第134話 八重垣神社の御利益とザギィ流の新技 8月下旬
「さてと。アルセとツツは今から俺とお散歩」
「は、はい。私は旦那様の護衛ですからね」
「そうだな。移動砦を入手してからは本来の護衛のフェイさんとヒューイが、移動砦そのものの護衛になっているからな。キャンプ中はツツも広域魔術障壁要員になるし」
「お散歩って何処までけろ?」
「そうだなぁ。何処まで行こうか。とりあえず、お庭を散歩するか」
「はいけろ!」
俺、ツツ、アルセロールの3人でバルバロ邸の庭を散歩する。
「ところでここの日本庭園は凄いよな。本物の川と池があるし、神社もある」
「ほんとですよね。湧き水らしいですが」
「水があそこの丸い池から湧いているらしいな。ほんと不思議だ。多分、北に見える巨大な山脈からの地下水なんだろうけど」
湧き水の所まで歩いてみる。湧き水の池は、直系10mくらい。水深が10m以上あり、透き通った水の中に小魚の遊泳が見える。
池の周りにはちゃんと転落防止用の柵が作られている。
「綺麗けろ・・・こんなに透き通っているなんて」
「そうだな。水深が深いから覗くとぞっとするけどな。お? 何だあれ。あの動いているやつは。岩かと思ったけど生き物だよな」
「アレは巨大サンショウウオけろ」
「ほう。サンショウウオなのか。日本のオオサンショウウオもでかいけど、こいつもでかいな」
よく見ると湧き水の穴だけではなく、流れ出ている川の方にも結構いる。こいつら、ここで何食って生きてるんだろうな。
「さて、神社にでも行くか。そういえば、俺もまだお参りしていないな」
「神社って日本の宗教的建物なんですよね」
「う~ん。間違ってはいないけど。そこまで堅苦しくないというかなんというか。その辺に自然とあるもの的な? まあ、別にここをくぐったからといって神道に入信するわけでもないし。3人でお参りするか」
「『自然とある』けろか。奥が深い・・・」
3人で鳥居の前に立つ。
『八重垣神社』の文字
「さて、ここで一礼」
「はいけろ」
鳥居をくぐる。
「でだな、ここの水があるところで手と口を清める」
少し進んだ先の手水舎で、使い方をやって見せて説明する。
「参道は一応、真ん中を歩かない」
「ふむふむ。なんでけろ?」
「そこは神様が通るからだ」
3人で社までの参道をてくてく歩く。
社の前に立つ。
「さて、ここではお賽銭といって、心ばかりのお金を入れる。今回は俺が1000ストーン魔石を入れよう」
カラン! 魔石を賽銭箱に投げ込む。
「でだ、俺が今からこの鈴を鳴らすから、二礼二拍手一礼をして祈りを捧げる」
「二礼二拍手一礼?」
「まあ、やってみせるから真似してみてくれ。そして、最後の一礼で神様への感謝と自分の名乗り、それから願い事を伝える」
「え? 願い事けろ? 願い事叶えてくれる系の神様だったけろ」
「そうだな。『ありがとうございます神様。私はどこどこから来た何々です。どうか、丸々という願い事がかないますように』って感じで祈る」
「分かったけろ」
「じゃあ、金を鳴らすぞ」
じゃららん!ららん!
ゆっくり二礼二拍手一礼をし、黙祷する。
『ありがとうございます神様。私は日本からきた多比良城です。どうか、皆健やかに過ごせますように』
「タイガのアルセロールけろ。男が欲しいけろ。ぜったい処女を捨てるけろ。神様願いを叶えてけろ~~~」
「・・・おい、アルセ、声に出す必要はないんだぞ?」
とりあえず、お祈りは済ませた。だが、ここの神社には別の楽しみ方がある。それは占い。
聞いた話では裏の小さな池に紙を浮かべてお金を乗せる。そして早く沈んだら願いがすぐ叶うという占いがあるらしい。一度行って見たかったのだ。
「と、言うわけで、今度は占いに行くぞ」
「占い?」
「そうだ。願いが叶うかどうかを占うんだ」
神社の裏手の林の中。小さな池の前にやってきた。すでに紙とお金が結構な数沈んでいる。
「ここに置いてある紙を水に浮べてだな。その上に100ストーンを乗せる。そして沈む位置や速さで占うらしい」
「へぇ~」
「では早速やってみるか」
3人それぞれ紙を浮べてお金を乗せる。
すぅ~~と紙が動き出す。
「すぐ沈んだけろ」
「おお。近くに沈んだら自分や身近な人の事を指す。そして遠くに沈んだら他人。沈む速さは縁が訪れる速さを示すんだったか」
「じゃあ、わたしは、すぐに自分の願い事がかなうという意味けろ?」
「占いではそうなるな」
「あ、私のも沈みました」
「俺のも沈んだな。俺とツツは中くらい? まあ、ここはこうやって楽しむものだ」
「さて、ここは誰の人目も無い。そろそろ行くか、ツツ」
「はい。そうですね。ここなら良さそうです」
「よし。アルセ。御姫様だっこをしてやろう」
「けろ? いや、旦那様、わたしは重いけろ」
「大丈夫だろ。お前くらい」
