒されそうだ」


「一応言っておくがな。アナザルーム自体は術者がそこそこおる。1人だからとなめてかかると、そこからわらわと敵が出てくるおそれがある。敵を1匹でも入れるとそういう危険があることを覚えておけ。諜報戦は重要なんじゃ」


「ま、まじかぁ」


「まあ、普通のアナザルームだと、ただの部屋だがな。それを使って奇襲しようとする場合、襲撃者はずっとその部屋に待機しておらねばならん。まあとにかく、今後は国境地帯や人類未踏の地に行くのであろう? 護衛、連絡要員のために、そいつを連れていけ」


旅のお供にラムさんというおっさんの鬼が加わった。

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