反重力魔術は他の人に作用しないわけではない。石などと比べてあまり軽くならないだけで。それに身体強化で人の重さくらいはどうとでもなる。たとえアルセロールが巨女であっても、石の重さに比べれば誤差レベルだ。
「そ、そうけろ? 嬉しいけろ・・・」
「よっと。まあ、このくらいは娘を抱っこするより軽いな」
近寄って来たアルセロールを御姫様抱っこして上下に揺する。
「だ、旦那様ぁ・・・」
アルセは身長190近い巨女。抱き上げると目の前に迷彩柄の双丘がそびえ立つ。
「よし。アルセ、良いって言うまで目をつぶっててくれ」
「はい・・・」
俺はツツに目で合図を送る。
神社の裏手のさっと扉が出現する。
その扉を一瞬でくぐり、『シリーズ・ゲート』用アナザルームに到着。神社に作った扉はさっさと閉じる。
そして、一気に王城のマ国大使館行きの扉をくぐる。
・・・
「わお! その人ね。確かに」
「確かに、デカいな」
「だろ。顔も結構似てると思うんだけど。おい、アルセ、もう目を開けていいぞ。皆を紹介しよう。それから鬼の面を取れ」
「うう~ん」
「おい。アルセ」
アルセは、俺の首に回した腕をぎゅっと閉じる。俺の顔が巨大な胸に埋没する。意外とふわふわしてて気持ちが良い。
「ぶお。やめろアルセ、苦しい。というか早く降りろ」
しゃがんで足を地面に付かせる。だが、こいつはなかなか自分の足で立とうとしない。御姫様抱っこが気に入ったようだ。まるで子供だ。
「けろ~~~ろ!?」
やっと観念したようだ。
目を開けたアルセはそのまま固まっている。そりゃそうだろ。目の前には自衛隊服と黒い編み上げブーツを身に着けた桜子と、イセにジニィがいるのだから。
「貴方がアルセロールさんね。私はスマイリー」
「アルセロール。お前に特命を与える。お前は俺の護衛をしながら、時々、このスマイリーと入れ変わるんだ」
「け、けろぉ?」
「まあ、まずは自己紹介からだな」
・・・
「と、言うわけでな。こちらがスマイリー。こちらが、元近衛兵にして勇者の元愛人、アルセロール・タイガだ」
「勇者って、島津くんの愛人? え?」
「その話はやめて欲しいけろ。それに、愛人は首になったけろ。だいたいヤッてはいないけろぉ~~」
「そ、そうなんだ。けろ?」
「その調子だぞスマイリー。アルセと入れ替わるために、タイガ弁をマスターしないとな」
「け、けろ」
「でだ。アルセの方は立ち振る舞いをスマイリーに併せると。うむ。完璧な計画だ」
「ごめんね、アルセさん。私がわがまま言ったの。ラメヒー王国に行きたいって。私はちょっと、あっちでは顔を出せなくて」
入れ替わりではないと、桜子を知る人物はピンとくるだろうからな。
仮面を被せていても、俺がいきなり巨女を連れてきたらみんなびっくりするだろう。
「いやいや、スマイリーさんと旦那様のためなら何でもするけろ」
「まあ、今日は適当に仲良くおしゃべりでもしててくれ。2人とも年が近いしな」
「うん。私の身長と同じくらいの女性なんて始めて会ったかも。顔も似ているし」
「わ、わたしもけろ。小さいころから体が大きくて結構悩んだけろ。それに、まさかスマイリーさんとお知合いになれるなんて光栄けろ」
アルセと会った時のスマイリーは中身俺だったんだけど、まあ、面倒なので暴露しない。
今はお昼過ぎなのでまったり過ごす。
「じゃあ、わしと多比良は仕事をしてくる。お前達2人はのんびり話でもしておれ」
「はぁ~い」
・・・
ゴスゥ!
温泉アナザルームに着くと速攻でヘッドバットされる。
「よし、多比良。わしは少し仕事に行ってくるからの。元気でな、わしの体・・・」
イセはどこかに行ってしまったので途端に暇になる。さて、王城をスカートでうろついて若い兵士でもからかいに行くか。
ん?
大使館に戻るために後ろを振り向くと、ザギさんが満面の笑みで歩み寄ってくる。
でも、何か変だ。
「あのぉ、おじさん?」
「はい、何でしょうか・・・」
「ザギィ流シュイン術とはどういう意味でしょうか?」
「あ? え? 何? はて、何だっけなぁ?」
いや、アレはノリで発言しただけなんだ。なんで知ってるんだ? え? 怒ってる? ザギさん怒ってんの?
「新技・・・試しますからね? いいですね?」
「・・・はい」
俺は、速攻で剝かれて洞窟風呂に連行されていった。
◇◇◇
その夜。
桜子は日本に帰り、イセの体とザギさんが第12ラウンド当たりの戦いを繰り広げている頃・・・
「ホレ。ほおうれ。ほおうれ。ほれほれほれ。この頭の中は、ヤルことしか考えておらんじゃないか。この雌め。こうしてくれるわ!」
「ああ、い、イセ様ぁ、だんなさまぁ~止めて、やめてけろ~~」
「全く嫌がっとらんじゃないか~~~お前も多比良の女になれやぁ~~おらぁ~~~~」
「けろぉ~~~~~~~~~~~~」
大使館にタイガ弁が響き渡る。
早速神社のご利益があったようだ。
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